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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
人外の世

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閑話:子供の戯れ

 


 熱砂の国ムジカル。そこは常に灼熱の砂砂漠が広がり、常に熱風の吹く過酷な土地である。


 当然、通常の植物などはほとんど育たない。ネルグの加護を得た森すらも、東へ向かった先、熱を持つ砂漠には入れない。

 植物すらも防ぐ天然の要塞。少量の植物ならば露地や温室ならぬ冷室で栽培されているものの、この国に自生しているのは熱に強い砂漠特有の多肉植物か、それとも地底深くまで根を伸ばす管樹などのごく少数だ。


 緑化などされようはずもないさらさらとした砂は常に姿を変え、砂漠の景色は秒ごとに変わり、天空に浮かぶ標なくしては旅人を惑わせる。

 過酷な土地。熱砂の国。

 常に灼熱ともいえる空気が肌を炙り、夜すらも熱は冷めない。


 この国で数少ない過ごしやすく涼しいときといえば、北西のリドニックから冷たい風が吹く雨期前の一時。

 そして今、夜明けからすぐのまだ太陽も弱く夜も残る時間だった。



 夜明けを過ぎてすぐ。王都ジャーリャに飛び来る鷹がいた。

 その鷹は深い意味を持たずに隣街からここへ来た。絶えぬ水場のある人間の都で水を飲もうと。あわよくば、そこにいるであろう小鳥たちを腹の足しにしようと。


 その鷹が、ジャーリャの境界を跨いだその時。

 砂漠の表面を飛ぶように駆けていた影が膨れあがる。朝日に照らされ、翼を広げた形をとっていた影が、まるで噴水のように地面から吹き上がった。


 まだ鷹に合わせて動いているように、膨れあがった影から一歩分の足が出る。黒色の影、しかしその片足だけは白い下衣を身につけ、普通の人間の足だった。

 足が地面に着地する。つられるように影が動く。うねうねと膨れあがった風船のように形を変えた影が、みるみるうちに人の姿になる。

 そして影は、ようやくただの人間の形態をとった。


 影が消え、鷹も姿を消し、そこには男がいる。

 男には必要のない日よけの外套は白。前で閉じるいくつもの釦は無垢の樫で作られ、旅人の使う無骨な外套とは一線を画す瀟洒さだった。

 頬には一筋の新しい傷。それはこの前の任務で出来たもの。

 白い髪の毛は毛先が緑に染まっており、それは染めずともそうなってしまう。

 その髪の毛の先を軽くねじるようにして砂を払い落とし、ムジカルの魔法使いカンパネラは、ふうと一息ついた。



 まだ朝早いほぼ無人の街。

 色街、歓楽街、そういった『夜』のものを除き、まだ眠っているこの街に活気はない。

 しかしその何もないはずの街角を見て、カンパネラはふと笑みを浮かべる。

 思い出すのはここしばらく過ごしたエッセンの地。同じように夜明け近くは人通りも少なくなる街の風景。


 同じように人の気配のほとんどない街。

 けれど、ここジャーリャの都の夜明けがカンパネラは好きだった。

 ジャーリャだけではない。ムジカルのほとんどの都は、エッセンの都とは全く違う夜明けがある、と思っていた。


 思い返すエッセンの風景は湿っていて、淀んだ空気が支配していた。

 人々は夜明けに目を覚まし、ぬめぬめとした青臭い空気の中深呼吸をし、今日も変わらない毎日を過ごす。畑を耕し、魚や獣を捕り、たまに着飾り遊んで暮らす。何も考えることなく。何かを考えることを拒否するかのように。


