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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
抗争

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265/937

戦いにするため

 


「モノケルとみられる剣士発見。四番拠点南の街道を、東に向かって移動中、ね」

 受けた連絡の文章をもう一度読み上げる。言葉の通りであれば、先ほど大きな火の手の上がった拠点から現在移動中らしい。少しばかり離れているが、僕の足ならば特に問題はないだろう。

 その目的地を見定める。足に力を込めて、瓦を割りながら跳んでいく。眼下には、突然の異変に慌てる町民たち。彼らはそうでなければいけない。

 この騒動とは無関係でいなければ。




 建物が密集し、人口密度の高いイラインの街。爆発の勢いでやはり近くの建物は傷ついていた。半壊しているものもある。

 昨日確認した拠点本体は何かの事務所に擬態されていたのだろう。普通の平屋の隣にあった小屋だった。だが、それももう柱が僅かに残っているばかりで、あとは焼けて灰になっている。……エウリューケは、どれほど気合を入れて燃やしたのだろうか。


 その周囲には、やはり野次馬が集まる。そして衛兵を呼びに行く者や、周囲の建物の住民だろう、燃えつつある家屋を見て呆然と立ち尽くす者もいた。

 それを見て少し胸が痛む。無精髭を生やし、薄着の上にチョッキを纏った男性。エプロンを付けて、炊事の真っ最中だったのだろうか、ジャガイモを片手に持つ中年の女性。彼らが普段どんな人たちなのかは知らない。周囲に愛されている善良な人間かもしれないし、白い目で見られている鼻つまみ者なのかもしれない。だがしかし、彼らは今回の件に関しては部外者なのだ。今回のレヴィンとの件については、一切の関わりはなかった。

 膿を除くのには痛みを伴う、などといった表現で片付けられる問題ではない。


 僕らは今、奴ら(レヴィン)と同じことをしている。

 即ち、何事かの目的のために他者に犠牲を強いている。それはまさしく、等しく外道の所業だろう。


 だが、そうだ。

 もう二度と、他人にこんなことをさせてなるものか。

 衛兵たちに期待も出来ない。ならばこそ、悪人が正義の代わりをやるのだ。この火災。犯人は僕たちだ。


 ()()()()()()()()()()()

 そう決着させる。そうでなければならないのだ。




 モノケルを探すのは簡単だ。

 新たな火災が起きている様子はない。ならば、人は火事のほうに集まっていく。野次馬も、救助の者も、消火活動に参加する者も。

 そうすれば、そこから目的を持って離れていく者などそうはいない。足早に、他者の目を気にしながら走っていく影など上空からならばすぐに見つかる。


 屋根の上、さらにもう一つ建物を重ねたほどまで上がれば、道の様子がよく見える。

 砂糖に集る蟻のように動き回る住民たちや、駆け付ける衛兵や火消したち。

 そして、街を離脱しようと早足で俯き静かに立ち去る男の姿も。



 不自然にならぬよう、その前方に着地してから姿を現す。

 この事態だ。誰も彼も他人のことなど気にしておらず、気にするとしたら治安維持組織の者か、その反対か、だ。


 モノケルは前に立ちはだかる僕の足元を見て、それから視線を上に向ける。

「あれ、見た顔ですね」

「………………」

 僕の言葉には答えず、それから大剣を……、あれ、何だろうか。

 中段に大剣を構えたような動きに見えた。だが、おかしい。その剣は柄から鍔の部分までしか残っておらず、断面からは茎が見えていた。

「……どうしたんです? 貴方の武器、そんな変わった形でしたか?」

 初対面の時には、そこには黒光りする分厚い刀身があったはずだ。ダーインスレイヴのように刀身を作り出す魔剣ではない、と思う。

 首を傾げた僕を忌々しげに見ると、一層モノケルは腕に力を込める。

「それがどうした」

 モノケルの後方に通行人が走ってゆく。この事態の上、およそ剣を構えているようにも見えない男はやはり注目を集めないのだろう。それは好都合かもしれない。


 僕は納得し、息を吐く。

「いえ。別に」

 ならばもう簡単だ。剣を持たない剣士。それはもはや、羽を捥がれた鳥だ。残るは足の爪か嘴か、といった程度だろう。

 一瞬で放出された闘気によって、モノケルの姿が霞む。戦意は萎えていないようで、構えは解いていない。その姿に大剣が突き出されていると錯覚してしまうほどだ。

 目の前まで跳ぼうとした僕の体が、無意識にその刃を避けて左斜めに踏み込む。と、そこにモノケルの蹴りが迫る。僕の頭部に向けて放たれた右足を右掌で受け止めて、そのままの勢いでタックルする。


 片足で踏ん張ることが出来ないのか、モノケルは後方に吹っ飛ぶ。

「ぅっ…………!」

 短く小さいが、僅かに聞こえた呻き声。効いてはいるらしい。サーロのような能力は無いのだ。

 だが、受け身を取り、すぐに態勢が整えられる。口から液体を垂らし、それでもなお僕を見ていた。


「……もう少し、ちゃんと抵抗してもらえるとありがたいです」

「俺を嬲るか」

「強者の余裕と言ってください」

 僕が漏らした言葉に、無表情で反応する。まあ、今の攻撃は小手調べ的な意味もあったので、そうとられても仕方がない。

 しかし本当に、碌な抵抗も無い相手を殺すのは少しやりづらいのだ。勝手な心情ではあるが。

「一応往来なので、刃物は出したくないんです。痛いのは勘弁してくださいね」

 それでもやはり、逃がすわけにはいかない。

 後味が悪いが仕方がない。

 そう思い、もう一歩踏み出すが、その足もすぐに止められる。


 ギン、という金属が石に食い込む派手な音。

 少し驚いた。僕とモノケルの間を分けるように、大きな剣が降ってきたのだ。





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