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座学の授業はロザリアンヌが思っていた以上に勉強になった。
考えてみたらロザリアンヌが持つこの世界の知識は、ゲーム攻略のためのものでしかなかった。
この世界の歴史など設定程度の事しか知らなかったがそれで十分だったし、魔法もボタン操作一つで使えるから気軽に簡単に使ってた。
もっとも今でもキラルのお陰か、魔力操作や魔力の循環など無視して魔法を使えているからあまり変わりは無いのだが、それでも知識として知ると魔法の威力が変わった様な気がした。
そして今、授業とは別に図書館から借りてきた精霊学の本がとても参考になっていた。
キラルの他にも属性別に精霊が居るとは聞いていたが、その精霊がどんな力を持つかは今でも研究されているらしかった。
中でも例えば以前属性精霊を宿した人達がどんな魔法を使える様になったかや、どんな奇跡を起こしたかという話はとても興味深かった。
ロザリアンヌはマジックポーチに時間停止機能を付けたいとずっと考えていた。
しかし結果は芳しくなく、結局時間を操作できる時間魔法が必要だと考えついたまでは良いが、その時間魔法をいまだにアンナもロザリアンヌも習得できていなかった。
ロザリアンヌとしては無属性精霊のウィルが空間魔法を覚えられるなら、時間魔法も覚えるだろと期待していたので少々がっかりだった。
錬金術で魔法を付与するのには、その魔法を使えなくてはならない。
今ロザリアンヌが使える魔法はキラルが宿った事で使える様になった光魔法と、アンナから購入した魔導書で覚えた魔法だけだ。
アンナだって自分の知らない魔法の魔導書は作れないので、あちこち手を尽くして時間魔法を探してくれている様だったが、いまだに見つかったという話は聞いていない。
そんな中で闇の精霊を宿した人が起こした奇跡というおとぎ話の様な記述を読み、もしかしたらという一筋の光を見た気がした。
山のように大きな魔物を見る間に小さくし、その存在を消滅させたと言うものだった。
それってもしかしたら時間を逆行させたか重力を操って圧縮したか、空間を捩じって別の空間に転移させたか。
何にしてもこの話が本当だったとしたら、そこには時間魔法か重力魔法が空間魔法が関係している筈だとロザリアンヌは考えた。
キラルは浄化や結界や回復という魔法を使えるが、この本に載っている様な再生という奇跡を起こした事は無い。
というかゲームの中でも聞いた事が無かった。
しかしこのままキラルが成長すれば、いずれはそんな奇跡を起こす事ができるのだろうか?
そして例えばこの先闇の精霊を見つけ協力して貰えたとしても、そう簡単にその奇跡を起こした力が手に入るとは思えない。
が、もうそこにしか手がかりが無いのだとしたら諦める訳にはいかない。
闇の精霊に会ってダメだったら諦めれば良いだけだと、ロザリアンヌは闇の精霊を探す事にした。
「闇の精霊って何処に居るかキラルなら分かるの?」
「う~ん、精霊に会いに行っても会えるとは限らないよ。精霊の姿が見える人には見えるけど、見えない人には見えない事は知っているでしょう。精霊達との相性もあるけれど、闇の精霊ともなれば精霊の方から望まれなければ会うのは絶対に無理ね」
「絶対に無理なのかぁ」
図書館の個室に籠り気配と声を潜めていたロザリアンヌは、キラルの話を聞き溜息を吐く様に呟いた。
そして絶対にと断言された事で、諦めるしかないのかとがっかりする。
「闇の精霊は今この世界で一番長い時を過ごす精霊なの、そもそもつい最近生まれ変わった私とは年季が違うよ」
「そう言えばキラルはウィルが無属性の精霊になった事で新しく生まれたのよね?だとしたら普通の精霊達っていつ生まれ変わるの?」
「そうねぇ、宿主を亡くし気力が失われたりした時かしら。きっと誰かの思い出を抱いたまま他の人に宿る事もできずに再生を望むのね。私はまだ経験が無いけれど」
「だとしたらこの本を読む限り闇の精霊は誰かに宿っていたみたいだし、もしかして今でも誰かに宿ったままって事?」
「それは無いわ。いくら何でもそんなに長生きした宿主の話は聞いた事が無いよ。でもロザリーが会いたいと願っていれば、その気持ちが通じていつか闇の精霊の方から会いに来てくれるかもしれないね」
キラルとの話から、会いたいと願った所でそう簡単に精霊に会う事などできないというのは分かった。
でも諦めなければいつかは会えるかもしれないと、キラルはロザリアンヌに希望も残してくれていた。
精霊の方から会いに来てくれるかどうかは疑問だが、闇の精霊が誰かに宿っているという訳じゃないのなら少しは可能性があると思えた。
アンナはロザリアンヌに複数の精霊を宿せるみたいに言っていた。
と言う事は、ロザリアンヌが闇の精霊と出会い宿せる可能性はゼロではない。
今はそれだけで充分だろう。
そしてキラルと出会えたのはやはり奇跡の様なものだったのだろうかと思う。
ロザリアンヌが光の精霊を探してみようかと考えていたら、アンナによって引き合わされた。
そして無事キラルを宿す事ができて、こうしてダンジョン攻略も錬金も難なく順調にできるようになった。
何だか順調過ぎるようにも思いながら、けしてそこに【プリンセス・ロザリアンロード】の新しいストーリーが始まっているとは考えたくないロザリアンヌだった。




