114.SIDE ピンゼル公子③
「ピンゼル様、私もそのボール遊びに加えて下さいな」
突然女の子はそう言った。
あの服は、イパロン兄さんが最近製布工場で開発している布で作った服だ。
公国の事業紹介のために持たされた荷物の中にあったけど、あの子の手に渡ったのか。
あれは糸と織りの組み合わせで伸縮性があるから、多少のサイズ違いはカバーできるため、オーダーメイドでなくても作れ、今後は国民のために安価で大量生産をしようと計画されている。
でも、彼女が着ると一級品の絹布のように映る。
くるりと回ると、身体に添ってなめらかに巻き付き、裾がふわりと広がった。
意味が分からず困惑していると、彼女は満足そうに服をつまんだり撫でたりしていたが急に走り出し、
しかも見たことない動きをして、目の前まで飛んで転がってきたのだ。
なんなんだ、この動きは??
この国の子女は皆、こんな軽業ができるのか。
いつか本で見た、遠い国の"忍者"みたいだ!
座り込んでいた僕は、驚きにお尻の痛みも忘れて、請われるままにボールを渡した。
そこからは、夢のように鮮やかで、激しい舞を観ることになる。
公国、いや大陸を探しても、こんなに見事に宙を飛び回る舞は無いんじゃないかと思ったが、この国ではどうか分からない。
鳥のように飛び、蝶のように翻り、床に降りるときにも、ひらりとして体重など無いように音を立てない。
シャンデリアが反射して、指の先まで光るようだった。
しかも、最後はリボンで目隠しをしても美しく踊るのだから、もう何も言えなくなった。
僕の暇つぶしのボールが、至宝の珠のように輝いて転がったり撥ねたりする様を、ただただ眺めていた。
晩餐会の後、結局兄様は僕に何も言わなかったけど、なぜか気にならなかった。
それどころではなかったからだ。
翌朝、エルム王子が朝の挨拶に来た。
何も楽しいことなんか無いのに、にこにこと笑みを浮かべた顔は、公宮の官僚達を思い出させた。
気持ち悪い。
疲れたから放っておいてくれと突き放しながら、ふと思い出して昨日の女の子と話してみたいと言ってみた。
「リリーのこと?」
気易いその様子に、あの子はこの王子の婚約者だと紹介されたことを思い出す。
何故か胸が更にムカムカしたが、
「そうだよ。呼んでよ。
あぁ、君は来なくて良いからね」
と言えば、
「えっ… 」
悲しい顔をする。
これ以上話したくなかったので、
「じゃぁ、よろしく!!」
と言って部屋から押し出し、扉を閉めた。
昼過ぎに彼女、リリーが着いたと知らせがあった。
昨日は何か負けた気になったから、ちょっと悪いと思ったけど、さすがに力なら勝てると思って剣の勝負を持ちかけた。
それなのに、全く掠りもせず、秒で弾き飛ばされてしまった。
本当に、どうなっているんだ。
悔しかったけど、昨日も今日も僕に変に気を遣ったり手加減しないでくれるリリーのことを、とても好きになっていることに気づいた。
どうしたら明日も会える?




