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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
悪徳の街クラリセン

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無意識に受けた影響

 


 僕らが泊まった宿の食堂に戻ってみると、やはり軽食が振る舞われていた。

 朝は屋台が一般的なようだが、他の食事はイラインとそう変わりは無いらしく、宿でも振る舞われるようだ。

 だが、開拓村では一日二食だったことから考えると、やはりここはもう街だということが感じられた。


「やっぱり、砂漠地帯っぽい……?」

 僕が恐らく豚のミートソースに卵を割り入れたような料理を食べて首を傾げていると、テトラはそれを不思議そうな顔で見ていた。

「何かおかしかった?」

「いえ、イラインで食べるような料理とは全然違うなと思いまして」


 全体的に、香辛料が効いているのだ。

 イラインで見たような、地球でいういわゆる西洋風の料理というよりは、もっと暑い地域で食べられているスパイシーな料理が昨日から続いている。

 これはこの街の料理の特徴なのだろうか。そう思い聞いてみると、テトラは今気がついたかのように笑った。


「ああ、これは、そうね。私が子供のときからみんな食べていたから、そうなのかも」

「じゃあ、香辛料はムジカルの方からの輸入品ですかね」

「じゃないかしら。ムジカル出身者が多かったらしいから、そのせいかもね」


 ムジカルの方では、この街と同じようによく香辛料が使われるらしい。

 溶岩の海である聖領エーリフが接しているからか、きっと暑い地方なのだろう。

 いつかは行ってみたいな。




「それで、何でここに来たの?」

 テトラは皿の挽肉を匙で掻き集めながら言った。少し俯いて、はにかんでいる気がする。

 何を考えているかは知らないが、先程言ったはずだ。

「今はいないようですけど、この辺に町長の関係者が来るかもしれないんですよ」

 昨日、僕たちの様子を何処かへ報告したであろう男女。その二人は多分、またここに来るだろう。


 というか昨日のうちに、そいつらを尾行しておけばよかったのだ。

 後になってから失敗が浮かんでくる。


 そのことにレイトンも気がつかなかったのか……と思ったが、それは違うと即座に否定の考えが浮かんだ。あれは、言わなかっただけだと思う。

 多分、そういう人だ。



「……まあ、そうよね」

 僕が答えると、テトラの声のトーンが落ちた。まだ声を潜めなくても、というか声を潜める必要は無いのに。

「で、どんな奴かも知ってるのよね?」

「ええ。服装は替わっているかもしれませんが、一組の男女です。顔は覚えていますよ」

「もうここには来ないとか……無い?」

「それはあり得るかもしれませんが、来なければ来ないで構いません」

「どういうこと?」

 テトラはまた首を傾げた。

 僕はもう一度、食堂内を見渡す。まだ男女はいないので、説明する時間はあるだろう。




 昨日、僕らがここで夕飯を食べていたときにこちらを監視していた男女。


 彼らが何故ここにいたのかはわからないが、いくつか推測は立つ。

 街を出入りする不審な人物、特に街に不利益をもたらしそうな人物を監視するために宿に配置されている連絡員という可能性。

 テトラが誰かを伴って戻ってきた場合に立ち寄るであろう場所に、配置されている監視という可能性。

 もちろん無いとは思うが、ただの偶然という可能性もあり得る。

 ただ、僕らに気がついて聞き耳を立てていたのだ。少なくとも、僕らがどういう立場になり得るか、理解して動いている。


 僕らがあの男女に気が付いていると、気が付かれているのであればここには戻ってこないかもしれない。

 だが、町長達は僕らの戦力を見誤っている。

 ここに昨夜一人で来た刺客、あの程度の腕の者で始末出来ると踏んでいる。

 これまで幾度となくテトラに撃退されているにも関わらず、そこを考慮しない。


 最終的に勝てる自信があるのだろうか、それともただ怠惰なだけなのだろうか。

 どちらにせよ、またここに監視としてあの男女が来てもおかしくはない。


 昼食の時間帯だ。人が集まる時間帯、彼らはここに来るだろう。

 彼らが僕らへの斥候だろうが、それとも不特定多数に対する監視だろうが、どちらにせよ現れるはずなのだ。例え昨日が偶然であっても、報酬目当てにまた現れる。

 そこで、(,)(,)(,)(,)


