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百一年の孤独 いけにえ令嬢と皇帝の恋  作者: ねここ


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遠い過去2


「本当に思い出したの?麗しの陛下!」「ああ、実はジェラルドの記憶を取り戻した時に思い出した。ベアトリーチェ、いつもお前に応援されたあの日々はずっと宝だった」「じゃあなぜ思い出したと言わなかったの?」「ジェラルドとしてソニアと向き合いたかったから。あ、でもソニアがホテルから飛び降りそうだった時一瞬既視感があった」「え?あの時?私もあの時からだんだんと思い出したの。同じこと考えていたのね。」ソニアは驚きに近いほどの喜びを感じた。ジェラルドはメーベルト様。私がベアトリーチェ。遠い遠い記憶。ソニアはベアトリーチェが飛び降りた場所を見つめ両手を胸の前で握り目を閉じた。ベアトリーチェ、報われたのよ。あなたの想いが長い時を経てメーベルト様に届いたの。ジェラルドは海を見つめソニアと同じように目を閉じた。沢山の人の犠牲があり今俺は生きている。ベアトリーチェ。君がいてくれたから今の俺は今の君といられるんだ。ジェラルドは隣に立つソニアを抱き寄せ言った。「もう絶対に離さない。今度こそ死ぬ時は一緒だ。絶対に。」

 二人は黙って海を見つめた。

 こんな日が来ると想像も出来なかった。憧れて憧れてこの人の為に命を捧げても後悔しないほど大好きだった人。神様は見ていてくださったのだわ。生まれ変わって、何も縛られるものがないこの自由な世界で愛し会えることができたのだから。

 黙って海を見つめるソニアにジェラルドは言った「ソニアは二度も生贄になり最終的に俺を自由にしてくれた。俺にとってソニアは幸せの女神だ」その言葉を聞きソニアは胸に引っ掛かっていた物が取れたように感じた。「そう思ってくれるの?ジェラルドを沢山悲しませた私は呪われた眠りの乙女と言われても仕方がないと思っていた。だけど、ジェラルドがそう言ってくれて私は、、救われたわ」ソニアはジェラルドを不幸にした生贄だと心のどこかで思っていた。でもジェラルドは私を女神だと言ってくれた。その言葉は一筋の光となり心に届いた。

 ソニアは感情が堰を切って溢れ出し両手で顔を覆った。ジェラルドは私を救ってくれた唯一の人。「愛してます。ジェラルド、、」ソニアは咽び泣いた。ジェラルドは何も言わずソニアを抱きしめた。



 ホテルに戻った二人はフィーレンの夜景を見ながら静かな時を過ごしていた。

 ソニアはソファーに腰掛けジェラルドに寄りかかりながらベアトリーチェだったあの日のことを思い出していた。沢山の事を話したいけれど、こうしているだけで心は満たされる。

 ふと窓辺にあるテーブルの上に飾ってある薔薇が目に映った。ローズピンクの薔薇。

ジェラルドはソニアの視線の先にある薔薇を見て言った。「昔からこのバラが咲くと飾っていたから。」「ジェラルド、まさか知っていたの?だから離れていた時ローズピンクのバラを送ってくれたのね。」ソニアはゆっくりと目を閉じて胸に広がる温かな喜びを噛み締めた。「ああそうだよ。俺の可愛い妻の好みは千年前から知っているよ」ジェラルドは目を細めソニアの額にキスをした。ソニアはジェラルドから深い愛情をもらい今までの悲しみや苦しみが消えてゆくように感じた。ジェラルドは些細なことも見逃さず愛を与えてくれる。