 しかしここはそうではない、とカンパネラは内心言い切る。

 まだ人気のない街並み。しかしそろそろ起きようかという気配もいくつかの家屋の中で感じる。

 活気の残り香がここにはある。前日の活気の残り香。そして、今日も活気あるようになるであろうという未来の残り香が。


 日沈む国から、日が昇る国へ。

 この国はまたこれから日が昇るのだ。夜になり沈んでも、また朝になれば必ず。

 朝になり日が昇っても、夜になればいずれ沈む。かの国とは違い。




 そして二人、カンパネラの進路に立っている者がいることに気がついたのは街に入ってすぐのこと。


「ラルゴ・グリッサンド麾下、カンパネラだな」


 久しぶりの王都に浮き立つ足取り。そんなカンパネラの足を、目の前の男は止める。

 立ち止まったカンパネラは眉を潜めた。


 まるで道化師。カンパネラはそう思った。

 自分とほぼ同体格。平均的な成人男性ほどの体を、ゆったりとした木綿色の服で隠している。それも、袖も裾も引き絞った服だが、肘や膝の辺りをことさらに膨らませたような。

 貼り付けたような口だけの笑みはその表情の不自然さを呼び、偏らせて後ろで丸めて縛った髪の毛に顔が引きつったかのようにも見える。


「何か?」

「まずは相互殺傷の承認を求めたい。行政官殿はこちらで」


 カンパネラは男が差示したもう一人の男を見る。なるほど、その帽子に刺さる一本の羽根飾りは役人のもの。

 役人がしずしずとカンパネラに歩み寄り、三枚の紙を示した。そのどれもが同じ書式で、確かにそれは相互殺傷の認可書類だとカンパネラは確認した。

 捺された印も確かに公的なもの。そして三枚共に既に書かれているのは、おそらく男の名前だろう。



 ここムジカルにおいても、殺人は重い犯罪だ。囚人として奴隷労働に服役するか、もしくは死刑になるほどの。

 当然だ。一人二人の殺人ならばまだしも、それが当然と広まれば秩序の維持は難しく、国体の維持も困難となる。

 だが、その殺人がこのムジカルでは許されることがある。

 それが、相互殺傷の認可である。


 定められた用紙に定められた書式に則り双方の名前を自身らで記した紙を三枚用意。

 その紙を互いに持ち、そして一枚を監督署に提出する。一定以上の階級の行政官がそれを割り印を用い承認すれば、契約は完了だ。


 用紙に定められた期日、その両者間における傷害や殺害は、その一切を罪に問われない。


 殺人は許せない。しかし、両者が了承した秩序だった殺人ならば仕方ない。

 そんなこの国家の気風を表す象徴的な法である。



「理由がわかりませんが」

 差し出された紙を受け取らず、カンパネラは男をじっと見る。知らない顔だ。およそ恨まれるような覚えはない。しかしこの書類に署名をすれば、最悪死を覚悟するようなことにもなりかねないのに。

 男はカンパネラの言葉に応えていう。

「ラルゴ・グリッサンド様は仰られた。あんたを殺せば、その地位はそっくりそのまま頂けると」

「……なるほど」


 なるほど、とカンパネラは内心繰り返す。

 通常は監督署で行われるこの契約を、この道端で急がせた理由。この道端に、相互殺傷を承認できるような地位にいる役人がわざわざ出てきている。その全てに得心がいった。

 なるほど。〈成功者〉ラルゴの命ならば。


「ではいたしましょう。ラルゴ様がそう仰られたのであれば」

 にっこりと笑い、カンパネラが外套の襟を正す。そして役人の持つ書類にすらりと指を滑らせれば、そこには焼き付くようにカンパネラの名前が記された。


 役人が頭を下げて、慌てて割り印を捺しにかかる。

 それを横目で見やりながら、カンパネラは「戯れましょう」と一言呟いた。



「なめんなっ!」

 激高したかのように声を荒らげ、それでも笑みは保ったまま男はカンパネラに跳びかかる。

 カンパネラはその様を注意深く見ながら、手をかざすように構えを作る。


(見たところ、空手。武器は?)


