121.急襲者①
「お前達! 誰だ!」
エルム王子が背後に気づいて声を上げるが、男達は動じる様子がない。
これが世に言う、悪漢かしら。
全部で5人か。
じりじりと距離を詰められている。
治安が良いと聞いていたのに…
ただ、よく物語に出てくる破落戸や悪漢はニヤニヤした顔が基本だけど(リリーのイメージでは)、この悪漢達は真剣そのものの表情だ。
意外ね。
リリーがそんなことを考えていたら、悪漢の一人が飛びかかってきた。
すると、リリーの前に飛び出した王子が、両手を精一杯広げて、リリーを守ろうとする構えをとる。
リリーは若干胸がキュンとしないでもなかったが、丸腰で敵う相手ではないことは一目瞭然なので、
王子の服を引っ張って押し倒し、床に伏せさせながら、懐の剣を引き抜いて拝借した。
迷わず水平に剣を振り切り、相手の鳩尾に叩き込んだ。
「ングフッ…!」
息ができないのか丸まって呻いている男の脇から、また違う男が掴みかかる。
「チビが、調子に乗んなよ!」
リリーはその手をひらりとかわして跳び上がると、空中で一回転し、爪先で男のこめかみを思い切り蹴り飛ばした。
ガツッ ズダーーーーーン
「ぐわぁぁぁ!!」
こめかみは急所なので、結構痛いだろうな… ゴメン…
あっ
さっき倒した男が起き上がりかけていたので、着地したその足で跳ねて方向を変え、上から後ろ首を蹴り弾いた。
男は顔から地面に叩きつけられ、声もなく静かになる。
リリーがようやくトスンと着地し、残りの3人を見据えると、普通の令嬢ではないと分かったらしく、男も刃物を出してきた。
王子は床から起きて座ってはいるが、どうして良いか分からず、焦りの色を浮かべる。
「お前達、僕は良いから、リリーを守れ!」
王子が両脇を固めている護衛に命令するが、護衛は勿論王子死守の姿勢で動かない。
王子が立ち上がろうとすると、護衛は押し留め、無茶をしないよう諭す。
「なぜだ! リリーが、リリーが危ない!」
王子は悲壮な声を上げるが、護衛は首を振るばかりで、リリーの加勢には断固として回らなかった。
悪漢トリオの中の大柄な男が、リリーに剣を振り上げる。
剣身で受け止めたリリーの腕には、さすがにビリビリと振動が響いた。
これは何回も受けたらさすがに握力が無くなりそうだ。
拝借した王子の剣はリリーのレイピアより重いので、扱いにくいのもあり、剣戦が長期になるのは避けたかった。
「そら!」 「ほれ!」 「よっ!」
大男は、リリーを誂うように剣を振り下ろす。
リリーはすんでの所で避けてかわしながら、姿勢を低くし、頃合いを見てシャッと脛を切りつけた。
「ぃつっ…! こンのガキが!!」
沈み込むリリーを掴もうと伸ばしてきた手を逆に掴み、思い切り引き寄せる。
こちらに来た顔を両手で包み込み、眉間に膝をお見舞いした。
「ぁあぁあぁあぁぁぁ」
眉間やこめかみなどの皮膚と骨が近い部分は、筋肉が少なく、鍛えようがないためどんな大男でもダメージを与えることができるのだ。
今度は長身の男が襲いかかる。
太めの棒を振り回し、殴ろうとする動きだ。
しかし動きが雑で隙だらけ。
リリーは地を蹴って宙に浮き、男の顔の高さまで飛ぶと、回し蹴りで眉間をぶっ飛ばした。
ダダーーーーーーーーン
後頭部から壁に激突して昏倒する。
「危ない!!!」
王子の声がして振り返ると、最後の男がリリーの背後で棍棒を振り上げていた。
しまった!
一瞬反応が遅れたことを反省しつつ、これから来る衝撃に備えて身を硬くした。
しかしなかなか痛みが来ないので薄目を開けると、
男の棒を片手で受け止めて微笑む、トゥシュカ様がいた。
「お転婆が過ぎませんか、お嬢様」




