123.急襲者③
「エッ!!??」
エルム王子はじめ、ジェイバー、オリバー様まで驚天動地の表情だ。
「うっ… そんな、ヒドイですリリー様… っ 」
肘鉄をくらった護衛Aが呻きながら異を唱える。
(護衛Bは意識を失っている)
「リリー様、確かにコイツはかなり前から王城に務めている騎士です。私も面識があります。
勤務態度は真面目で、暴漢と結託するような奴ではないと思います」
オリバー様が言いにくそうに進言する。
「えぇそうなのでしょう。
こちらの皆様は全員、この街のゴロツキや物盗りの類ではありませんもの。
悪漢が護衛に擬態したり、紛れ込んだのではないと思います」
リリーは肘鉄が浅かったことを後悔しつつ、逃げられないよう細心の注意を払う。
「皆様の狙いは、私だったのでしょう?」
リリーは護衛Aから目を離さない。
Aは目を見張り、瞳に動揺の色を宿す。
「一人で走って行かれたピンゼル様は無事ですし、護衛が居るとはいえ、大の男が5人もいて、誰も王子様の方に見向きもしない。
王子の服や持ち物についている、遊んで暮らせるぐらい高価な装飾品に目もくれず、近付きもしませんでした。
あと、普通なら王子の護衛が、婚約者である私のために反撃に出るかもしれないから、護衛の方にも注意を払う必要があります。
でも、彼らは護衛の方を全く見ることはありませんでした。
不自然な程に。
何故なのでしょう?
それは、護衛達が私を守って戦う可能性が無いことを、確信していたからです。
志を同じくする、仲間だったのですから」
エルム王子は静かに唇を噛む。
リリーは護衛Aに近づきながら続ける。
「また、仮に物盗りや強盗なら、基本全員が刃物を持っている筈ですわ。
貴族のか弱い子ども達を脅すには、効果的ですもの。
暴れたら殺すのにも最適でしょう。
でも、実際刃物を持っていたのは1人だけ。
あとは棍棒を持っている人が2人と、他は丸腰だった。
多分、殺すようなつもりはなかったのでしょう。
ちょっと棒を振り回したり刃物をチラつかせて、私を怖がらせるくらいが今回の想定だったんじゃないかしら」
リリーは護衛Aの前に立ち、聞いた。
「ねぇ、
誰に、何のために私を脅すように頼まれたの…? 」
護衛Aは答えず、黙秘の構えだ。
「この人は、こいつに目で合図を送っていたよ」
トゥシュカ様が、昏倒している護衛Bを、早くも5人の縄に加えて縛り上げながら言った。
「僕がピンゼルを見つけた後、リリーさんを追いかけてこの路地に入った時、真っ先に見たのが、この人(護衛B)がこいつ(最後の棍棒男)に目で合図している所だったんだ。
間一髪間に合って良かったよ」
なるほど。
トゥシュカ様が護衛を敵と見做したのは、それでだったのか。
リリーは納得し、同時に鮮やかな立ち回りを思い出して、今更ながらポウっとなる。
「あっ、先程は無我夢中でお礼も言えず、申し訳ありませんでした。
助けて頂いて、本当にありがとうございました」
リリーが慌てて感謝を伝えた。




