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風の国のお伽話  作者: 花時雨


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第18話 ノーラと商隊

ノーラが危険な行商の旅にでかけます。

王国歴216年4月(ノーラ13歳)


翌年、ノーラが13歳になった春のある日、ノーラの父ノルベルトの荷馬車は、商人仲間たちと商隊を組んで暖かい春風の吹く街道を進んでいた。

全体としては平和なこの王国では、王都の付近では盗賊はほとんどおらず、単独の荷馬車でも襲撃に遭うことはまずない。

盗賊は捕まればその場で木に吊るされる。

近衛軍と衛兵の威が行き渡る王都付近での盗賊行為は、自殺に等しいのだ。



しかし少し王都を離れると、治安はやはり悪くなる。

領主の(まつりごと)が良くない地方では特にそうだ。

目的とするグレーゼンの町につながる街道では、盗賊団による襲撃の噂がある。

町に到着する物資の量が減り、困っているという。

これは行商人たちにとっては、商機だ。

リスクはあるが、無事に到着できれば、普段より高値で売ることができて儲けが大きい。

普段は個々に旅をする商人たちが隊を組み、それぞれが傭兵を護衛に雇うことにより、隊全体の安全を確保しようとノルベルトたちは考えたのだ。

参加者を商人ギルドで募ったところ、荷馬車で10台の規模になった。

ちょっとした規模の隊列だ。一台当たり二人の護衛がいれば、全体では20人、それなりの勢力になる。


隊の商人の中ではノルベルトが年長だったため、自然とリーダー的な位置づけになった。

他の商人たちと話し合い、旅の経路を検討する。

仕入れの拠点となる都市を出発して目的のグレーゼンの町までを最短の街道を行くと、途中にはめぼしい町はない。

小さな町が二つ、農村がいくつか。最後の村を過ぎて川沿いの山道を登り、ちょっとした峠を越えれば目的の町に着く。

来た道を戻っても特に商売にはならなさそうなので、帰りは少し遠くなるが、別の街道を回って戻って来ることにする。

あちらでの商売を含め、全体で十日間ほどの行程だ。


ノルベルトは宿屋に戻ると、妻とノーラと相談した。今回の旅は危険性が高い。

妻は戦闘になると足手まといになる恐れがあるため、宿屋で待っていることにした。

妻はノーラも引き留めたがったが、ノーラは父との同行を望んだ。

ノーラは武芸の心得がある。ノルベルトは迷ったが、同行を許すことにした。



道程の最初の二日間は、何事もなく進んだ。

途中の町や村では特に品薄が起きているわけでもないので、それほどの儲けは見込めない。

商品を大掛かりに広げる事はせず、少しの商いに抑えて通過する。

三日目、次の小さな村を出ると、目的の町まで丸一日かかる。

盗賊の出没が噂されている行程だ。商隊に少し緊張感が出てきた。


午前中の道程で、ノーラはノルベルトに話しかけた。


「父さん、ちょっと、隊のみなさんにお願いして欲しいことがあるんだけど」

「何か、不安でもあるのかい?」

「不安ではないけど、思いついたことがあって」

「わかった、聞こう」


二人は何事かをしばらく話し合った。


昼食の大休止の際に、ノルベルトは商人たちや、護衛のうちの主だった二人を集めて、ノーラと話し合った内容を伝えた。

商人たちはちょっと顔を見合わせると、そのうちの一人が


「私たち商人としては問題ありません。ですが、護衛の皆さんはいかがですかな?」と問う。


傭兵の最年長者、といっても傭兵としては中堅どころのマーシーという名の男が答えた。


「襲撃への対処は、俺たちの任務だ。本来は、そのやり方も任せてほしい所だ。だが、今回のメンバーにあらかじめ確認したが、俺を含めて全員、商隊の大勢での護衛の経験があまりない。だから、あんたの案に従おうと思う。どうだ?」ともう一人の傭兵の方を見た。

