海の底
ソニアはジェラルドと二人きりになった。少し気まずい。ジェラルドは黙っている。ソニアはジェラルドが何を思い考えているのか気になりジェラルドを見た。ジェラルドはソニアを見ていた。目があった!ソニアはじっとして居られなくなり宝石を眺めるふりをした。ジェラルドの視線が気になる。ソニア落ち着くのよ。自分に言い聞かせる。「それが気に入ったの?」不意にジェラルドが声をかけた。「え?いえ、ただ綺麗だなっと思って、、」ソニアはぎこちない仕草で宝石をさわった。「そうか、これからソニアにプレゼントを渡す男は半端なものはあげられないな!」ジェラルドはそう言って笑った。その言葉を聞いたソニアは胸が痛んだ。まるで自分に関係のないことのように話すジェラルドの言葉が胸に突き刺さる。
「私は高価なものは要りません。大切なのは気持ちですから道端の石でも気持ちがあれば宝物になります」ソニアは傷ついた自分の気持ちを隠すようにジェラルドに微笑んだ。あなたは覚えていないでしょうけど幼かったあなたがくれた庭の小石は大切な宝物だったわ。
「そうなのか?みんなそうじゃないと思うぞ」ジェラルドはソファーの背もたれに体を預け言った。「人のことはわかりませんが私はそうですよ!」ソニアは千年ぶりにジェラルドに苛ついた。ジェラルド一世と出会った頃を思い出す。いつも私を怒らせたあなた。今は違う人に感じる。「ソニアは変わってるね」ジェラルドは笑いながら言った。ソニアはその言葉を聞きショックを受けた。やっぱりこのジェラルドは違うジェラルドだわ。前のジェラルドならわかってくれた。だけど今のジェラルドはなんでもない物が宝物になる経験がないのかもしれない。ソニアは気を取り直し聞いた。「ジェラルド様には婚約者様がいらっしゃると伺いました。その方がジェラルド様にうーん、たとえば綺麗な落ち葉を拾ってくださったら大切にしませんか?」ソニアはジェラルドを見た。「あははは!ソニアは面白いことを言う、カレナが落ち葉なんか拾うわけがない、彼女からのプレゼントは最新のアクセサリーとかだよ。」ジェラルドは驚き楽しそうに笑っている。けれど私は楽しくない。「そうなんですね。」ソニアはジェラルドが好きな人は自分とは全く違うタイプの人だと初めて知った。ジェラルドにとって突拍子のない質問をした自分がすごく恥ずかしくなりソニアはそのまま黙った。
ジェラルドはソニアがカレナの話をしたことに内心動揺していた。ソニアは俺とカレナの事を知っている。カレナを俺の婚約者だと言った。間違ってはいないがソニアの口から聞くと否定したくなる。今自分が何と答えたのかおぼえていない。だが、ソニアを黙らせるようなことを言った事は確かだ。なぜいつもソニアに対しうまく対応出来ないのかわからない。他の人間なら難なく出来ることもソニアには出来ない。けれど今、とにかくこの気まずさをどうにかしなければ。
「ソニア、何かこの中で欲しいものはある?」ジェラルドは向かいに腰掛けるソニアの方に身を乗り出し聞いた。「いえ、ありません」ソニアはジェラルドに目も合わさず小声で答えた。気まずい。二人とも黙ってしまった。重い空気が漂っている。そんな中リリが帰ってきた。
この部屋の空気の重さに気がついたリリは「ちょっと、空気最悪ですね。浜辺に散歩にいきましょう!」そう言って二人の腕を掴み強引に二人をエレベーターに乗せ手を振った。二人は唖然としたがお互いに気まずさを解消できず黙ったままエレベーターに乗った。エレベーターは目的地に到着した。そこはホテルのブライベートビーチだ。ジェラルドは遠慮気味にソニアに手を差し伸べた。ソニアも戸惑いながらも手を置いた。二人は美しい砂浜のビーチに降りた。ソニアは目の前に広がる美しいビーチを見て気持ちが切り替わった。素敵な場所!ソニアはジェラルドに微笑み歩き出した。ジェラルドは目を細めソニアを見た。ソニアは靴を脱ぎ捨て波打ち際に走って行った。
素足に波が触れた。うわぁ!気持ちが良い!海が先程の重たくなった気持ちをすくい取り遠くに運んでいってくれるように感じた。打ち寄せる波を追いかけながら気持ちが落ち着くのを感じた。この切なく苦しい気持ちを遠くに運んでもらいたいと海に入っていった。ワンピースの裾も濡れてしまったが気にせず遠浅の海をどんどん進んでいった。
突風が吹き髪を結んでいたリボンが飛んでいった。あ!ソニアは手を伸ばしリボンを追いかけた。ローズピンクのリボンは空の水色に映えて綺麗にみえた。リボンを追いかけながらどんどん深い場所に移動してゆく。足が届くギリギリの場所まで来てしまった。ソニアから一メートルほど先でリボンは海に落下した。海浮かぶリボンはユラユラ揺れながら静かに沈んでゆく。ソニアはつま先立ちで移動し両手でリボンをつかもうとした。緩やかな波につま先立ちのソニアはあがなえずバランスを崩し倒れた。泳げない上に濡れた服の重さもありソニアはリボンを握りしめながらゆっくりと沈んでいった。あ、こんなこと前にも経験したような気がする。沈みながら海の中で目を開けた。水面がキラキラと輝いている。きれい。目を閉じこんな終わりでもいいかと思った瞬間水面に引き上げられた。「ソニア死ぬ気か!」ソニアは目を開けた。




