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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
人外の世

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暇つぶし




「わあ……」


 昼を過ぎて、僕たちが辿り着いたのはネルグ浅層だけれども中層付近を歩もうとする第八位聖騎士団〈孤峰〉の陣。

 ……残念ながら、予定通りに開拓村で待機とはいかなかった。〈孤峰〉が陣取るはずだった開拓村は無人となっていたからだ。


 もっとも、それは魔物により壊滅したのではなく、むしろわざと放棄されていた。村ではないがその近くに馬の死体をいくつも積んだ痕跡があり、その周囲に魔物の死体が散乱していた。森の様子を感じ取った参道師によるものだろう。おそらく村人たちも無傷で避難は完了しているのではないだろうか。



 そして村に示されていた立て札通りに順路をとり、辿り着いたのがこの陣。

 参道師の助言ももちろん聞いたのだろう。総勢二千人ほどがほんのわずか一時待機するためということもあるだろうが、その作りはなるべく森を荒らさないもの。

 川からは少し離れ、開けた場所を細々と利用することで、森の木々を切り倒すこともほとんどない。

 建物がない街、という雰囲気で士気の高さからも活気がある。一応とばかりにいくつか張られた陣幕は骨組みがかなり簡素で、移動しようと思えば即座に解体できるだろう。

 村ではないが、ほとんど村のよう。


 昨日の夜開拓村にも寄れなかったためだろう、今日は初めて見る『人間の領域』に、ソラリックは目を輝かせたようにも見えた。



 僕たちがその領域に入ると、どこかの騎士団だろう人間たちの目が鋭く向けられる。

 今は戦闘中ではないとはいえ、やはり戦時。その素性も気になるだろうし、それは当然だ。

 こういうときのために旗があるのだろうと思い、パタラの乗っているハクに大きめの枝を使ってミルラ王女の旗をはためかせていたが、その効果か、彼らはすぐに目を逸らしてくれた。



「おお、カラス殿も」

 ご無事で、と呟きながら駆け寄ってくる影がある。目を向ければ、特に親しいわけでもないし、そもそも会うのは二回目の男だったが。

 ぷくぷくとした大柄で、無精髭を生やした見た目四十代ほどの男。一昨日軍議前の打ち合わせの時にも会っていた参道師。おそらくそのリーダー格だろう。なるほど、あの笑い話の通り、〈孤峰〉に付き従ってここまで来たのか。

「お疲れ様です。今のところ、変わったことなどは」

「今のところ想定通りで。……二十人ほどの被害だけで済んでおりまさ」

 参道師が目をネルグの北側に向ける。その先で、何かの獣の遠吠えが響いた。


 僕はその声を聞き流し、そして鼻に届いた血の臭いに笑う。

「上々ではないですか。これだけの大群で動いて、二十名しか、なんて」

 参道師は聖領の専門家とはいえ、本来これほどの大人数を動かすような職ではない。付き従い聖領を抜ける人数は、精々が商人一人とその小間使い五人から十人といったところ。

 指揮したのが主に聖騎士団という戦えるような人間だったこともあるだろうが……やはりこの男の能力が大きいのではないだろうか。

「よほど進路取りが上手かったのでしょうね」

 僕が褒めると、いやいや、と参道師は顔の前で手を振った。

「滅相もない。獣の襲撃自体が少なかったので。道中もおそらくどこかの開拓村が上手い具合に襲われてくれたんでしょ」

「かもしれませんが」

 それでも、と僕は口にする。しかし目の前の男性は頑としてその賛辞を受け入れなかった。



 血が流れたのは騎士団の人間だろう。

 僕がちらりと陣幕に目を向けると、参道師は汗をたらりと流す。

「怪我人だって大分います。今、後方の治療師団に応援を要請して早馬を走らせているところで」

「それならば」

 僕は僕たちの会話を黙って聞いていたソラリックとパタラに目を向ける。彼らがいいといえば、彼らに治療してもらうことも出来るだろうが。

「どうでしょうか」

「わかりました」

 端的に尋ねれば、パタラは鷹揚に頷き、ソラリックもそれに続く。参道師が手近な部下らしき男性に「おい」と一声かけて簡単に事情を説明すれば、すぐさまその男性が案内を始めた。

