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百一年の孤独 いけにえ令嬢と皇帝の恋  作者: ねここ


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薔薇とタンポポ

ソニアはフーとため息を吐き、気分転換にホテルの庭園を散歩をしようと部屋を出た。

専用エレベーターで一階に降り中庭の方面に移動しようとした時、エントランスにジェラルドの姿があった。彼は多くのカメラに囲まれていた。ソニアはチラッとその様子を見て中庭に続く廊下を歩こうとした時、「あの女の子がいるぞ」という声が聞こえてあっという間にカメラに囲まれてしまった。あまりに突然のことに驚いたソニアは後退りをした。「ジェラルドさんとマリアーナさんはどんな話をしていたのですか?」「ジェラルドさんに口止めとしてハグされたと聞きましたが憧れていたのですか?」「それともジェラルドさんの遊び相手としてお付き合いされているとか?」「名前は?」記者達は後退るソニアを追いかける様にマイクを向け質問攻めにした。ソニアは慣れない世界で突然注目され何をどう答えて良いのかわからず黙って両手を握りしめた。「やめて下さい」ソニアは消えそうな声で言った。「え?今何か言いました?」しつこく質問されソニアは唇を噛んだ。私はジェラルドに相手にもされていないのです!どうかそっとしておいて下さい!心の中で叫んだが、カメラやマイクを向けられ恐怖で声が出ない。「失礼!」ジェラルドがカメラを押し退けながらソニアの所に来て、無言でソニアの腕を引っ張り助けてくれた。

 すぐに支配人が来てソニアは立ち入り禁止になっている区間に通された。ジェラルドは支配人にソニアを預けるとまた先ほどの記者達の前に行き言った。「あの方は我がホテルの特別なお客様です。勝手な取材はやめて下さい。あのお客様と付き合っているのかとか言われてますけど僕と関係のない方ですから。見てわかるでしょ?」ジェラルドはそう言ってソニアの方を見た。記者達もソニアをチラリと見て苦笑しながら言った。「まあ、確かに、、」「それはあり得ないな」そんな声がきこえてきた。


 支配人は「ソニア様、どうかおきになさらず、あの人達はああいった人間ですので」と、慰めてくれた。本当は少し傷ついた。だけど慰められる方がもっと傷つく。「大丈夫です。気を使わせて申し訳ありません」と笑顔を浮かべ答えた。「いえ、滅相もございません。」そう言いながら違うルートでソニアの部屋まで案内し、「庭園の用意が整いましたらお迎えに参ります」と言って部屋から出て行った。



 ソニアはさっきのジェラルドの言葉を思い出した。「見てわかるでしょ」確かにその通りだけど本心は悲しかった。でもそれが現実だ。その後、支配人が迎えに来た。ソニアは支配人の案内で中庭に連れて行ってもらった。美しく整備された中庭はお城の中庭に似ていた。奥に進むと薔薇が咲いていた。その薔薇は幾重にも花びらがあり、ジェラルドと付き合っている女性達のような華やかな薔薇だった。「見てわかるでしょ」またジェラルドの言葉を思い出した。そう、見てわかるほどジェラルドと不釣り合いな私。ソニアは薔薇から離れた。足元に小さなタンポポの綿毛があった。優しい円を描くたんぽぽの綿毛をを見つめると刺々しい心が癒される。それを摘んで手に持った。左右に振っても飛ばなかったので部屋に持って帰ろうと決めた。部屋に戻る最中の大きな通路でジェラルドと美しい女性がいた。ジェラルドはその女性の腰に手を当てエスコートをしている。そう、見たら分かる。ジェラルドは私など眼中にない事を。その女性もジェラルドに身を預け時々見つめ合いジェラルドはその女性の額にキスをした。息が止まり胸が痛んだ。見たくないと目を背け彼らの視線に入らないように通路の端を俯き歩いた。あの角を曲がれば専用エレベーターだ。早く歩こう。ソニアは彼らの位置を確認するため一度顔を上げた時、彼らと目があった。女がソニアに気が付きジェラルドを見つめ言った。「あ、あの子今朝の子ね。なんか素朴で可愛い子ね」そう言って美しい女性はクスッと笑った。ソニアは会釈だけしエレベーターの前に行った。手に握っているタンポポの綿毛が少し震えている。あの女性に馬鹿にされた。ジェラルドが相手にするタイプの人間ではないと改めて言われた様に感じた。なぜそんな事を言われなければならないの?と悲しい気持ちが胸を圧迫する。だけど、彼が死んでしまったあの時を思い出すとこんな事は何でもないことと思った。耐えられる。ジェラルドは何も言わなかった。ソニアはもう一度会釈をしエレベーターに乗り部屋に戻った。


 

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