夜の海のカケラ
「何を見ているの?」突然声をかけられた。振り向くとジェラルドがいた。「あ、今朝は、、失礼しました」ソニアは言葉に詰まりながら謝った。「ソニアは何も悪くない。こちらこそ失礼した」ジェラルドは優しい眼差しを向けソニアに謝った。「いえ、、、」ソニアはそう言って黙ってしまった。ジェラルドの優しい眼差しは全てのジェラルドを思い出させる。これ以上何か話したら崩れてしまいそう。ソニアは空っぽの両手を見つめ黙った。ジェラルドも黙った。ソニアは何か話したほうが良いのかとジェラルドを見た。ジェラルドは月を見ていた。無理して話す必要がないとジェラルド優しさが伝わった。ソニアも静かに月を見た。
ソニアは月を見つめジェラルド一世との約束を思い出した。月を見るたびにあの日守れなかった約束を思い出す。あの時約束を守れていたら何か変わったのか?ソニアには答えがわからない。ジェラルド一世を思い出しまた涙が出てきた。隣に座るジェラルドはソニアを見つめその涙を指で拭った。ああ、ジェラルド三世はソニアが泣く度にそうしてくれた。ソニアはジェラルド三世を思い出し涙が溢れた。ジェラルドは黙ったままソニアの涙を拭った。ソニアは申し訳なくなり手に持っていたタオルを目に当て「ジェラルド様すみません」と謝った。ジェラルドは何も言わず黙って隣に座っていた。少し落ち着いたソニアはジェラルドの方を向き「もう大丈夫です」と言った。涙の跡が残るソニアの頬を見つめジェラルドは何も言わず握ったままの片手を出した。ソニアはどうしていいか分からずジェラルドを見た。「ソニア手を出して」ソニアは言われたまま手を出した。ジェラルドは「夜の海のカケラをソニアに」そう言って深いブルーの研磨されたガラスのカケラをソニアの手の上に置いた。ソニアは目を見開きジェラルドを見つめた。あのジェラルドがガラスのカケラを?!まさか私に?想像もしていなかった奇跡が起きた。全身に暖かいものが流れさっきまで悲しくて死にそうだった心と体が軽くなる。ソニアはきらめく笑顔をジェラルドに向けた。ジェラルドは優しく微笑みソニアを見つめる。ソニアの心は喜びで満たされた。
「ジェラルド様、なによりもどんな宝石よりも嬉しいです。ありがとうございます」ソニアは夜の海のカケラを重ねた両手で握りしめた。ジェラルドはポケットからソニアがあげたあのガラスのカケラを取り出し言った。「ソニアがくれた海のカケラは昼の太陽を浴びた海、俺が渡したカケラは月の光を浴びた夜の海。この二つは一つなんだ」ジェラルドはそうだろ?と言うようにソニアに笑いかけた。ソニアはその言葉だけでこの先一人でも生きていける気がした。「ジェラルド様、ありがとうございます」ジェラルドがあのガラスのカケラを持ち歩いていると分かっただけでも幸せなのにそれ以上の言葉をくれた。ジェラルドにはカレナがいる。だから深い意味のない言葉なのかもしれないが、ソニアは今感じたこと、この瞬間が全てだと思った。この瞬間は私の心に永遠に残る。ジェラルドありがとう。二人はまた黙って数多の星で輝く夜の海を眺めた。




