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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
戦う理由

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398/937

集まっていく

最近不定期で申し訳ないです


11/5 391部分に、一話挿入しました。レイトンが自らの思想を語る話なので、人を選ぶと思いますが読んでなくて興味のあるかたどうぞ。

 



「その老人を離し、ゆっくりと下がれ」

 ウェイトは腰を落とし、剣を握りながら僕へとそう命令する。

 しかし、従う義理などない。

「……何か勘違いをなさっているようですが……」

 スティーブンからは目を離せない。ここから抵抗されてしまえば、全てがひっくり返る恐れもある。

 というか今まさに、接触しているだけでも危ないのだ。

 この、スティーブンの腕を掴んだ僕の腕。剣を失い精彩を欠いた状態とはいえ、スティーブンであれば、わずかな身動きで折ることすら可能かもしれない。

「とりあえず……」

 眠らせてしまうべきだ。今のところおとなしいが、スティーブンに抵抗の機会を与えるのは危ない。

「動くなと言っているだろう!!」

 ウェイトが叫ぶ。冷たい空気を揺らし、風を強めた気さえした。

 背嚢を探りながら、僕はウェイトにちらりと目を向ける。茶色く分厚いコートは、寒冷地用の装備だろうか。いや、背中は見えないが胸に紋章などが入っていない。それに、プロンデは身につけても持ってもいなかった。ウェイトの私物か。

「この国の寒さにあってもなお白く煙るほどの冷気。これが貴様の魔法か」

「そうですけど、それは後で……!」


 スティーブンが身動きをする。

 まずいか。

 僕はその動きに対応できるよう、腕の関節を固めにかかる。顔だけこちらを向けたスティーブンの目は、先ほどと同じように僕を見据え……。


 見据え……あれ?


