第七十一話 ハッタリの結果は吉事か凶事か(オレスティア視点)
今、なんと言ったのだろうと疑いかけるも、アレクサンドルが木刀を手にしているのを見れば嫌でもわかる。
当然、焦った。
「いえいえいえ滅相もない!」
慌てて、胸の前で両手を振る。
「侯爵令息に稽古をつけるなんて、そんな――!」
本物のオレステスならできるだろう。けれどオレスティア似は無理だ。むしろオレスティアの方がまだ、教わる立場だというのに。
曲がりなりにも、アレクサンドルは貴族の令息なのだ。ある程度剣を使えるのは知っている。
未熟に過ぎるオレスティアが相手をして、負けたりしては一大事だった。それこそ侯爵が言う、「ならず者にも後れをとる弱者」となってしまう。
「侯爵令嬢の相手はしたのに?」
冷たく言い放たれ、ぐっとつまる。
普通に考えて令息と令嬢、どちらかの稽古をつけろと言われたら令息を選ぶのが自然だった。
「先程あなたは、姉さんが望んだからだと仰いましたが、ならば僕も望んでいます。あなたの理屈に従うのなら、相手をしてくれるべきでは?」
淡々と言いつのられ、嘆息する。
「わかりました」
これ以上断り続けるのは不自然だった。そう考えると、了承以外の道はない。
「――ただし、私の得手は本来、剣ではありません。その点、どうかご考慮願いたい」
「それは負けたときの予防線ですか?」
「まさか」
実際はその通りだったのだが、認めるわけにはいかない。内心では冷や汗をかきながらも、顔には笑みを刻んで見せる。
「手加減ができるかわかりません、という意味です」
咄嗟にハッタリをかませたのはきっと、ルシアの影響だろう。おそらく元のオレスティアであれば、図星をさされた時点で俯き、黙り込んでしまっていた。
また、オレステスの体であることも考慮すべき点だった。以前ルシアがチンピラに絡まれていたとき、体が勝手に動いた。それに頼りきりにするわけにはいかないだろうが、「生きる本能」がなんとかしてくれるかもしれない。
というか、なんとかなるのではないか。そう考えるのはオレステスの体がオレスティアの思考にも影響を与えているのかもしれない。
「なるほど。さすがに自信はあるということですか」
すぅっと目を細める、面白くもなさそうな表情。
吐き捨てる口調を聞くまでもなかった。
――怒らせた。
プライドを傷つけたのかもしれない。
実際、貴族の令息であるアレクサンドルから見れば、身分の差も甚だしい民に生意気な口を叩かれたのだから。
「お手並み拝見と僕が言うのもおこがましいのでしょうが――まぁ、よろしくお願いします」
言い過ぎました、申し訳ありません。
オレスティアがそう口にするより早く、アレクサンドルが一方的に宣言する。
同時に一礼され、オレスティアも慌てて礼を返し――
頭を上げる間もなく、アレクサンドルの一撃がきた。




