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百一年の孤独 いけにえ令嬢と皇帝の恋  作者: ねここ


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荒野になった城へ


数日後。テレビを見ていたらジェラルドとカレナの馴れ初めや、デートの様子などが放映されていた。きっと多くの人が関心を持って、多くの人が二人の婚約を喜んでいるのだろう。ソニアのちっぽけな恋心など誰一人喜ばせる事も幸せにする事も出来ない。ソニアは生贄になった日から孤独だからだ。ソニアの事を知っている人は誰一人この世界にいない。テレビを見つめながらふと気が付いた。カレナは一度もジェラルドの仕事場に来ない。どうして来ないのかわからないが、ソニアにとってありがたい事だった。二人の仲睦まじい姿を見たらきっと悲しくなる。だけど、心からジェラルドの幸せを願っているのに自分勝手な感情も捨てられない。この矛盾こそ恋愛の醍醐味であり苦しみなのかもしれない。ソニアはテレビを消しため息をついた。そういえば今日はジェラルドが買った土地から古物が出土されるから様子を見にいってほしいとリリに言われていた。そろそろ出かける時間だ。ちなみにジェラルドは昨日から居ない。どこに行ったのか何をしているのか知らない。だけどテレビで見る限り一人では無くカリナと一緒。


 ソニアはエントランスに行き迎えの車に乗り込んだ。車は一時間ほど走ったところに止まった。ソニアはここが此処がどこなのかわかった。ここはお城があった場所。ソニアは黙って車を降り、案内人を無視しどんどんと敷地内に進んでいった。気がつけば涙が頬を伝いこぼれ落ちてゆく。荒れ果てた土地は草が生い茂り所々地面が見える。ここはバラの庭園、ここは広間、ここはジェラルドの肖像画があった場所。ソニアは草をかき分けどんどん進んでいった。ジェラルド一世、ジェラルド三世との思い出が色鮮やかに蘇る。ああ、そしてここはジェラルドの部屋と私の部屋。


 ソニアは涙を流しながらしゃがみ込んだ。今は何一つ残っていない広大な荒地だがあの日、私はここで生きていた。楽しい思い出も悲しい別れも遥か彼方、遠い過去。時間を巻き戻したくても戻せずたった一人時空を超えここに帰ってきた。ジェラルド!ジェラルド!ジェラルド!ソニアはジェラルドの名を呼び続けた。


 

 ソニアはひとしきり泣いた。時間の感覚は無いが太陽の位置を見ると数時間が経過している。少し落ち着いたのか案内人を置いてきてしまった事を思い出し車の場所に戻った。案内人は待っていた。「すみません」ソニアは謝った。案内人は言った。「いえ、ジェラルド様からソニアさんはフローエン帝国時代がお好きだと伺っておりましたから気になさらないでください。この広大な土地ではあちこちから色々な物出土するんですよ。とりあえず、出土されたものは一旦別の場所で保管しております。何かご覧になりたい場所はございますか?」案内人は笑顔を浮かべソニアに聞いた。ジェラルドがこの人にそんな話を伝えてくれていたのね。だから私の勝手な行動に驚かずまっててくれたのね。それなら、、。 「お願いがあります。」ソニアは案内人に今晩ここに泊まりたいと言った。「ソニアさん、それは難しいオファーです」案の定反対されたがそれでもしつこくお願いしとうとう案内人は根負けし簡単なテントと毛布と寝袋を用意してくれた。「ここは私有地で危険はありませんが、電気がありませんので真っ暗ですから早くお休みになってくださいね。また明日朝にお迎えに参ります」そう言って帰って行った。ソニアは一人になった。静かで虫の鳴き声だけが聞こえる。ソニアは毛布だけ持って自分の部屋があった場所に移動した。懐かしい。目を閉じればまるで昨日の事ように全てを思い出せる。窓はここ、ベットがあった場所はここ。今はベットもなければ誰もいない場所。ソニアは寝転んだ。あの光景が蘇る。ジェラルド一世と守れなかった約束、ジェラルド三世の沢山の愛、そして悲しい別れ。ソニアは涙が止まらなかった。どうして一人残されてしまったのか、辛すぎて息ができない。どれだけ泣けば悲しみから解放されるのだろう?

どれだけ泣けば楽になれるのだろう。ソニアはこのままここで死んでもいいと思った。そして泣き疲れいつのまにか眠っていた。

 

 「ソニア」と声をかけられてソニアは声の方を振り返るとジェラルドがいた。どのジェラルドかわからない。だけどどのジェラルドでもいい。魂は一緒だから!「ジェラルド!!」ソニアは泣きながらジェラルドに抱きついた。ジェラルドは何も言わずソニアを強く抱きしめた。「ジェラルド、会いたかった。ジェラルド、どうして私を一人残して逝ってしまったの?私は死ぬことも許されなくて千百一年も孤独だったのよ。こんな思いするなら出会いたくなかった。この夢も覚めたらまた一人、一人なの。」そう言ってソニアは泣き崩れた。ジェラルドは何も言わずソニアを抱きしめている。ソニアはこの夢が永遠に覚めないでほしいと願った。



 

 目が覚めるとなぜかホテルの部屋のベットにいた。ソニアは起き上がりパニックになった。何がどうなってこうなったの?あの場所に行った事も全て夢だった?ソニアはベットから飛び出て着替え部屋を出た。コンシェルジュに聞こうとこのフロアーのカウンターへと歩き始めた時、ジェラルドが部屋から出てきた。そしてその隣には会いたくなかったカレナがいた。ああ、会いたく無かった。ソニアは泣きそうになったがグッと堪え目を合わさず会釈だけをしコンシェルジュのところに向かおうと歩き出した。「ちょっと待って」カレナがソニアの腕を掴んだ。ソニアは驚いてカレナを見た。ジェラルドが眉間に皺を寄せソニアの腕を掴むカレナの腕をつかんだ。カレナは気にする事なく満遍の笑みを浮かべソニアに言った。「おはようございます。」ソニアは戸惑いながら言った。「あ、失礼しました。おはようございます。」「カレナ、ソニアの手を離せ」ジェラルドは低い声を出しカレナに言った。ジェラルドは怒っているようだ。カレナは笑顔を浮かべているがソニアの腕をぎゅっと掴み離さない。ソニアどうしていいか分からずカレナを見た。

「ウフフ、何か悲しい事があったの?目が真っ赤よ。可愛いうさぎちゃん」そう言ってカレナはソニアの腕を離した。ソニアはカレナの言葉を聞き昨夜のことを思い出し涙が落ちた。「カレナ!いい加減にしろ!」ジェラルドは声を荒げカレナの腕を掴み部屋に連れ戻そうとした。その姿を見て心臓が凍ったように冷たくなった。ジェラルドは私のジェラルドでは無い。「すみません。失礼します」ソニアは走って部屋に戻った。気分は最悪だった。声を出さずソファーに座って泣いた。昨日散々泣いたのにまだ泣けるんだ。そう思いながら目を閉じた。次に目が覚めた時は夕方になっていた。ソニアは一体自分は何をやっているんだろうと思った。太陽が沈み大きな月が出ていた。

月が見たい。ソニアは冷たいタオルで目を冷やしながら部屋を出た。ジェラルドがいるのかいないのか分からなかったがカレナと一緒にいる姿を見たくない。足早にジェラルドの部屋の前を通り過ぎエレベーターでプライベートビーチに出た。誰もいない海岸沿いをゆっくりと歩いていたら気持ちが落ち着いてきた。波の音がこの星の息遣いのように優しく聞こえる。ソニアは砂浜に座って大きな月を見た。


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