 それを見送り、僕はレシッドとスヴェンに向き直る。


「では、あとはここでしばらく待機です。彼らに付き従い、陣を借りて待ちましょう」

「了解した」


 スヴェンは割と明瞭な返事を返したが、レシッドは嫌そうに「うぇい」と一声発した。

 どちらもその関心は、北の森方面に積まれている緑と茶色が混じったような物体に向けられているのだろう。そして、そこから届く臭いに。


 僕もそのおそらく魔物の死体を見つつ、参道師に尋ねた。

「……襲撃は、いつ頃に」

「先ほど昼前です。焚き火の煙につられてきたのか、聖騎士団の皆様が応戦してくだすったので、死者は一人で済みました」


 僕はちらりと先ほど治療師が入っていった陣幕を見る。

 こういう話を聞かせたくはない。『済みました』という本来は命を軽んじている言葉。またソラリックに大騒ぎをされては堪らない。

 先ほどの開拓村の話は、おそらく実体験としてあるからもう騒ぐことはないと思うけれども。


 もう一度見れば、十六頭……かな? のバッタのような魔物の群れ。ただし一頭の大きさは虎程度はあり、青緑色の血を流すそれが陣の外側に堆く積まれている。

「挑んできたわけだな? 知られた魔物か?」

 スヴェンが目を輝かせて唇の端をつり上げる。まあ、言葉の通りならばそうだろう。

 参道師はうんと頷く。

「私は話で聞いたことしかない魔物でしたが……」

「どのような?」

「斬られると増えるような。最初現れたときは一頭で、ですが斬られるたびに分かれて増えていくのです。最終的にはオセロット閣下が頭を叩き潰して終わりました」

「うへぇ……」


 レシッドが顰め面して呻く。僕も感心する。

 つまり、あれか。あそこにいるバッタの群れの死体は、一頭のものだということか。……考えててよくわからない言葉になってしまったけれども。


 スヴェンが勢いよく振り返り、レシッドの肩を抱くようにして叩く。

「聞いたか。退屈はせずともよさそうだぞ」

「うん。そっすね」

 喜色満面のスヴェンの言葉に、嫌そうにレシッドは顔を背けた。




 話が一段落しても、参道師は離れていかない。

 それから、ぽつりと縋るように僕に向けて呟く。

「カラス殿のお連れ様は、戦闘などは?」

「もちろんそのために来ているので、問題なく。私がなんとか出来るくらいならば、私よりも簡単に対処できる頼れる二人です」

「そう……ですか」

 ふむ、と参道師は悩み黙る。何だろうか、何か言いたそうな仕草で、一度髪をまとめてある頭巾をずらし前髪を隠した。

 視界の端で、「いやいやいやいや」とレシッドが首を振って、後ろからスヴェンに口を塞いで止められている。それはまあ、レシッドも謙遜が過ぎるということでまあいいや。


「何か?」

「実は、この先少々困っているのです。予定通りならばそろそろ聖騎士隊が出発するのですが、間隔的には魔物の襲撃がもう少しでありそうなので」

「それこそ騎士団もこれだけいらっしゃるのですから、戦っていただければいいのでは?」


 僕は言い返す。

 おそらくそこで山積みになって死んでいる一頭の魔物の血で呼ばれる、というところだろう。その魔物の血や怪我人たちの臭いを嗅ぎつけて、新手が来る。

 正直言うと、その新手を片付けてから出立すればいいと思う。先ほどまでの僕たちや騎士団単体のような少人数であれば先を急いでここから離れるべきだと思うが、今ここには二千の兵がいるのだ。打ち払い、その血の臭いを置いていけばしばらくは魔物の襲撃はないだろう。

 そうすれば、存分に人間同士の争いが出来る。そう思ったのだが。


 参道師が首を振る。

「いつも以上の人数だからか、それとも季節からかはわかりませんが、魔物の襲撃が激しすぎやす。その上、明らかに中層の魔物までも現れ始めて……、聖騎士団ならばまだしも、騎士団の皆様には……」