 まさか、カラスと同じ素手だろうか。だがならば、この男は『どちら』だ? 闘気使い特有の鍛えた体を確認も出来ず、そして魔法使いのようにも見える。

 まだわからない敵の正体。それを探るべく動きを見ていたカンパネラは、男の奇妙な動作に気がついた。


 跳びかかり浮いた体。その体勢のまま、男は腰に手をやる。もちろん腰には何もつけておらず、その手は何の意味もないようにも見えた。

 しかし、とカンパネラはその男の動きに対し、体を沈めて対応する。


 男はその腰にやった手を握る。握りしめたわけでもなく、何かを掴んだように。その手の形、そして体の形を見てカンパネラは確信した。


(剣か!!)


 カンパネラはその剣を避ける。男の手には何も握られておらず、その手はただ空を切っているにも関わらず。

 しかし、斬っているのだ。空を。

 明らかに何かが頭の上を通り過ぎ、空気を裂いて音を鳴らした。


 身を翻し、追撃に備えて男から距離をとる。

 男の手の先に覚えた違和感と感じた圧力に、カンパネラは注目する。


「抜剣術はお見事。ですが……《念器》とは、少々幼気が過ぎるのでは」


 そして褒めつつも窘めるように口を開く。

 男はその言葉を聞いて、目元まで笑みを広げた。

「子供の遊びと一緒にしてもらっては困る」

「どう違うかとんとわかりかねます」


 カンパネラは掌を下に向けて手を前にかざす。

 必要なのは掌の下の影。そしてその影はどろどろと溶けるように滴り落ち、やがて綺麗な剣を形作った。

「見たところまだお若いようですね。今年兵学校を卒業したばかり、というところでしょうか」

「才能というのは年齢に関係ない。力もだ」


 だからそのような幼稚な戦法を採るのだ、というカンパネラの言葉に否と言い切り、男はまた跳ねるようにカンパネラに迫る。また抜剣術か、と内心嘆息しながらカンパネラは応じようとするが、男の手が形作っているのはそうではなかった。

 左手はまるで棒状の何かを持っているかのように隙間を空けて握られ、右手も同様。しかしその左手は狙いを定めるように体の前に置かれ、次いで右手が腰だめに置かれる。


 違う武器か、とカンパネラはそこで察する。おそらく今度は槍。

 思った通りその左手から伸びる不可視の槍は右手に押されてカンパネラの喉元に迫り、影の剣で払うと堅い金属質の音を鳴らした。


 そのまま、一度、二度、と男は見えない槍を振る。その度にカンパネラはその槍の穂先を弾き、甲高い音を鳴らし続けた。


(剣、槍……続けざまに二つ。ならば……)

 カンパネラは弾きながら男の力を推測する。そして半ば予想通り、次に迫る上からの打撃に剣を合わせれば、槍とは明らかに違う重さが剣にかかり足下を砂地に埋めた。

(大槌……!!)



 ぱらぱらと衝撃に巻き上げられた砂粒が舞う。

 それに一瞬目を瞑った役人は、その目を瞑る前の瞬間に残った残像に不思議さを覚えた。


 空手だったはずの男。その手に、大きな槌が握られていた。槍と同じような木製の柄を軸に、大きな金属製の打撃部がつけられている。

 その打撃部がカンパネラの持つ黒い剣を直撃し、カンパネラはまるで一本の釘のように地面に打ち付けられていた。

 そんな残像。


 しかし目を開けて瞬きで瞼の砂粒を追い払えば、そんなものはない。

 男は未だに空手で、ただ無言劇(パントマイム)のように何かを振り下ろして打ち付けているだけだ。しかも、カンパネラには届かない位置で。


 無言で苛立つようにカンパネラが男の腹を蹴る。それを男はまともに受けたが、わずかな呻き声を上げるだけで後ろに下がった。


「やはり思ったよりもお若いのでしょうか?」


 カンパネラは男に問いかけて剣を向ける。興味はなかったが、感心はしていた。

 その魔法の使い方に。



 魔法使いを半ば排斥しているエッセンや、ほとんど輩出しないリドニックやミーティアとは違い、ここムジカルは魔法使いの共同社会がある。

 多いときでは総勢五百人ほどの魔法使いが揃うために、その魔法の互いの研鑽も盛んだ。そしてその研鑽は、わずかだが魔法の系統だった教育を可能にした。

 《念器》は、そんなムジカル生まれの魔法使いの大半が使える基礎的な魔法といってもいい。


 それはごく簡単に言えば、憧れの実体化。

 この国の子供たちは、小さな時から戦場帰りの兵士たちによる武勇伝に触れる。戦場で振るわれる剣や槍。飛び交う矢。炸裂する焙烙玉。その他様々な武器や兵器を使い、人を制し殺す様を聞く。