 ソニアはまばたきもせず愛情を込めた眼差しでジェラルドを見つめた。「ソニア、どうしたの?」ジェラルドが優しい声でソニアに話しかけた。ソニアは視線を逸らしジェラルドの手を握り静かな声で語り始めた。「私はずっとあなたに片思いしていた気分だった。ベアトリーチェの時は完全に片思いだったし、ジェラルド一世の時も。ジェラルド三世の時は愛されていたけど不安だった。でもね、今は違う。同じ時を生きて同じように分かち合える。溢れるほどの幸せな毎日を与えてくれるあなたが、なによりも大切で誰よりも愛しています。」ソニアは視線を戻しジェラルドの手を強く握った。ジェラルドはソニアを抱きしめソニアの頭に自分の頬を乗せ言った。「ソニア、俺がメーベルトだった時ベアトリーチェは確実に俺の心に入り込んだ。あの明るい彼女がいなくなった時から心臓の半分は止まったままだった。それが愛だとわかったのは随分後だったよ。」ジェラルドは目を閉じ沈痛な表情を浮かべた。「ジェラルド一世の時の事は、、思い出したくない。後悔しかなかった。生まれ変わった三世の時は本当に幸せだった。でも最後にソニアを一人残して死んだことが苦しくて魂が引き裂かれるようだった。こんなに苦しい思いをするならソニアを忘れたいと思った。だから今回は思い出さなかったんだ。だがやっぱり俺の魂はソニアに惹かれ身動き取れなくなった。ソニアは俺のこと興味ないと思っていたから。でもソニアの気持ちを知った俺は絶対にあなたを手に入れると決めた。そして全てを思い出したんだ。」ジェラルドは瞳を潤ませるソニアの瞼にキスをした。「ソニアと離れていた時は今回こそ失敗は許されないと覚悟した二年間だったよ。」ソニアはジェラルドの指に自分の指を絡ませた。あの二年ジェラルドはそんな思いを持って私を守る為に駆け回ってくれていたのね。感動と喜びに胸が震え繋ぐ指に力が入った。ジェラルドはその手を持ち上げソニアの指輪にキスをした。それはジェラルド一世がソニアに贈った指輪だ。「ジェラルド、私は本当に幸せです。だからもう過去を後悔しないで。」ソニアは涙ぐんだ眼差しをジェラルドに向けた。「ああ、これからは今のソニアを見つめていくよ」ジェラルドは穏やかな笑顔を浮かべソニアを見つめた。ああ、この笑顔はメーベルト様を思い出させる。メーベルト様だったあなたはどんな時も微笑みを絶やさない人だった。だからこそその苦しみの深さが私には見えたの。絶やさない笑顔の裏には深い苦しみがある。ベアトリーチェだった私も同じだったから。


 ソニアは沈黙のあと口を開いた。「メーベルト様、ベアトリーチェは死ぬ瞬間まで幸せだった。あの日あなたがくれたストールを巻いて海に沈んで行った時、海の中で輝く太陽の光が見えたの。それはあなたが持つ光だったのよ。あの日海で拾った海のカケラは昼の太陽を浴びてキラキラと輝いていた。そのカケラは私にとってメーベルト様、あなただわ」ジェラルドはポケットから海のカケラを取り出し言った。「ベアトリーチェ、それならあなたに渡した夜の海のカケラはあなたの涙だ。ラストダンスの時にあなたの流した涙が月の光を浴び輝いていた。儚くも美しいその涙を見た時その涙を止めたいと、いつものように笑って欲しいとあのストールを渡した。」「俺はあの日、夜の海で拾ったのはベアトリーチェの涙だ。」ソニアもジェラルドからもらった夜の海のカケラを取り出した。


「愛している。全てのあなたを」



  

 ソニアは神の声を思い出した。

 

 「再び生贄になった其方の為に再会の機会を与えよう。千年の眠りが明けるとき、死のある人生が歩めるときだ。次こそ掴むのだ。」

  

 長い長い時を超え全ての想いが通じ合った二人は長いキスをした。

何千年もの孤独から抜け出した今、幸せに溢れた物語を綴ってゆく。

百一年の孤独をご覧いただき本当にありがとうございました。


2023年の秋に書き上げたこの物語をもう一度読み返し手直しし、書きたかったもう一つの最終話を書くことができました。


まだまだ下手な小説で恥ずかしい限りですが読んでくださった方々に心より感謝いたします。

ありがとうございました。


皆様の幸せを祈って。


ねここ

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