 後半を言いかけて、参道師は声を潜めて周囲を見る。誰も聞いていない。そう判断すると、頷いてもう少し声を潜めて続けた。

「次の襲撃が、山かもしれません」

「はあ」


 なるほど、と僕も周囲を見回す。

 聖騎士団ならばなんとか出来る魔物。各々の領地でもそれぞれに鍛え上げた精鋭を使っているため、騎士団が必ずしも聖騎士団に劣るとは言わないが、それでも一等劣るであろう彼らには厳しい。

 ここ第八位聖騎士団〈孤峰〉を頭とした団は、陣を取っていく急襲隊。どうしても聖騎士団のほうが騎士団に足並みを合わせることは出来ず、そして置いていかれた騎士団が被害に遭う、ということだろう。


 だが。

 やはり、と僕はもう一度周囲を一瞥し、溜息をつく。

 それがどうした、と思う。


「彼ら騎士団とて、死を覚悟してここに来ているはずです。最低限の備えだけ周知すれば、問題はないのでは」

 彼らは物見遊山でここに来たわけではない。

 ムジカル人と戦いに来た。そこで、殺したり殺されたりと命のやりとりをしに来たのだろう。それが魔物相手ならばやりたくない、は通らない。

 


「士気の問題だろう」

 ずるりとレシッドから手を離し、大仰に手を広げてスヴェンは歩き出す。その視線の先は先ほどの魔物で、スヴェンの歩みは迷いない。

 まさか。

「奴らとて、確かに死を覚悟してきているのだろう。ムジカル兵相手ならば、その覚悟はたしかに有効だ。それで同胞が死のうと、なにくそと奮起するだけだろうな、やる気があれば」


 楽しげに振り返った笑みは、遊びを思いついた顔。愉悦に歪んだ顔が、悪魔的に見える。

「だが、魔物に殺されるのは想定外だ。それで死者が増えれば、士気は易々と萎えていく。士気の萎えた兵など案山子以下の藁束に過ぎん」

「……仰るとおりで」

 参道師がそれに同意するが、戸惑いもその顔に混じっていた。


 スヴェンは僕に向けて口を開く。

「どうせこの後しばらくは聖騎士団の陣取りを待って移動するだけなのだろう?」

「…………。治療師の方々の安全が確保できませんが」

「それならばそこの駄犬を残していけばいい。我が輩たち不在の時、もしものときは、二人を任せておけるではないか」

 僕が反論するが、スヴェンはどこ吹く風でレシッドを指さす。

 ぽかん、と口を開けたレシッドは、一瞬後に意味に気がついたようで嫌がるそぶりを見せて、またもう一瞬後に喜びを露わにした。


 というか、スヴェンの中では僕もいくこと確定か。


「その魔物の死体、少しもらっていくぞ」

「え、ええ……それは……」

 もう一度、とスヴェンが僕を煽るように手を叩く。

「参道師殿が困っている。ならば行こうではないか、カラス。世の中もちつもたれつだ。そうは思わないか?」


 「思いませんね」と呟いて僕は溜息をつくが、既にスヴェンは鼻歌交じりで歩き出していた。



 


 スヴェンが引きずるように持ってきた大きな魔物の死体。潰れた頭部にかろうじてくっついている触角を手放せば、死体は力なく倒れ伏す。

 既に死んでいるその物体は特に鳴き声などを発しなかったが、地面に落ちた音に反応して近くの鳥が飛び立っていった。


「さて」

 スヴェンは一つ呟き、楽しげに伸びをした。


 僕はその横で警戒に視線を走らせる。

 野営地からは遠く離れた場所。人の気配などは濃い森の気配に遮られ感じられず、濃密な森の匂いが迫力を持って感じられる気がする。

 場所的にはまだネルグ浅層に属するとは思うが、この気配はもはや中層の内部に近いと僕は感じた。


 横目で僕を見て、フフンとスヴェンは笑う。

「まだ不満そうだな」

「不満ですね。しなくてもいい仕事なので」


 僕はわざと唇を尖らせて抗議する。

 あの参道師は明らかに僕たちへのこういう仕事を期待していたが、それは躊躇して結局口にしなかった。ならばやらずとも問題はない。

 騎士団など、先ほど言ったとおり正直どうでもいい。彼らはどちらかといえば安全を守る側で、守られる側ではないだろう。

 