 そして多くの子供たちは、いつかは自分もと夢を見る。剣をとり、敵兵を薙ぎ倒す姿を。槍で敵を打ち砕く姿を。矢で敵の大将を射落とす姿を。

 焚き付けに割った細い木を剣に見立て、ちゃんちゃんばらばらと戦場の真似事をする。拙いながらも剣を打ち合わせ、焚き付けの槍を防ぎ、木っ端の矢を弾く。

 そんな遊び。娯楽として、真剣に。


 真剣になって遊び続け、いずれその子が魔法使いの子供ならば、ある境地に至る。

 木の枝の武器化である。


 魔法使いの持つ魔力は、その魔法使いの持つ認識を周囲に当てはめる。

 彼ら魔法使いが手に持つ枝が彼らにとっての剣ならば、それは剣なのだ。


 堅く鋭いと思い込まれたその剣は容易く実際の剣を折り、肉や人体を貫くことが出来るようになる。

 それが第一段階。そして魔術ギルドで行われている魔法の修練にも似たようなものがあるが、それはここで終わってしまう。


 そこからは、ムジカル独自の第二段階。

 槍や剣はそこにある、と思い込むという段階だ。


 魔法とは、自らの意思を世界に反映させる技術。

 手の先にある自分にしか見えない剣を顕現させ、敵を斬る。

 それは自らの思念を世界に映し出し影響を与えるという点において、これ以上ない魔法の修練となる。




「はいぃっ!!」


 男が気合いの声と共に大剣を振る。その一振りは次の瞬間水のように形を変え、鞭のようにカンパネラを襲う。


(……それにしても、多芸な……)

 男の多彩な武器を潤沢に使った攻撃を無傷で凌ぎながら、カンパネラは内心感心する。

 見ている中でも、その武器は変幻自在に自分を襲い来ている。幼年期に行われるため、大抵の魔法使いはこの《念器》の修練にすぐに飽き、一つの武器を顕現させる程度でやめてしまうというのに。


