ジェラルドの気持ち
ジェラルドはホテルに帰ってきた。あの不思議な光景が忘れられない。ジェラルドはソニアのことを考えていた。ソニアと一緒にいると心が安らぎ穏やかな気持ちになれる。ずっと見ていたいし、一緒に居たいと思える。だけどその思いをソニアに向ける事はできなかった。あの繊細な美しい瞳から溢れ出る涙を見た時に、自分の存在はソニアを傷つけるだけだと思うと嫌われたくなくて距離をとっていた。女性たちと噂になる自分の姿がテレビで放映されるたびにソニアのことしか頭に浮かばなかった。彼女はこれを見てどう思うのだろうと。だけどソニアはそんなことに一切興味がないように見えた。俺のことをなんとも思っていないソニアに何度も怒りが湧いたのも事実で、毎回怒りを抑えられずソニアを泣かせてしまう。ソニアの涙を見て罪悪感が増す。自分勝手で子供じみた方法でしか表現できない自分に自己嫌悪を感じる。
あの日、ソニアが初めて自分の事を話してくれた時、ジェラルドの名前の由来を聞いた彼女は本当に嬉しそうだった。それが嬉しくてもっと俺に興味を持って欲しいと慰霊祭に誘った。何百年も続く伝統の儀式だがソニアが起こした奇跡に言葉が出なかった。最後の皇帝ジェラルドはソニアを、ソニアが来るのをずっと何百年も待ち続けていたと確信できるほどあり得ない事だった。皇帝が本当に愛したのは歴史上呪われた眠りの乙女と書かれているソニアだったのかもしれない。あの後もソニアのススキ以外ジェラルドの墓に供えることができなかった。こんな偶然あるのか?一族は騒ついた。考えられないことだが、ソニアは呪われた眠りの乙女のソニアじゃないかと思った。眠りの乙女ソニアがその後どうなったのか物語には書かれていない。ソニアが長い眠りから覚め今この世界に現れたとしたら、それがあのソニアなら世間に疎いところや、パソコンも使えずお茶ですら入れたことがないソニア。馬鹿な考えだと思いつつも現実は辻褄が合うことばかりだ。
とにかくソニアに会おうと彼女の部屋を訪ねた。ノックをしたが返事がない。ドアノブを回すとドアが開きそのままソニアの部屋に入った。ソニアはソファーにもたれかかり眠っていた。眠るソニアを見てどこか懐かしさを感じた。不思議だ。前にも眠るソニアを見つめていたような既視感がある。が、こんなところで眠ると風邪を引く。「ソニア」ジェラルドは眠るソニアを覗き込み声をかけた。
「どのジェラルド?」寝ぼけているのかソニアは俺を呼び捨てにし不思議そうに俺を見ている。「ソニア?疲れているのか?お茶い入れようか?」ジェラルドは言った。「え?ジェラルド様ですか?」ジェラルドはソニアが寝ぼけていることに気がつき優しく微笑み言った。「そうだよ。」「いつの?」ジェラルドは首を傾げ言った。どういう意味だ?「いつ?意味がわからないけど?」「え?今の?」ソニアは混乱した顔をしている。「今日慰霊祭であったよね?」ジェラルドは言った。「え?ジェラルドじゃなくジェラルド様?ま、間違えました!!!」そう言ってソニアはまた眠ってしまった。なんだかわからないが本当のソニアに会ったような気がした。「ソニアお休み」ジェラルドはソニアの額にキスをしブランケットをかけ部屋を出て行った。
翌日ジェラルドは再びソニアを訪ねた。「どうぞ」ソニアはぎこちない笑顔を浮かべドアをあけた。「ソニア、慰霊祭の事だけど」「あ、、、すごく驚きました!」視線を逸らし答えたソニアに笑ってしまった。ソニアは眠りの乙女ソニアかもしれない。こんな事あり得ないと思うが俺はそう信じ始めている。「ソニア、皇帝ジェラルドは眠りの乙女ソニアを愛したんだな。」 その言葉を聞き顔色が変わったソニアに笑いかけ、ジェラルドは部屋を出て言った。