 そして、それこそこの男にもどうでもいいことだろう。

 騎士団の一つや二つ壊滅しようが、鼠の一団が死に絶えるだけ、だろうに。


「そう言うな。ここで我が輩たちが一暴れすれば、魔物たちの目もここに向く。騎士団の奴らは大いに助かる、というわけだ」

「その必要なくないですか? ここで死ぬなら、どうせ後でも使い物にならないんじゃないかと」


 兵が、魔物の襲撃によって命を落とす。それがもったいないということはわかる。おそらくムジカル兵はエッセンの三倍はいる。そんな寡兵であるこちらは、一兵たりとも失うわけにはいかない、とも確かに思う。

 だがしかし、魔物たちはエッセン兵だけを襲撃するわけではない。この森を通る全ての者たち、特にムジカル兵にも同じように襲いかかるはずだ。

 同じ試練を与えられ、接敵するのは生き残った者同士。そんな状況下で、こちらが僕たちの手によって生かされた弱い者であれば、単に蹂躙されるだけだ。

 

「……お前も軍学を学ぶといいぞ。我が輩たちには関係ないが、弱者の思考を想像するためには役に立つ」

「軍学?」

 得意げに言いつつ、スヴェンはもう既に潰れている飛蝗の頭をぐちぐちと踏みつける。踏みつけた足から、勢いよく血ではない何かの汁が地面に飛んだ。


「案山子程度役に立てば、兵というのは成り立つ。特にこういった大きな戦では、個人の強さなど関係がない。練度の差などないもおなじ。聖騎士も騎士も、同じただの一兵卒だ」

 蹴り飛ばされた死体が木の枝に引っかかる。まるで百舌の早贄のような形で、吊された死体から今度はきちんと青い血液が垂れてきて地面を濡らしていた。


 スヴェンがこちらに向けて掌を広げる。白い手袋に包まれた手は、高い身長に比しても大きい気がする。

「五人……そうだな、十人程度の集団ならば、聖騎士と騎士の優劣は明らかだ。争えば強い方が勝つ。聖騎士団は何の問題もなく騎士団を壊滅させるだろう」

「順当ですね」

「順当だ。しかしそれが二十人、三十人の集団になると途端に話は変わってくる」

「何故ですか?」

「横列でも組まぬ限り、共に戦うことが出来ないからだ」


 僕はしゃがみこみ、林の奥に視線を向ける。

 気配がした。

 何かはまだわからない。しかし、その奥に眼光が見えた。遠巻きに、こちらを警戒するように窺い見ている。一瞬狐に見えたが、おそらく化け狐(フルシール)ではない。


 スヴェンも気づいているだろう。けれども彼はなにをするわけでもなく、ただどこか遠くを見て話を続けた。

「そこからは個人の強さよりも、集団としての強さが重要になる。最低限闘気でも使えれば、練度によっては民兵でも聖騎士団に勝つ可能性が出てくる」

「そう簡単にはいかなそうですけど」

「まだその程度であれば、万に一つもないが、ないわけではない、程度だ」


 だろう、と僕は内心で返す。

 集団としての強さ、というのが未だに僕に理解できているとは言い難いが、おそらくわかってはいるだろう。

 どんな訓練でそれが身につくのか、などは僕にそういった経験がないためにわからないけれども、聖騎士団は集団行動も訓練で学んでいると思う。


「そして百対百、千対千、などと増えればもはや勝敗はわからん。仮に聖騎士団千人と闘気か魔力を扱える民兵千人が十回激突すれば、一回程度は民兵が勝てるのではないか?」

「あまり想像は出来ませんが」

「我が輩たちの想像を超える。戦場というのはそういうところだ。そこで軍略というのが生きてくる。その九勝を十勝にするために。一勝を三勝程度にもっていくために。戦術や戦略というものを頭を振り絞り考えるのだ」


