だからあなたはジェラルド
「ソニア!!ダメだ!」ソニアは突然後ろに引っ張られた。驚いて見るとジェラルドがソニアの腕を掴んでいる。「あ、ジェラルド様」ソニアは目を丸くしながら言った。「ソニア死ぬ気なのか?!」ソニアを掴んでいるジェラルドの腕は小刻みに震え、厳しい目つきでソニアを見ている。「いえ、ジェラルド様。ただ海を見ていました。」ソニアは俯き言った。「泣きながら?」ジェラルドは虚な眼差しをし海を見つめていたソニアを思い出し掴んだ腕を強く握った。「……昔を、思い出してしまって。すみません。驚かしてしまって。」ソニア涙を拭った。「……悲しいのか?」ジェラルドはソニア覗き込み心配そうな表情を浮かべ聞いた。「いえ、ただ、ただ懐かしく、美しい思い出です。」ソニアは掴まれた腕を見つめゆっくりと頷き微笑んだ。ジェラルドが心配してくれた。「そうか。」ジェラルドは安心したようにソニアの腕を離した。
「ところで、昨夜はすまなかった。」ジェラルドは少し俯きソニアに謝った。「いえ、ジェラルド様はお忙しい方ですから気にしないで下さい。」ジェラルドは私に対し特別な感情を持っていない。だからあっさりとした口調で答えた。「……聞かないのか?」ジェラルドは顔をあげソニアを見つめ言った。「聞く?」ソニアはジェラルドが何を言っているのか分からず聞き返した。「昨日俺が帰らなかった理由を、」ソニアが自分に対し興味ない返事をする事にイラついた。ソニアは近くにいるのにその瞳はいつもどこか遠くを見ている。それが気に入らない。「ジェラルド様、私がジェラルド様に聞く事はありません。ジェラルド様はジェラルド様の人生がありますから、私はその人生にすこしだけ関わっているだけで、邪魔をする事は致しません。どうか気になさらないで」ソニアは唇をギュッと結んだ。本当はききたい。だけどテレビで見たあの姿をジェラルドの口から聞きたくない。ソニアは苦しくて泣きそうな気持ちを我慢し精一杯微笑んだ。ジェラルドは眉間にシワを寄せソニアを見つめ「わかった」とだけ言って部屋を出てゆこうとした。ソニアは何故ジェラルドが怒っているのか見当がつかない。だけど帰ってきた時にお茶を入れる約束は守れなかった。小さな声で「ご迷惑をおかけしました」と謝った。ジェラルドは何も言わず出て行った。
ああ、また怒らせてしまった。ジェラルドは私と話すと不愉快になる。あまりにも私が現代の事を知らずその振る舞いや受け答えがジェラルドに対し無知で失礼で苛立たせてしまう。だけど何が問題なのか、どんな言葉を選べば良いのか全くわからない。このままここにいたらもっとイラつかせますます嫌われてしまう。これ以上ジェラルドの近くに居られないと思った。もうあの頃と違うのだ。両手で顔を覆い座り込んだ。ジェラルドから離れよう。この国から出て行こう。目が涙でいっぱいになった。ジェラルド一世の頃国を出ようとして国境で捕まり死刑になりそうになった。あの時ジェラルド一世が迎えにきてくれた。嬉しくて切ない思い出。もう私にはあの頃のような明るさも天真爛漫さも無い。悲しい別れが私を無気力に変えた。どんなに頑張っても掴めない人がいる。
ソニア部屋を出てコンシェルジュにホテルを出ると伝えた。幸い荷物は運ばれていたのでこのまま出られる。荷物と言ってもスーツケース一つだ。これはコンシェルジュに教えてもらって手に入れた。
「ソニア様、少々お部屋でお待ち下さい」そう言われ部屋に戻り待っていると支配人が飛んできた。「ソニア様どうか、考え直して頂けませんでしょうか?」と困惑した様子で止めてくる。そこになぜかリリも現れリリもソニアを止めた。「リリさん。私はジェラルド様に嫌われていますからここにいるのが申し訳なくて、先ほども怒らせてしまって。もうなんというか、ここにいられないのです。すみません。」ソニアはリリに正直に話した。「ちょっと待って!!」リリはその言葉を聞きジェラルドの部屋に飛び込んだ。するとすぐにジェラルドが出てきた。「ソニア、誤解だ!なんでこうなるんだ?」そう言って深いため息をついた。「ソニア、俺はソニアを嫌ってなんかいないし、怒ってもいない。いや。怒ってはいる。あ、俺は何を言っているんだ、、とにかくソニア、話をしよう」そう言ってジェラルドはソニアの手を握りしめてジェラルドの部屋につれていった。ソニアは訳がわからなくてポロポロ涙が出てしまった。「あ、泣かないで」ジェラルドは戸惑っている。
「ソニア、俺がお茶を入れるから、泣かないで、本当にごめん。怒ってなんかいない、、あーも俺は何をしているんだ」ジェラルドは一人狼狽している。その姿を見てちょっと笑えた。このジェラルドはどのジェラルドよりも人間らしく感情が豊かだ。「フフフ、ジェラルド様面白いです」ソニアはそう言って笑った。ジェラルドはソニアの笑顔を見て喜びで表情が明るくなった。「ソニア、本当にごめん。俺はソニアに出て行って欲しくない。なんていうか、折角友達、、友達になったのにまだ、俺たちは一緒に食事だってしたことがないし、遊んだ事だってないんだ。昨日初めてお茶を飲んだだけだろ?」そう言ってジェラルドはソニアの両手を握った。「はい。」ソニアはその握られた両手の暖かさにホッとし頷いた。「だから、出て行かないで欲しい」ジェラルドは握った両手に力を入れソニアを見つめた。「わかりました。」ソニアは笑顔で答えた。ジェラルドに嫌われていなかった。
それからジェラルドはソニアをソファーに座らせ一緒にお茶を飲んだ。「あの、ソニア、あのベランダで、あのテラスで何を考えていたんだ?君がとても悲しそうで、、消えてしまいそうに感じた。」ジェラルドは遠慮がちに聞いた。「……」ソニアは想いが溢れ答えることが出来なかった。 千年間ずっとあなただけの事を考えていました。それを言えたらいいのに。「あ、言いたくなかったらいいんだ、気にするな。」そう言ったジェラルドはどのジェラルドにも無かった踏み込まない優しさがある。ソニアは話してみようと思った。
「ジェラルド様。昔、ここはフローエンという国だったとご存じでしょうか?」「ああ、歴史か、知っている。俺の名前は最後の皇帝ジェラルドから名づけられたから」ソニアは手に持っていたカップを落としそうになった。「え?ジェラルド様、本当ですか?!」ソニアはカップを置き手を握り締めた。両手が小刻みに震える。「ああ、俺の先祖はジェラルド三世の父親の弟の血筋だったそうだ。生まれた時この髪と青い瞳がその象徴と言われているらしくて数百年ぶりに現れた特徴で、だからジェラルドと名付けられたらしい」ソニアその話しを聞き号泣した。そうだったんだ、、だからあなたはジェラルドなんだ。私の愛する正真正銘のジェラルドなのね。「ソニア?一体どうしたんだ?」ジェラルドは泣き出すソニアを見て困惑している。