「そこまでする必要があるかどうか。ちょっと気が進まないなあ。それに、夜に当直でない時間まで拘束されるのはねえ」

「それはそうだ。その分の割り増し報酬をお願いできるだろうか」

「いいでしょう」

「それならば。まあ、ちょっと窮屈な思いをするだけだしな」

「決まったな。ではそれでいこう」

「他の護衛には、私たちからきちんと伝えます。それはこちらの仕事ですからね」

「よろしくお願いします」


ノルベルトが頭を下げると、二人はちょっと頷き、他の傭兵たちに声を掛けに行く。

既に昼食の済んだメンバーを集めて、全員に提案内容を周知するようだ。

商人たちは、「ではそれで」と自分たちの食事に戻った。



午後も何もなく進んだ。遠く低く見えていた山がかなり近づいてきた。

二時ごろに小さな丘を越えると小さな村が視界に入った。

街道に目を戻すと、道端に子供が何人か座っている。


先頭の荷馬車の商人が声を掛けた。


「やあ、あの村の子かい?」

「そうだよ! 商人さんなの?」「うちの村に来たの?」「何を売りに来たの?」


子供たちは口々に叫ぶ。


「いや、グレーゼンの町に行く途中だけどね。欲しいものがあれば売るよ。この村は何人ぐらい住んでいるのかな?」

「わかんない。たくさん!」「俺知ってる! 290人! 前に村長さんが言ってた!」

「そうか、じゃあ、品物をたくさん買ってもらえそうだな。村に荷馬車をたくさん停める場所はあるかな?」

「あるよ! 俺、村長さんに知らせてくる!」一人が言うと、

「俺も!」「俺も! また後でね!」と全員が走りだす。

「ああ、よろしくな!」


返事をする頃には、もう競走になって、後ろも見ずに走り去ってしまった。



しばらく行くと、村の入り口に人が数人、さっきの子供たちと一緒に立っている。

商隊は荷馬車を停め、ノルベルトを初めとした主だった数人が降り、彼らのところへ行った。


「初めまして、王都から来ました。村長さんにお会いしたいのですが、御案内いただけませんでしょうか?」


一行が頭を下げると、村人の中で最も年配の男が答えた。


「私が村長です。他の者も村役です。ようこそいらっしゃいました。道中、お疲れ様です」

「ありがとうございます。私はカウフマンと言います。行商人で、この商隊の代表です。こちらはアンダールとヴィーレ。同様に行商人です」


他の商人もそれぞれに挨拶をした後に、村長が用を尋ねてきた。


「この村への御用向きは何でしょうか? 御覧のように小さな村で、商隊の皆様の御商売のお相手にはならないと思うのですが」

「我々の目的地はグレーゼンです。本日はこちらで泊めていただき、明日中にはグレーゼンに着きたいと思っております。もちろん、我々の積み荷にこちらで御入用の物がございましたら、お分けさせていただきたいと思います。こちらには、宿屋はございますか?」

「あいにく小さな村で、宿屋はございません。旅の方には私の家に泊まっていただくのですが、この台数では、かなりの人数になりますね? 護衛の方もいらっしゃると思いますし」

「それでは、荷馬車10台を停められるような広場はございますか? 村の外でも構いません。野宿の準備はしております」

「広場はございますが、10台となるとちょっと手狭かと。また、申し訳ありませんが、村の中での焚火は、火事の危険があるので御遠慮いただけませんでしょうか。村の外、そうですね、この辺りであれば、草木に燃え移らないようにしていただければ構いません」

「わかりました。後ほど、少々商品を皆様に御覧に入れたいのですが。あと、水と食料をお売りいただけませんでしょうか?」


「市であれば、広場を使用していただいて構いません。あそこに教会の鐘楼が見えますが、その前が広場です。食料については、住民と交渉していただけますか? ただ、野菜と備蓄の小麦粉、ライ麦粉程度で、たいしたものはないと思いますが。水は広場の井戸から汲んでいただいて構いません。幸い山からの地下水が豊富で川も近く、水だけは不自由しませんので」

「ありがとうございます。では、そのようにさせていただきます」

「それではまた後ほど」


村長はノルベルトの答えで満足したようで、愛想笑いを浮かべて頭を下げて去って行く。

ノルベルトたちは頭を下げてそれを見送った。


頭を上げると、子供たちが残って、興味津々と言った様子でこちらを見ている。

ノルベルトは尋ねてみることにした。


「最近、他の商隊がここを通ったかい?」

「うーん、ひと月ぐらい前かな」「その前は、またひと月前ぐらい!」

「そうか、ありがとう。後で広場に市を開くから、村の皆に知らせてくれるかな。これはお礼だよ」


紙包みの安物の飴をひとつずつ渡す。


「わかった! ありがと」


子供たちは飴をすぐに口に咥えると走っていったが、ふと見ると、女の子が一人だけ残ってもじもじしている。


「どうしたの?」

「あのね、前の商隊はね、この先で盗賊に襲われたらしいの。お姉ちゃんが言ってたの。気を付けてね」

「そうか、ありがとう。十分に気を付けるようにするよ。じゃあ、これは教えてくれたお礼だ。一つは君、もう一つはお姉ちゃんの分だよ」

「ありがと! あのね、教えたことは内緒だよ」


飴を二つ追加で渡すと、礼を言ってその子もやはり走っていった。

ノルベルトたちは顔を見合わせて顔をしかめると、それぞれ首を振りあるいは溜息をついて、市と野宿の準備のために荷馬車に戻って行った。

次話に続きます。

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