36
「おいロザリアンヌ、おまえやっぱり実力を隠していたんだな」
「・・・・・・」
「クラヴィス様を差し置いて、学年首位とはおまえ生意気だぞ」
いつもの様にお供を引き連れたクラヴィスに絡まれ、ロザリアンヌは自分が学期末試験で首位を取った事を知った。
(やってしまったぁ~)
ロザリアンヌが自分の失態に気付き頭を抱えたが、もう時はすでに遅かった様だ。
「別に隠していた訳じゃ無いわ」
いつもなら目力と話しかけるなオーラで撃退していたロザリアンヌも、今回ばかりは動揺の方が先に立ちつい返事をしてしまった。
「それだけの実力があるなら当然」
そうクラヴィスが話し始めたのに被せる様にロザリアンヌは畳みかけて話し始める。
「当然何?まさかこの私より実力が低い人の下に付けとか仲間になれなんて言い出さないわよね?そんな人と一緒になって私にいったいどんなメリットがあると言うのかしら?言っておきますけど、私は地位にもお金にも興味は無いわよ。私のとても貴重な時間をこうして奪っているんだから、どんな有意義な話を聞かせてくれるのか楽しみだわ」
ロザリアンヌはいつも以上に殺気を込めた視線をクラヴィスに送った。
クラヴィスもロザリアンヌの殺意の籠った視線にはさすがに抗えなかった様で、顔を青くして震えだしていた。
レベルが上がった成果はこんな所にも表れるのかと、震えるクラヴィスを見てロザリアンヌは思っていた。
このまま行ったら≪威圧≫のスキルを習得できるかも知れないと考えていた。
しかし聖女様候補だけはそんなロザリアンヌに負けずと、鋭い視線でロザリアンヌを睨み返している。
「あなた、実力があると言うのなら、その力は当然国の為に使うべきなのよ。その為にこの学校へ来たんじゃなくて?」
聖女候補はロザリアンヌに説教でも始める気の様だった。
国の為にと言うのなら、収納ボックスを開発し国に提供した時点で充分にその役目は果たされたはずだとロザリアンヌは思っていた。
しかしその事実をこの場で話す訳にもいかずどう反論しようかと考えた。
「国の役に立つ気はあるわよ。でもその話とクラヴィスの仲間になるのとどんな関係があるのかしら?」
「あなた本気でそんな事を言っているの?」
聖女候補は本気で理解できないとばかりに頭を軽く振り、ロザリアンヌを呆れ顔で見ている。
「ええ、まったくさっぱり分かんない」
「クラヴィス様はこれからこの国を背負って行こうと言う人よ、そんな人の役に立つ事こそが国の役に立つと言うものよ」
盲信者の様に目を潤ませ始めた聖女候補に呆れたが、ロザリアンヌは少しばかり確かめたい事ができて、聖女候補と話を続けた。
「聖女様は教会に身を捧げ、神を信じる民の為に力を使うのよね?だとしたらクラヴィスに力を貸している場合じゃないんじゃないの?」
「聖女の力は教会に身を捧げなくても使えるのよ。あなたそんな事も知らないの?」
ロザリアンヌの問いに、何故か蔑む様な態度で答える聖女候補。
(知っているわよ、私は聖女候補の心づもりを確認したかったのよ)とは言えず、この聖女候補がゲームの主人公だったとしたら、ロザリアンヌを仲間に引き入れようなんて考える筈無いと疑問が湧き、聖女候補の立ち位置を確かめたかったのだ。
もしかしたら【プリンセス・ロザリアンロード】のパート2でも始まったのかとロザリアンヌは疑っていた。
そして聖女候補の答えは明らかにクラヴィスに思いを寄せている様子が窺える事から、ではなぜロザリアンヌを仲間に入れようとしているのかが逆に分からなかった。
敵役にしろモブにしろ、ロザリアンヌ程目立つ存在を仲間にしたがる主人公っているのか?
ロザリアンヌがそんな事を考えているとも知らず、ロザリアンヌが黙った事をどう捉えたのか聖女候補が得意そうに話し出した。
「あなたがクラヴィス様の仲間になったとしてもその地位は私より下よ、あなたにどんな実力があろうとその辺は当然理解して、これからは私の言う事を聞くのが身を弁えるというものよ」
ロザリアンヌはその言葉から、聖女候補は自分の下僕が欲しいのだと理解した。
きっとロザリアンヌが聖女候補のライバルにはならないと判断しているのだろう。
そう思うとこの聖女候補の知能も窺い知れると言うものだ。相手にする価値もない。
ロザリアンヌは途端に興味を無くし、勝ち誇った様な表情でいる聖女候補にきっぱりとお断りをいれる。
「私はあなたの下僕になるつもりは無いわよ。忙しいの、これから先金輪際私に関わらないで。それこそがこの国の為になると知りなさい」
ロザリアンヌは呆気にとられる聖女候補に人差し指を突き出し宣言すると足早に歩き始める。
するとしばらくした所で珍しくキラルが光の球となって現れた。
「呆れた人達ね。ロザリーを思うままにできると考えるなんて聞いていて腹立たしかったわ」
「ありがとう。キラルという味方が居ると思うと私も心強いわ」
「そう思うならこれからはもっと私を自由にさせて頂戴」
ロザリアンヌはキラルの存在を知られるのを避けるために、いつもは身体の中に留まって貰っているので自由が無いと言われるとその通り過ぎて返事に困った。
「分かったわ、キラルの自由は認めるけれど、精霊の姿になるのは部屋の中とダンジョンの中だけにしてね」
ロザリアンヌはキラルが光の球の状態だったなら光の精霊だとバレる事も無いだろうと考え、キラルの自由を容認した。
光の球の状態だろうと本来の姿だろうと、見える人には見えるが見えない人には見えないのは変わらない様なので、万が一の時誤魔化し易い光の球での行動を許した。
誰かに見つかり騒ぎになる事があったらその時はまた対処を考えようと思っていた。
「ありがとう、それじゃ少し散歩に行ってくるわ」
キラルはそう言ったかと思うと、凄い速さでどこかへ飛び立って行った。
かなり成長し力を付けたキラルをずっと身体に留めていた事が、キラルに窮屈な思いをさせていただけなのだと知り、ロザリアンヌは忙しさにかまけ今までキラルの事を考える余裕も無かった自分を深く反省した。
そしてこれからはもっとキラルの事も考えなくてはと思うのだった。




