115.SIDE ピンゼル公子④
翌日は食事を口実に、リリーに会うことができた。
食べたくないとワガママを言い続けたら、世話役の人が勝手にリリーを呼んでくれたのだ。
グッジョブ!
リリーが作ってくれたグラタンは、チーズがたっぷりでトロッとしててすごく美味しかった。
僕、チーズが大好きなのだ。
唐揚げといった、チキンの料理も、食べたことの無い味だったけど美味しかった。
リリーは本当にすごいなぁと感心しながら、ぱくぱく食べてお腹がいっぱいになった。
リリーともっと遊びたくなってそう言ったら、王子の名前が出た。
途端に嫌な気持ちになった。
でも、王子の許可がなければ外出ができないことは分かるから、仕方なく了承する。
明日を楽しみに、リリーと分かれて廊下を歩きながら、そういえば何故2人が婚約したのかが気になった。
急いでエトッフの部屋に行き、馴れ初めを尋ねてみるが知らないというので、頼んで王城の人に聞いてきて貰った。
戻ってきたエトッフの言うことには、リリーの父様が、数年前のカルトン共和国との戦争で立てた武勲の褒賞として決まった婚約だったそうだ。
リリー本人も言っていたが、本当に幼少期から病弱で、屋敷から出ることは無かったらしい。
だから、婚約が決まってからほんの最近まで、王子とリリーに接点はほとんど無かったみたいだ。
2人の婚約が、お互いに好きあって結ばれたものではないと知って、なんだかほわっと温かくなった。
それと、最近まで屋敷から出られない程身体が弱かったリリーが、あんな活発に動けるようになるためにした努力を思うと、胸が軋んだ。
運や生まれではなく、なりたい自分になる努力をする。
僕は、メイド達に陰であんな事を思われていることや、家族から期待されていないことを知ってショックだった。
何もかも嫌になったけど、そこから殻に籠もって周りを拒絶するだけで、何も変えようとしなかった。
結局現実が認められなくて逃げていただけだった。
リリーに、敵わなくて当然だ。
とぼとぼと自分の部屋に戻る途中、視察から戻ってきていた兄さんと出くわす。
「っ… 」
兄さんのことをすっかり忘れていた。
僕が遊んでいる間も、外交や視察で忙しくしていのだろう。
僕のワガママに付き合わせてしまっていることが、気まずくて下を向いた。
「楽しそうにしているようだな」
声をかけられ、ビックリして顔を上げた。
兄さんは優しい顔で微笑んでいる。
「この国には、すごいご令嬢がいたものだな。僕も驚いたよ。
来てみて、良かったな」
くしゃりと頭を撫でて隣の部屋に入っていった。
頭を撫でられたのは久しぶりで、でももう嫌な感じはしなかった。
その夜は、久々にぐっすり眠ることができた。




