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117.王国観光①

さすがに警備や来訪許可に丸一日いるということで、翌日はお出掛けができなかった。





その翌日。


王城のティールームには、リリーはじめ、ピンゼル様、エルム王子、オリバー様、ジェイバーに、トゥシュカ様が揃っていた。

外には今日の護衛につく騎士団が並んで待機している。



 … ?




「リリー、今日はトゥシュカ様も同行することになった。

今日の許可を父に相談する際、せっかく王国にいらしたのだから、トゥシュカ様も視察や公務ばかりでなく、観光する日も必要だと言われたんだ。」



金色の瞳と目が合って、トゥシュカ様がにこりと笑った。


途端に騒がしくなる胸を押さえながら、平静を装って頷いた。

今日のトゥシュカ様は巻布スタイルで、また見たことのない服だけど、よく似合っている。




今日の観光は、ピンゼル様のための特別観光だから、対象年齢が低めに設定されている。

トゥシュカ様も楽しめるかしら…


リリーには一抹の不安が浮かんだ。





【リリー子連れ旅のしおり必勝法】

①体験系を盛り込むべし


リリー一行が最初に向かったのは、プレリー牧場だ。


王国には大きい牧場が5つあるが、昨日問い合わせた所、リリーが希望することができると返事をくれたのはこの牧場だけだった。


ここなら王都からも近いし、比較的新しくて綺麗だから尚のこと良かった。




「公子様達は、御自分で牛や山羊の乳を絞ったことはありますか?」


馬車の中で、リリーが尋ねる。



「いいえ、ありません。 考えてみたら、自分の目で見たこともないですね」

トゥシュカ様が顎に手をあてて考える。



「僕も無いよ〜」

もちろんピンゼル様も無いらしい。



よしよし。




牧場では、乳搾りとバター作りの体験をしてもらう予定だ。 


この牧場は老夫婦が営んでおり、息子一家と孫が手伝う親子3代経営の牧場だ。

最近、息子一家が代替わりを前に牛舎と山羊舎を建て替えたらしい。

その際に、まだ小さい孫が安全に乳を絞れるよう、枠や小屋の造りを工夫したとのことだった。




ぶるるん!

ブォォーン!



「リリー! めっちゃ怒ってるよぅ!」

ピンゼル様の情けない声が小屋に響く。



先程、牧場主のムッカ様から乳搾りの方法を伝授され、親指から順にキュキュっと絞り出すよう教えて貰った。



牛の足がこちらに飛んでこないように、小屋には白い間仕切りの板がちゃんと有り、しかも牛は手足を枷で固定されて振り上げられないようにされているのに、ピンゼル様は及び腰で、手を近づけられないでいる。



「仕方ありませんねー」


リリーがお手本を示す。

リリーが指を重ねて順に締めると、小指の下からピーッとミルクが飛び、下のバケツに溜まった。



「リリーすごーい! 上手!!」


別にリリーだって経験豊富ではないが、百合子だった時、休日にはこういう所へよく連れていって貰っていたので要領は分かっている。



「こうやってミルクはできるんだ…」

ピンゼル様はバケツに溜まるミルクを目を丸くして見ている。



「で、では、次は僕が… 」


ピンゼル様と同じくらい及び腰だったのは、実はエルム王子だった。



そろっと手を伸ばすが、



ぶるるるっ  ブモォォー

「うわっっ!!」


ちょっと牛が鳴いただけで飛び退く有様。

やはりうちの王族も動物に関わる機会が少ないのだろう、全然触れない。



「ハハハ、ダメじゃん王子!」

ピンゼル様はこれ幸いと王子を馬鹿にしている。

エルム王子はトホホ顔だ。

オリバー様に慰められている。




横からスッと近づき、牛に静かに触れる手があった。

トゥシュカ様が優しく指を動かすと、綺麗な線を描いてバケツにミルクが飛び込んだ。




「大丈夫だよ、ピンゼル、おいで」

トゥシュカ様が手招きをしてピンゼル様を呼び、一転して表情を引き攣らせたピンゼル様を前に据え、手を被せて一緒に乳搾りをする。



「あっ 出た 出た!!」

2人の手の下からミルクがバケツに落ち、ピンゼル様は大喜び。


「牛のお乳は、あったかいんだね」

ひとりでも触れるようになり、牛の体温を感じて撫でてあげている。



そして、ドヤ顔でエルム王子を見上げた。



エルム王子は更にトホホ顔になったが、リリーはトゥシュカ様のような補助は行わないので気づかないふりをした。



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