100.晩餐会の前①
公子達がいつ頃着くのか知らないが、迎賓の晩餐会は夕方からだから、着替えたり支度したりは昼からの予定だ。
午前中はさすがに歌や演奏の練習もない。
喉も少し休めなければ。
この大仕事が終わればやっと本邸に帰れる。
本当は間で帰ろうと思ってたが、結局帰れなかったので、だいぶ長く留守にしていた。
一度本邸に帰れば、こうして王城に来ることなんてないから、午前中は王城見学でもしようかなと思っている。
ジェイバーを伴ってもう顔パスになった王城に入る。
この1週間で、誰でも立ち入りOKな場所の、だいたいの位置は把握している。
まずは中庭だ。
初日に朝食を食べた時はチラッとしか見られなかったが、たくさんの種類の薔薇が植えられていて綺麗だったからゆっくり見てみたかったのだ。
白、ピンク、黄色の薔薇、花びらの多いもの少ないもの… それぞれが生け垣、アーチ、寄せ植えと、綺麗に整えられていて、良い匂いがする。
中央の噴水も上品で綺麗だ。
次にまた図書館に行ってみた。
あの時見た本以外にどんな本があるのかを知りたかったので、中をぶらぶらしてみる。
この国の歴史から鉱石や宝石、生き物の図鑑から、料理本まであった。
王城には、社員食堂(?)があると兄様から聞いていたので、そこにも行ってみる。
今は時間的に夜勤明け者の遅い朝ごはんの時間だったようで、スープとサラダとパンを食べている人がチラホラいた。
メニューは日替わりで2択から選ぶ感じだった。
いつか食べてみたいなぁ。
「お嬢様、そろそろ…」
ジェイバーに促され、もうすぐ戻らないといけない時間だけど、兄様が騎士団の練習を見においでと言っていたので、少しだけ、と騎士団の練習場が見える所に移動した。
木陰から騎士団の打ち合いをしている所を眺め、兄様を目で探していると、人だかりのある場所があった。
手本試合かな??
上手な人の打ち合いなら是非見てみたいので、リリーも少し近づいて見る。
兄様も、その人だかりの中に見つけた。
人垣の中央で向かい合っているのは、白銀色の短髪に藍色の瞳の男性と、ややウェーブがかった黒髪に金色の目の男性だった。
白銀色の髪の男性は、兄様と同じ団服を着ているが、黒髪の男性は見たことのない制服だ。
多分、白銀色の髪の男性は、シエル様のお兄様だろう。
近衛騎士団の団長さんだと聞いたことがあった。
さすがに鍛えられ引き締まった身体をされている。
それに比べ、黒髪の男性は線が細く、頼りないような身体つきだ。
新入りさんかな?
2人は模擬剣を構えて、合図と共に斬りかかった。
カンッ カンカンカンッ ギシッ ガカッ
のっけから剣が激しくぶつかる。
その、太刀筋の美しいこと…!
間合いに切り込み、身を翻して下がり、剣を振るう。
黒髪が風に靡き、揺れ、汗がキラキラ光る。
無駄の無い動きと鮮やかな剣さばきに、リリーは釘付けになる。
すらりと伸びた体躯と、白い手足は、およそ剣など握った事のないような繊細さを感じさせる。
それなのに、頑健な身体の相手に引けをとらず、互角に打ち合っていた。
金色の目を一瞬歪め、騎士団長の剣を跳ねようと突き上げたが、その剣を逆に払われ、迎撃される。
しかし剣を取り落とすことなくまた斬り返す。
「そこまで!」
無限に続くかに思われた打ち合いは、立ち会い人の終了の合図で幕を閉じた。
2人は静かに剣を下ろし、素晴らしい打ち合いに周囲からは惜しみのない拍手が贈られた。
リリーも息を止めて見ていたが、ハッと気づいて木陰から一生懸命拍手を贈った。
と、渡された柔布で汗を拭っていた黒髪の男性が、その拍手に気づき、金色の目を細めてふっと会釈をしたのだ。
キ… キャ〜〜〜〜〜〜〜〜!!
リリーは一瞬で沸騰した。
そして真っ赤な頬を両手で押さえながら、全速力で走って逃げた。
今日帰ったら、お兄様にあの男性が誰か聞かなくては…!
その背中を、微妙な顔をしたジェイバーが追っていった。
とうとう100話になりました。
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