 もしも現れなかったら、それはそれでいい。


 そこまで考えられるのであれば、僕らの監視をやめるはずがないだろう。近くに監視員がいることになる。それを探せばいい。

 そしてその場合は、僕らを排除するために戦力をある程度まとめるはずだ。手っ取り早く片付けられてちょうどいい。

 もしもその監視を付けないほどの暗愚であれば、それならばもう脅威たり得ない。位置の特定から始めなくてはいけないので面倒ではあるが、あとは簡単な殲滅戦になる。




 どれであっても、今後の指針が立つ。

 だから、皆の昼食の時間が終わるまで、ここで待つ。


「……という感じですね。まあ、昨日僕らを見ていた男女が囮で、本命の監視が他にいるという可能性もありますが……その場合でも対応は変えなくていいでしょう」

 そう僕が考えを話し終えたところ、テトラは頬を引きつらせて僕を見ていた。

「どうしました?」

「いや、何か、あんたとあいつが被って見えてきたわ……」

 レイトンと? それを聞いて、僕は内心苦笑した。

「同じ所で育ったようですし、似ててもおかしくないですが……。少なくとも、あんなふうには出来ませんよ」

 最少の情報から、瞬時に先を見通す力。その点ではきっと負けている。

 その性格も、きっと僕とは違うだろう。それに、ニクスキーさんから忠告もある。

「レイトンさんのようにはなるなと、先輩に忠告も受けてますしね」

 僕は笑顔で言い切った。

「それがいいわよ」


 僕の答えを聞いたテトラは、頬杖をついて渋い顔をしてそう応えた。





 しばらくテトラと談笑しながら時間を過ごすと、入り口から見覚えのある男女が入ってきた。

「さて、見くびられているのか、それとも違う意図があるのか……。わかりませんが、いらっしゃったからには話を聞いてみましょうよ」

 僕が男女へと目線を向けずに呟くように言うと、テトラは無言で頷いた。


「ちなみにテトラさんは、尾行とか出来ます?」

「……経験は無いけど……」

「じゃあ、無理しない方がいいですね」


 話を聞くにしても、二人揃っていると面倒だ。互いを見て、口を割らなかったり嘘の口裏を合せる可能性もある。

 一人排除する? いや、むしろ利用してやろう。




 男女は自分たちの料理をもらい受け、空いている席へ座った。僕らからは少し離れているその席で、また楽しそうに話し始めた。

 楽しそうなのも結構だが、少し仕事をして貰おう。


 僕は昨日のように、心持ち大きな声でテトラに話しかけた。

「テトラさん、この食器片付けて貰えますか?」

「ええ、わかったわ」

 男女の気を引いて、こちらの確認をさせる。思った通り、テトラの名前を出した途端、ギョッとした顔でこちらを一瞬振り返った。


 この部屋にいたのを知らなかったような反応。つまり、斥候としての能力は低いのだ。


 戻ってきたテトラに、また声を掛ける。

「ありがとうございます。それで、テトラさん、これからどうします? 魔物はもうすぐ死にますし、妨害も思ったより程度が低い。このまま、帰っちゃいますか?」

「いえ、まだすることがあるもの。しばらくは宿に残って、様子見ね」


 話す内容は打ち合わせ済みだ。

 まだ事件の解決に向けてこの宿に滞在する。

 そして、もう魔物も討伐されるということも加えてある。

 見逃せない情報のはずだろうが、動くだろうか?