「スティーブン殿?」

「いや、参った、参った」

 いつの間にか、目に光が戻っている。虚ろな目ではなく、僕をしっかりと捉えている。

 それを訝しみ呼びかけると、スティーブンは恥ずかしげに笑った。


 魔法による冷却を止める。

 冷えなくなった空気が、少し温かくなった気がした。明らかに気のせいだけど。


「は、離してくれんかのう。もう、襲いかかったりせんから」

「……次暴れたら、あそこの怖い聖騎士様が相手をしますからね」

 様子を見ているウェイトを指し、僕はそう牽制する。その必要もなさそうだが、念のために。

 魔法が解けたことを察知したのだろう、少しずつ、ウェイトはにじり寄ってきていた。


 それを確認し、僕も警戒を解く。

 まあ、今また僕に襲いかかってきても構うまい。

 そうなればさすがにウェイトもスティーブンを止めに入る……と思う。 


 手を離す。

 スティーブンは立ち上がり、雪を払い落とすように鎧を叩く。

「ぬわ!! 痛ううぅぅ!?」

 それから、今思い出したのだろう。僕が砕いた手の甲を押さえて呻いていた。



「で、僕は離れればいいんですかね」

「……何をしていたか、説明してもらおうか」

 僕の問いには答えず、ウェイトは静かに言葉を吐く。ウェイトの方の警戒は解けていないようで、未だ抜きかけの剣の柄がしっかりと握られていた。

「見たままです。……といっても、僕もよくわかっていないんですが」

 僕は周囲の状況を指し示す。

 荒れた石畳はほとんどスティーブンの仕業で、撒き散らされてへこんだ雪面も大体そうだ。

 わけもわからず襲いかかってきたスティーブンに応戦した結果がこれだ。僕も事情を知りたい。


 唯一事情を知っているであろうスティーブンに目を向ける。

 ……どうもこの様子では、途中から意識が戻っていたようだが、どういうつもりなのだろうか。


 そして、やはり僕の回答には納得いかないらしい。

「我は、何をしていたか、と聞いている」

「僕は応戦しただけですね。自分の身を守るために」

 ウェイトの怒気が強まる。だが、僕にだってよくわかっていない今、怒られても困る。

「下手な言い訳は通用しないと、わかっているだろう」

 柄を握る指に力を込める。まだ刃を僕に振るわない。そういった節度はあるらしい。

 しかし、困った。僕は何もやっていない、が、しかし僕が言ったところで信用はすまい。

「本当ですよ」

「老人への暴行、小さな罪とはいえ、もう言い逃れは出来んぞ」

「……貴方相手に言い逃れをしようとも、何の意味もないと思いますが」

 一歩後ろに下がる。スティーブンと離れ、老人を境にウェイトと正反対の位置に立つように。

「殊勝な考えだな」

「いえ、そうではなく……」

 ウェイトの言っている意味もわかるが、僕は違う意味で言ったのに。



「……はて、聖騎士様は何を仰っておられるんかのう」


 突然、スティーブンが惚けた声を出す。

 まだ手は痛いようで、この寒い中にもかかわらず脂汗を流しながら。

「何を? 貴殿の保護をするために、そこの凶悪犯を捕らえようとしているだけだが」

「申し訳ないが、それもおかしな話じゃ。聖騎士、というからにはエッセンの方でござりましょう? そんな聖騎士様に、この国における逮捕権はないはず」

「…………!」

 助けようとした対象に痛いところを突かれたようで、ウェイトの笑みが翳る。というか、ウェイトも笑っているところからしておかしいのだ。

「貴殿も、いや、貴様も仲間だったか」

「……友人じゃよ。なぁ?」

 スティーブンが振り返ってそう尋ねるが、僕は目を逸らした。


「つれないのう。じゃが、まあ、カラス殿は無実じゃよ。襲いかかったのは、儂。それもどうやら何者かに操られてじゃな」

「その男を庇い立てしようと、恩は売れないぞ」

「本当のことじゃ」

 先ほどの錯乱した様子は消えて失せ、すっかり落ち着いた様子のスティーブン。

 僕的にも、それは不自然な様子なのだが。

「……操られて?」

「おう。何者かに薬を含まされて拉致された。そして、錯乱の薬を使われたらしい。闘気を使ってようやく毒抜きできたわい」

「それは、誰が……」


 突然明かされる告白。

 いや、それも少しまずい話だ。

 スティーブンを襲い、拉致する。それだけで相当な手練れだ。しかもそこから精神操作を行い、……行って、出た指示は?


「誰が、何をしろと」

「誰ぞしらんが、若い魔法使いを殺せ、とな。生憎その男の顔は見ておらん」

 スティーブンは目と口を閉じ首を振る。

 使えない……とは責められないか。突然拉致された状況で、慌てふためかない方がおかしい。

 スティーブンの言葉を聞いて、ウェイトが僕の方を見る。

「ふははは、ならば、やはり貴様が遠因か。若い魔法使い、貴様はどこで何をした? 何の恨みを買ったと?」

「……正直、身に覚えがないですね」


 僕がこの国で恨まれそうな相手。

 一瞬あの花売りの少女が浮かんだが、彼女は死んだ。もう、僕を憎み何かをすることは出来ない。また、彼女の縁者という線もないだろう。

 初めに入った街の町長は、僕を嫌っているかもしれないが殺すまではいかないだろう。多分。


 まあ、一番怪しい線がまだ残っているのだが。

 しかし、ほとんど全て消したはずだ。

 レヴィンが関わる有力者。その十二人は、もう既に無力化されている。


「もういい。やはり、貴様はそこにいるだけで騒乱を起こす。なに、権限などどうにでもなる。貴様を引っ立てていけば余罪も山ほど出るだろう。まず、直近の採掘師殺しからだがな!」