 スヴェンの言っていない言葉が、最後に『弱者は』と付け加えた気がする。

 僕はその話に集中できなくなってきた。


 先ほど遠巻きにこちらを見ていた狐が、明らかに遠巻きに僕たちを中心に取り囲んでぐるぐると回っている。

 狐は群れを作る生物ではなかったと思うが、それも五頭ほどの群れが。

 狐というのもなんとなくおかしい気がする。その姿も大きさも狐に似ているが、体毛は黒く、尾は四本、目は左右二つずつ縦に並んでいた。

 気が散って仕方ない。


「そら、奴らも知恵を絞り始めたぞ」


 くく、とスヴェンが笑う。

 しかし笑い事ではない。先ほどから鳥の声が聞こえなくなっている。虫も地上にはほぼいなくなった。

 明らかに、その狐に怯えているのだ。ネルグ中層に近いこの辺りに住む彼らが。


「……とりあえず、片付けましょうか」


 僕はスヴェンの講義を一時中断させ、立ち上がる。

 そして振り返ったその瞬間、パン、という何かの破裂音と共に、眼前に涎をまき散らしながら迫る狐の顔があった。




「で」

 狐はそう苦戦はしなかった。僕が二頭、スヴェンが三頭。僕の足がそれぞれの頭を潰し、スヴェンの手が狐の胴を突き破り内臓を溢れさせる。

 そう苦戦することはない。飛び散った血が周囲の木々に降りかかった。


 先ほどの飛蝗の死体の下に狐の死体を積みながら、僕はスヴェンに先ほどの話の続きを促す。

「軍略が、なんですか?」

「案山子でも、いないよりはマシ、というところだな」


 はみ出た狐の内臓を、カミキリ虫のような小さな虫が囓りとっていく。蝿が一番に来るかと思ったがそうでもないらしい。そういえば、飛蝗の方には蝿が集ってもいなかったか。


 スヴェンは僕へと振り返る。

「万の動きがあるこの戦場。個人の力はあまり重要ではない。戦術級の小さな戦場では聖騎士が勝とうとも、戦略級の大きな戦場では騎士団というのも重要な駒だ」

「だから守るべき、ですか」

「この戦はネルグを巡る陣取り合戦といってもいい。その陣を広げる道具は、一つでも多く残してやらねばこの戦争は勝てんぞ」


 僕は、また溜息を吐いてしまう。

 結局はそういうことか。昔、クラリセンでも同じようなことをレイトンに聞いた気がする。

 魔物の掃討は色付き四人で充分、しかし溢れ出る魔物の処理には人数が必要、というような。


 たしかに、と僕は大筋ではそれに同意する。

 この戦に勝つならば、守らなければならないというのも確かに事実だ。相手方十万人がまとめて平原に集結するならばまだしも、このネルグの森の中をじわじわと侵攻してきている彼らを壊滅させるのは僕一人では難しい。


 ままならないものだ。ここでも、僕個人の力はそんなに小さいのか。

「わかりましたけど」

 だがまあ、スヴェンもここまでの講義を本気で行っているわけではあるまい。


 僕はまた、森の奥からごろごろと黄色い岩石のような塊が転がり出てくるのを見た。

 スヴェンもそれに目を向ける。


「暇つぶしに暴れたいだけ、という理由は、スヴェンさんの中でどれくらいあります?」

「九割九分といったところだな!!」


 ハハハハハ、と哄笑を上げ、スヴェンは喜び勇んでそこに駆けてゆく。

 そして、また飛ぶのは鮮血の血飛沫。



 それから都合三度の襲撃の後。

「身の程知らずが!!!」


 現れた山ほどの大きさの火竜の鼻先をスヴェンが思い切り殴りつけ、前後にぺちゃんこに潰したのを最後に、森はシンと静まりかえった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] スヴェンさん意外と知識を持ってる、、、、、 [一言] あ、、、あ、、あれ、、、お、おかしいな、竜って山徹しを使うレベルの化け物のはずなのに、、、あれ、、、い、いや、きっとスヴェンさんがおか…
[一言] レシッドがかわいい癒し枠
[一言] スヴェンさん暴れることができてたのしそうっすね 逆にカラスはモヤモヤしてるけども。
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