「ごめーん、ライチ! ちょっと用事を思い出したから行ってくるよ。すぐ戻るから!」

「ええ、早くね」


 呆れるほど思った通りに動いてくれる。

 ライチと呼ばれた三十代程の女を残して、男は食堂を出て行く。

 何処かへ報告をしに行ったのだろう。


 これで、戦力を集めてくれれば簡単になる。


 僕とテトラは頷きあうと、残ったライチに向けて歩み寄っていった。



「お姉さん、ちょっとお話聞きたいんだけど」

 僕がそう話しかけると、ライチはビクっと驚いたような仕草を一瞬した後、こちらへ向けて笑顔を作った。

「ああ、はいはい、何です? お二人さん、見ない顔だけど」

「ええっと、お連れの男性が、何処に向かったか教えて貰っていいですか?」

 僕がそう聞くと、ライチは能面のように固めた顔をぴくりと動かし、答えた。

「さてね、私は知らないよ。旦那に何か用事でもあったのかい?」

 夫婦だったのか。

「いえ、もう面倒なので、簡単に聞きますね」

 僕はライチの肩に手を置いて魔力を篭める。体が動かぬように、念動力で固定する。

「貴方たち、町長配下の兵について、知ってることを全て話して下さい」


 尋問を始める。周囲への防音はもう働かせてある。

「……何のことや……ぅ!?」

 しらを切ろうとした言葉を、痛みで止める。

「素直に話してくれれば、貴方たち二人は見逃してもいいですよ。僕らが特に排除したいのは、戦力の中心となっている人たちです。貴方たちのような、戦えない人は正直どちらでも構わない」

 左腕の神経を絞扼させながら、僕は声をかけ続ける。今は痛みはない。だが、左腕は痺れて感覚がなくなっているはずだ。

 突然動かなくなった体に、徐々に末端から冷えていく四肢。これで恐怖を演出しているつもりである。

 尋問と言えるのかどうかも疑問な出来だが、初めてなので仕方が無い。

 もっとも、慣れてしまうのも少し嫌ではあるが。


「い、言えるはずが無いだろう!? これでも仕事でやってんだ。あんた達みたいな素人にはわかんないだろうけどね!」

 自分たちが関係者だと、暴露する叫び。これだけ揺さぶられているんだ。効果はあった。

 手応えを感じた僕は、続けていく。


「命より、大事な仕事ですか?」

 手足もじわじわと麻痺させていく。念動力で固めているから特に外見に変化は無いが、もはや首から下は感覚が無いはずだ。


 仕事だから言えるはずが無い。立派な心がけではある。それが貫けるのであれば、信頼出来る仕事人だ。僕も少しはこの人達に対する評価を改めなければならない。

 だが。


「ひ、わ、わかったから、言うから、元に、戻して……」

 泣きそうな顔でそう懇願する彼女の評価は、改めなくてもいいだろう。



「ではまず、町長の配下、その人数からお願いしますね」

 そこからは、素直に喋ってくれた。


 初めての尋問は上手くいったようだ。




 話を聞き終えてライチを解放すると、彼女は糸が切れた人形のように椅子にへたり込んだ。


「傷一つ付けること無く話を聞けましたよ。平和的な話し合いっていいですね」

「本当にあんた、いい人だか悪い人だかわからないわ……」

 やり遂げた僕を、やや引きつった顔のテトラが迎えた。

 満足感に浸っている僕は、それをあえて無視した。


 得られた情報は、通常溜まり場になっている酒場の場所と、その人数。

 彼らはアドテスト傭兵団と名乗っている。傭兵団ごと雇われた彼らは、初め彼らを入れて二十三名いた。ならばテトラやレイトン、ついでに僕に減らされ今は十六人だ。そして先程の男性ソールとライチのような斥候、後は会計を除いて、戦闘員は残り十人らしい。


 そしてその傭兵団専用となっている酒場に、ソールは先程走って行った。

 それは都合がいい。



「じゃ、行きましょうか」

「はぁ……、まあ、やることはやっちゃわないとね」


 テトラも気は乗らなそうだが、やる気はあるようだ。

 僕らは意気揚々と歩き出した。





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― 新着の感想 ―
絞扼・・・また難しい言葉普通に締め付けるとかで良いと思う話に没入出来ない(´;ω;`)
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