 力強くウェイトは歩を進める。その目には確信と喜びがあった。

 僕との間にいるスティーブンなど、目に留めてもいないのだ。



 その背後から、男が一人駆け寄ってくる。

 息を切らしていないのは、それだけ鍛えているということだろう。その石像のような顔が苦痛に歪むのは、想像しづらいが。

「ウェイト」

「プロンデ、遅いぞ。だが、間に合ったようだな。見ろ、我らの悲願がついに叶う時がきているのだ」

「いや、違うらしいぞ」

 立ち止まり、ウェイトの背後から言葉を投げ続けているのは相棒のプロンデだ。息を切らしてもいないのに、深く息を吐き出していた。

 その背後には、誰も目を向けないらしい。

「違う?」

「向こうに、荒れた地面の形跡がある。その男よりも、よっぽど大物のな」

 プロンデが指をさしているのは、先ほど僕やプリシラがいた道。

 大物とは、多分レイトンのことだろう。


「……っ!」

 察したのだろうウェイトが驚き振り返る。

 レイトンのことは、本当にこの男にはよく効くらしい。

「で、その老人は?」

「あ、ああ。そこのカラスに暴行を受けていた、が、そうではないと主張している。一度確保してから……」

「んなこったろうと思った」

 プロンデが諦めたように吐き捨てる。

 まるで、小さい子供をあやしているかのようにも見えた。


「喧嘩とレイトンの痕跡、どっちを追いたい?」

「決まっている……しかしこちらも重要だろう。……っ、く、プロンデ、こちらの聴取を」

「喧嘩だろ? 必要あるのか?」

「そうではないらしい。その老人は、誰かに命令されたと……」

 ウェイトの言葉に、プロンデは石像のように動きを止める。その視線に、ウェイトはたじろいでいた。

 プロンデは次いで視線をスティーブンに向ける。

「水天流プロンデ・シーゲンターラーと申します」

「まじかー、応えんといけんかー……」

 胸に手を当てぺこりと頭を下げたプロンデに、スティーブンは目を覆う。多分、名乗りたくなかったんだろう。

 だが、スティーブンも咳払いをし、胸に手を当てた。こちらは目上だからだろうか、頭は下げない。

「……月野流のスティーブン・ラチャンスと申す」

「<不触銀(ふしょくぎん)>……!」

 ウェイトが息を飲む。それがスティーブンの異名か。


 プロンデの方は察していたのだろうか。驚く様子も見せず、スティーブンに対し続けた。

「その名にかけて、真実をお願いしたい。……命令されたというのは本当だろうか」

「本当じゃよ。意識を制限されて、魔法使いを殺せと命令を刷り込まれた。それが真実じゃ」

「なら……」


 今回僕は普通に捉えられていた。

 しかし、これだけの実力者達が誰も反応しなかったということは、やはりもう、僕にも初歩的な部分は解析できていたということだろうか。

 本気で隠れられたら、また違うとは思うが。


「さて、選択の時間だね」

 レイトンが、プロンデのすぐ後ろで声を上げる。

 やけに明るい笑顔で、嘲笑うように。

 ウェイトの殺気が、それを見て膨れあがった。


「キミはどちらを追う? ぼくらの残した戦場を? それとも、今の話を?」

「っ……!」

 一歩踏み出し、白刃が中程まで抜かれる。

 しかし、その手はプロンデにより押しとどめられた。


「言っておくけど、あちらはただの喧嘩の跡だよ。被害者なんていないし、相手はほぼ無傷で帰っていった」

「信用出来るものか!」

 涼しい顔で、ウェイトの殺気をレイトンは受け流す。

「なら、あっちいけば? ぼくは止めないし、笑って見逃すよ。しばらくはこの辺うろつく予定だから、何かあったら声かけてくれ」


 レイトンの態度に業を煮やしたのか、ウェイトは歩き出す。

「プロンデ、こちらは任せた。何か掴んだら報告しろ」

 レイトンを見ないように、そしてその喧嘩の跡を見るために走り出す。


 プロンデもレイトンも、それを残念そうに見ている気がした。




「で、ラチャンス翁。その男について詳しく教えてよ」

 レイトンは、気を取り直して振り返りスティーブンへと迫る。

 楽しそうなのは気のせいだろうか。

「儂に命令した男、か。いや、すまんが何も思いだせんのじゃ」

「大丈夫さ。人は大抵のことは覚えているものだよ。思い出せないだけで」

 思い出せないというスティーブンの言葉を無視するように、レイトンは続ける。しかしそれを遮るように、プロンデが言葉を発した。

「……仕方ないだろうな。その男に拉致された場所は覚えているか?」

 煙草を取り出しながらそう尋ねる。

 二人に尋問されているようで、なんとなくスティーブンが不憫に見えた。

「そちらは、まあ……」


 そのとき、不思議なことが起こる。

 いや、不思議でもなんでもないのだが。


「……!」

 煙草に火を点けようと、プロンデが懐の袋から出した炭の棒。それが勢いよく燃え上がる。

 足下にはそこかしこにまだ液体酸素が残っている。

 ちょうど、何かの拍子で酸素濃度が上がったのだろう。

 勢いのよくなった火に驚いたようで、プロンデがそれを取り落としそうになる。


「……ああ!」

 それを見て、スティーブンも声を上げる。

 驚いたわけではない。何かに気がついたかのように。


 それから、僕のほうを見て叫ぶ。

「そうじゃ、奴じゃ、儂に命令したの!」

 老人特有の、名詞が出てこない発言。……奴、という代名詞だけでは誰だかわからない。

 当然、わからないだろうレイトンもプロンデも、揃って僕を見た。


 誰だ。


 僕がじっと見つめ返すと、スティーブンは手足をじたばたとさせながら名前を思い出そうとする。

「どなたですか?」

「ほれ、あれじゃよ、ほら……、あの、あそこでグーゼル殿と一緒に戦っていた……」

「……アブラム?」


 僕が名前を出すと、スティーブンは喜色満面の笑みを浮かべた。

「そう、あのおかっぱ頭!」

「……へえ……」

 その笑顔の向こうの二人の顔を見て、僕は反応を窺う。

 これは、やはり僕が説明しなければいけないのだろうか。

 僕は、内心溜め息をついた。




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― 新着の感想 ―
ウェイト=待て! という意味では名は体を表すとw
[気になる点] ウェイトとかいう無能早く退場して欲しいわ。
[一言] 「これは、やはり僕が説明しなければいけないのだろうか。 僕は、内心溜め息をついた。」 逮捕権も捜査権もなさそうな、ウェイト達のことなど無視したらと思うね。
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