111.ピンゼル公子の攻略法③
「そういえば、エルム王子様はいかがされていますの?」
何気なくリリーが口にすると、お腹がふくれてまったりムードだったランチ会の雰囲気は、一気に凍りついた。
?
皆斜め下から視線を上げようとしない。
なぜ??
確か、前に聞いた話では、年の近いエルム王子様が、ピンゼル様をもてなしたりお相手をされるという予定だったはず。
しかし昨日も今日も、姿を全く見ていない。
「知らないよ、そんな奴」
急に不機嫌になったピンゼル様が、ぶすくれた顔で吐き捨てる。
おやおや… 喧嘩でもしちゃったかな。
とりあえず仲良くできていないことだけは分かった。
ウーン…
何があったかは分からないけれど、王子は責任感が強い人だから、お役目が果たせてないことで塞ぎ込んではいないだろうか。
少し心配になる。
沈黙が続き、ソワソワしだしたリリーに、ピンゼル様が、
「ねぇねぇ、そんなことより、どこかへ遊びに連れてってよ!
この国の楽しい所に行きたい」
ワガママ公子が急なおねだりを炸裂させた。
というか、こういうのに対応する係がエルム王子なんじゃ…
世話役のおじさん達を見上げると、彼らはスイッと視線を流した。
やー今日は天気が良いなぁー という感じに。
これは困った。
仮にも国賓のお坊ちゃまだ。
リリーが勝手に王城から連れ出すわけにはいかない。
「ピンゼル様、私はただの貴族の娘で、本来であれば一国の公子様とこうして食事を共にすることすら有り得ないことなのです。
ましてや、王城の外に出るとなれば、許可が必要ですし、護衛も含めて色々準備が必要です」
リリーはゆっくり諭すように話す。
「今日、エルム王子様に外出許可を頂けるかお尋ねしてみますね。
そして、もし明日以後でどちらかへ観光に行かれるならば、王子様もご一緒になると思います」
「えぇ〜〜〜〜〜〜〜 リリーだけで良いのにぃ〜〜」
「うーん、、ピンゼル様、私は小さな頃から身体が弱く、ほとんど外に出たことがないのです。
ですから、実は観光名所をほとんど知りません。
王子様の方が面白い場所をきっとご存知ですよ」
「う〜〜〜〜〜 僕は、リリーと一緒なら別にどこでも良いんだけどなぁ」
「私は、せっかくお出掛けするのなら、楽しい場所に行ってみたいですわ」
リリーがにこにこして言えば、
「うっ… リリーがそんなに言うなら… まぁ… 我慢できなくはない… 」
ピンゼル様はかなり気乗りのしない様子であったが、結局王族の許可がなければリリーと観光は難しいことは分かったらしく、しぶしぶ了承した。
王子の様子を知っているらしい世話役のおじさん達は、心の中でいけいけ押せ押せとリリーにエールを送っていたが、最後ヨッシャとガッツポーズをしていた。
厨房の片付けはシェフ達にお任せして、世話役に用件と王子への取り次ぎをお願いし、執務室まで会いに行くことにした。




