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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
姫様の休日

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次の理由




 固ゆでで水分のないゆで卵を四苦八苦して平らげた後、マリーヤは解放の運びとなる。僕とエウリューケは彼女のこれからに興味など無い。何処へなりとも行ってもらって結構だ。しかし、考えなければいけないのはメルティたちからの追っ手だろうか。

 部下を先導しての、リドニック元王女の殺害未遂。国賓としてメルティを保護している以上、露見すれば内輪揉めとて寛容にはなれまい。本人たちがどう思っているかは知らないが、イラインとしては。

 一番穏便に済む方法としては、何事も無かったということにすることだろう。マリーヤが襲撃など企てておらず、何事もなく姫付の女官を辞職した。そういうことにすれば何の問題もない。それには、昨日関わったメルティとソーニャの協力が必要不可欠だが、一昨日の感じだとそれなりに出来そうではあった。


 当初の僕の予定通り、彼女に神器盗難の犯人になってもらうという手もあった。

 神器と共に忽然と姿を消した彼女に、その罪を被ってもらえば、その後の展開も少しばかりスムーズに進んだと思う。彼女のそれからの立場を一切考えておらず、そして僕の浅知恵からの策なので、グスタフさんに採用されることもなかった気もするが。



 まあとにかく、彼女の今後については僕が考えることではあるまい。

 それに、曲がりなりにも王族に付いていた女官だ。優秀なのは間違いなく、逃亡も問題ないだろう。


 でも最後に、彼女の周囲の今後を聞いておきたい。

 僕は、改めてマリーヤに向けて口を開く。敵意ではなく、神妙な目つきがそこにあった。

「最後に一つ、お聞きしたいのですが」

「なんでしょう?」

「リドニックは今後、つつがなく国として存在できると思いますか? 革命軍の貴女としての見解では」

 グスタフさんの言葉を簡単に添えながら、僕はそう質問をする。

 僕の質問に、答えづらそうにマリーヤは口を閉じた。


 先ほど言っていた言葉に、ひとつ引っかかるところがあった。

 マリーヤの言葉。そこで、新王は神器を必要としていないと、確かにそう言っていた。

 神器が無ければ国としてやっていけない。それは共通の認識だったはずだ。それに、昨日のグスタフさんの話では、これからのエッセンとムジカルの行動には神器の存在が重要なファクターとなっている。

 けして、軽視してはいけない存在。なのに。


「正直、厳しいでしょうね。何故、私は疑問にすら思わなかったのか。革命のその日、神器が必要と声をあげたのが一部の人間だけだったというのは、それだけでとても危ういことだったはずなのに」

「その一部の人間が、今回の襲撃に参加した人間だったと?」

「ええ。王宮付の者たちで、前王に反旗を翻した者たちです。その中で、戦える者が参加しました。といっても、兵士たちは新王の命令で国境警備に参加させられたため、連れてこられたのは王室御用達の猟師たちが主でしたが」

 やはり猟師だったか。予想が当たるのは、少し嬉しい。

「空気に呑まれた、とでも言い訳すれば聞いていただけるでしょうか。革命の日から今まで、疑問にすら思っておりませんでした。私たちが新たに担ぎ上げた新王は、確かに立派な方です。真に民のことを考えてくださるでしょう。けれど、あの方は(まつりごと)の経験が無い」

「……怖すぎじゃないですか」

 つまり、政治に関わったことも無いのに不満を叫んで革命軍をまとめ上げた。熱意はあるのだろうが、そこから先、王の座に座るべき者である保証は無い。もちろん、上手いことやるかもしれないがそれはわからない。

「声高く、私たちの声を代弁してくれた。希望を託すのに、これ以上無い方だと思ったのです。事実、今でも彼の言葉は正しいと思っています。ですが、今思えば正しいだけ。人は惹きつけるでしょう。民はついてくるでしょう。けれど、その道の先に何があるかは……」

 マリーヤは、唇を噛んだ。自分の行いに後悔でもしているのだろうか。

 それから、力なく右手で左の袖をぎゅっと握った。その手は力なく震えている。

「だから、私は帰らなければ。あの日、前王を討ち果たす手助けをした私には、新王の下でより良い国を作るという責任があるのです」

「……頑張っていただければいいんですけど」

 責任があるというのであれば、そうなのかもしれない。彼女だけが背負うべきものでもないとは思うが。


 そして、空気に呑まれて今まで疑問に思わなかった。ということはやはり。

「それに、今気がついたのであればこれから変えていけばいい。それに、気がつかなかったのは多分貴女のせいじゃありませんよ」

「え?」

 確証が無い。だから言葉を切るが、まず間違いは無いだろう。

「マリーヤ様が頭に霧がかかっていたと表現した状態。革命軍の有力者全員がその状態だったとすればどうでしょうか。何者かが、貴女たちの頭に直接影響を与えて、その状態に陥らせたと」

「それならば、説明は付きますけれど……。でも、何者か? それはいったい、誰が……」

「まあ、レヴィンなんですけどね」

 僕が軽く言うと、マリーヤはまた目を丸くする。反応が面白い。

「だから、理想はどうあれ今のリドニックは正常なものではない。実際にはうまくいくかもしれないものも、上手くいかなくなっている状態です」

 だが、事態は面白くない状態だ。個人レベルであれば別にそんな者がどれほどいようと関係ないが、国を動かす立場に複数いるとなると、それは僕にとって不愉快な事態だ。


「だから、僕は今回貴女の治療をエウリューケさんに頼んだ。だから、少しお礼をしてください」

「礼……?」

「今のリドニックの体制。王や、その周囲の人間が革命でどんな働きをしたか。それを全部教えて下さい」


 護衛依頼はもう終わった。

 その情報を基に、今回僕は旅に出よう。

 

 せっかく手に入れた治療の手段だ。二つの危険因子、潰しにいこう。


 視界の端で、エウリューケがキャッキャと手を叩いていた。



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― 新着の感想 ―
自覚してない魔法は本人にとっても厄介ですね。 これはレヴィンだけじゃなく、この作品の主人公カラスについても同様の懸念があり、 カラス本人が知らない、気付いてない無自覚パッシブ魔法何か展開してたりしても…
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