 カンパネラの剣に打ち合わせ、男が鍔迫り合いの形を作る。

「驚いたか? 俺はこの世の全てをこの手に作り出すことが出来る。お伽噺の原初の魔法を磨き上げ! 究極に至ったのだ!!」

「ええ、驚きましたとも」

 それは素直にカンパネラは褒めた。ムジカルの魔法使いが、稚児組で学ぶ最初の魔法。それを一応は実践で使えるほどまで高めた男の努力に。


 だが、とカンパネラの口が嘲笑に歪む。

「多芸だな、と」

「…………」


 素直に聞けば褒め言葉。しかしその言葉に何故だか称賛が感じられず、男はカンパネラを睨む。口元の笑いはそのままに。

 その目を嘲笑の息で吹き飛ばし、カンパネラは口を開く。

「しかしそれだけでしょうか」

 カンパネラが口を開くと同時にその手に持つ黒い剣が膨れあがる。これも、《操影》と名付けた自らの魔法と、《念器》の掛け合わせだ。

 爆発するように莫大な量の黒い鎖と化した影を躱し、男は転がり砂に塗れる。元々捕らえる気もなかったカンパネラは、それを冷ややかな目で見送った。


「多芸なのは認めて差し上げましょう。芸人としてならばラルゴ様のお側に侍るのもよろしいかもしれませんね」


 カンパネラの持っていた鎖も溶けるように消える。

 徒手空拳に戻ったカンパネラだったが、その姿に更に威容が増したように見えて男は無意識に唾を飲んだ。

「しかし望むのは私の席。ならば、私はそれに抗うとしましょう」

「…………!!」


 何か来る。そう思った男はしゃがみ込んだまま自らの前に両手をかざし壁を想像する。

 ひたりとその手が添えられたのは、どんな攻撃も通さない不可侵の壁(無敵バリアー)。それはどんな攻撃も跳ね返し、我が身を守るはずだ。


「惜しい。貴方も、聖騎士程度ならば相手にならなかったでしょうに」


 カンパネラは言いながらも、それは違うと思った。

 エッセンで殺した二人の聖騎士。奇襲した一人は容易く首を引き千切れたが、もう一人はほんの少しだけ手間取った。それを思い返し、カンパネラは内心『そこまででもないな』と自身の言葉を否定した。 

 しかし今際の際の餞の言葉を台無しにする気もなかった。


 攻撃が来ない。そう感じた男は、無防備なカンパネラに攻撃を加えるべく立ち上がろうとする。

 だがそれも出来ず男は戸惑う。

「……!?」

 手先は動く。目も動く。口も動くし息も出来る。

 なのに何故、この身は立ち上がることが出来ないのか。


 そしてもう一つ、男は気がついた。

 自身の目の先。カンパネラの足下。


 カンパネラが立つ場所。朝日に照らされ、そこに伸びている自分の影の形。

 通常、影というものは物の表面に沿って曲がるものだ。カンパネラが立っている場所は自分の影の上で、本来ならば自分の頭の影はカンパネラの脛の辺りに投影されていなければおかしいはずだ。


 しかし現実はそうではない。

 自分の影は、変わらずそこにある。まるでカンパネラに当たっていないかのように、ただ地面に沿ってカンパネラの足下に伸びている。

 まるで、カンパネラがその影を踏みつけているように。


 カンパネラの魔法の一つ、《影縫い》。

 それは、接触している対象の影の動きを封じる魔法。


 ぞ、と男が声なく動きなく寒気を感じた。身震いも出来ないこの今の状況が、カンパネラによって作られているとしたら……。



 カンパネラが右足を踏み出し、男の影、その首のところにかける。

 それは決して大衆の前では使わず、そして使えば必ず相手を殺すと決めている必殺の魔法。……役人は、仕方ない。


 幼い日のカンパネラは知らなかった。

 地に落ちる影を触れる者が、自分以外には存在しないと。


「ま、待って!!」

 何らかの魔法を行使されている。そう悟った男が叫ぶ。

 その鈍感さに、カンパネラは初めて見えるように溜息をついた。

「まさか、今の今まで勝てると思って戦っていたのですか? 言ったでしょう? 戯れ、と」

 勝機がないと悟るのが遅すぎる。その鈍感さは大幅な減点だ。

 それに、とカンパネラは自身の敬愛するラルゴの姿を思い浮かべる。


 朝、影が東から西へと伸びる時間帯。西からこの街へ自分が訪れる。

 それを予見してこの場所へこの男を導いたラルゴが、この結末を想像していないと思えない。

 戯れなのだ。〈成功者〉ラルゴにとっても、これは。


 まったく、人が悪い。

 そう嘆きながらも、カンパネラは構わず足を地面の上で滑らせる。


 濡れて地面に張り付いた紙を引きちぎるように、影が足の先で引き千切れる。

「ま…………っ」

 そして本体も、影と同じ形に。


 静かにごろりと男の首が落ちる。遅れて噴き出す血の噴水。

 その飛沫が靴に飛び、靴を替えなければ、とカンパネラは顔を顰めた。




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― 新着の感想 ―
[一言] カラスには通じなさそうだなぁ、光出せるし透明化すれば影すら消せる。 影使いの末路は、影に潜った所を照らされぐわーと決まっている。
[良い点] やっぱ影使いか。陽のあたる場所で出てこないし、潜れてたからそうだろうなとは思ってたが。 [気になる点] この子、実質オギノの上位互換なのでは? いや、一芸特化か多芸かの違いレベルかな? …
[一言] なかなかエゲつない魔法やな。
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