エピソード 遠い過去 ベアトリーチェ
書きたかったもう一つの最終話に着手致しました。
本作とは別の作品である「ベアトリーチェの推し活」と関連するお話になります。
もしよろしければそちらもご覧いただければ嬉しいです。
ありがとうございました。
「ソニア、旅に出よう」
結婚して二年目、ジェラルドはフィオレンという北にある古都にソニアを連れて行った。
ソニアはジェラルドの所有するホテルの最上階から眼下に見えるフィオレンの街を見て驚いた。何千年も時が止まっているような街並み。「古い建物が残っている。昔を思い出すわ」懐かしさが込み上げた。「ソニアはもうわかっているよね。ここがどこか」ジェラルドは背後からソニアを抱きしめ言った。
「ここは、フィーレン。」
二人は手を繋ぎ石畳の古い街道を歩いた。この街はとても静かで人通りも少なく首都のように注目を浴びることもない。ジェラルドは結婚してからもあまり外出をしないソニアとこうして歩くのが夢だった。ソニアは手を繋ぎゆっくりと歩いてくれるジェラルドを見上げ幸せが込み上げた。ジェラルドは結婚してからも世間の注目をあびないよう気遣ってくれる。そのおかげで穏やかな生活が送れているけれど、私もこうしてジェラルドと街を歩きたかった。だから今日はとっても嬉しい。ジェラルドは輝く瞳で見つめるソニアを抱き寄せキスをした。その瞬間フラッシュを浴びジェラルドは顔を上げその方向を見た。一人の男がカメラを抱え逃げていった。ジェラルドは大きくため息をはきソニアに言った。「ソニアごめん。まさかパパラッチがいるとは。油断してた」ソニアはジェラルドの頬に触れ言った。「いいの、ジェラルド。たまには見せてあげないとあの人達も食べてゆけないわ」「アハハハ!まさかソニアがそんな事を言うとは。俺はいつでも見せつけたいんだよ」ジェラルドはもう一度ソニアにキスをした。
ジェラルドとの生活は毎日が新鮮で楽しい。ジェラルドは規則正しい生活をし、ソニアは早寝遅起きの生活をし、時々眠りすぎてジェラルドを心配させる。「ソニアがまた眠ってしまったと不安になる」そう言うジェラルドに起こされる事も多々あるがそんな時はジェラルドを抱きしめる。ジェラルドは昔のトラウマを未だに解消出来ない。そんな時は手を繋ぎ横になって昔の話をする。「ジェラルド覚えてる?あの洞窟で私を起こした時、おいおばさん!って」ソニアはジェラルドを睨みながら言った。ジェラルドは繋いだソニアの手にキスをし言い訳を始めた。「ソニア、あの時は俺も若かった。世間知らずで目の前に眠るソニアの美しさにどう対応して良いのかわからなかったんだ」「それでおばさんなの?」ソニアは口を尖らせた。「ソニア、ソニアの指摘を受け冷静に考えると、ジェラルド一世は最低な男だったな。ソニアはそんな俺を好きになるとは変わってるな!」ジェラルドはからかうようにソニアの頬をつねった。ソニアはジェラルドの言葉に唖然としたがクスクスと笑いジェラルドに言った。「ジェラルドも同じよ。寝てばっかの私を好きになるなど可笑しい人!」ジェラルドはソニアの言葉を聞き心配事が吹き飛んだ。そう、俺は寝ているソニアを一目見た時から心を奪われた。ソニアがまた眠ってしまったら起きるまで待てばいいんだ。ソニアは明るい表情に変わったジェラルドを見てホッとした。こんなにも繊細で私を愛してくれる人を置いて寝られないわ。これからはジェラルドより早く起きよう!そう決めるが翌日もその次の日もジェラルドに起こされるソニアだった。
「ソニア、行きたいところがある」昼食を終えジェラルドが言った。「その言葉懐かしい」ソニアはジェラルドとススキの丘に行った日の事を思い出した。「ススキの丘?ああ、一世の時も三世の時も言ったな。でも今回はもっと特別な場所だ」ジェラルドはソニアを連れレストランの外に待たせてあった車の後部座席に乗り込んだ。車は馬車とは違い石畳の街道を滑らかに走る。過ぎゆく景色を見つめているとジェラルドがソニアの肩を抱き「何をみているの?」と聞いた。「楽しそうに見えた?」ソニアはジェラルド一世の頃の会話を思い出しジェラルドに聞いた。「ハハハ、ソニアと話しているとどの自分だったか混乱するな。」ジェラルドも思い出したようだ。優しく笑うジェラルドを愛しく思う。ソニアはジェラルドの頬にキスをし言った。「ジェラルドはジェラルドだわ。でも私は今のあなたが一番好き」「なぜ?」ジェラルドはソニアの髪に触れキスをしソニアを見つめた。「帝国の皇帝として不自由に生きていたあの頃と違って縛られることなく自由だから。」
その言葉を聞いたジェラルドはソニアを抱きしめた。やっぱりこの人は俺の最愛の人。
「俺、実はもう少し前の事も思い出した」車が灯台に到着した。灯台の向こうに海が見える。二人は車を降り歩き出した。「もう少し前?」ソニアは勘づいた。ここはあの場所。「ああ、もっと前、ソニアに出会うもっと前のことだ。」ジェラルドは断崖絶壁に立ち上ソニアの頬に手をあてながらいった。「君はベアトリーチェ」ソニアは驚いた。ジェラルドが遥か昔の記憶を蘇らせるとは思いもよらなかった。「いつ思い出したの?メーベルト一世様」二人は顔を見合わせて笑った。




