俺に興味がない
「ところで洋服だけど、どんなのが好きなの?」ジェラルドはソニアに聞いてきた。
ソニアは全然わからなかった。元々令嬢だったがどんなドレスが好きだったか記憶がない。さらにジェラルド三世の時は全て彼が用意したものを着ていたので全く無頓着だったのだ。
「あの、正直に言いますが、わからないのです。自分でも、」
「うーん。じゃあソニアにはこんな感じが似合うと思う。シンプルで品があるワンピースはどう?」ジェラルドは薄いピンクの上品なワンピースを選びソニアに聞いた。
「ありがとうございます。それが良いです」ソニアはジェラルドに選んでもらえた事が嬉しかった。しかしジェラルドは不服そうだ。「ソニア、実際はなんでも良さそうだね。自分の好きすらないの?」自分好きすらない?どんな意味なんだろう?好きな人に選んでもらえたものは極端な話、ゴミでも宝物になる。ソニアはなぜジェラルドが不服そうに言うのかかわからなかった。
「自分のすき。そんな事を考えたことがなくてすみません。何か怒らせてしまったようで、、」そう言ってソニアは下を向いた。 ジェラルドは返事をする事なく店員に服を包むように言った。ソニアはお金を払おうと財布を出すと「これは私からプレゼントする」ジェラルドは素気なく言った。
ジェラルドの中でソニアは全てに興味がなさそうに見えた。まず俺のことを知らない。それに選んだ洋服を一目見てそれで良いと鏡の前で体にあててみる事も、試着する事もしなかった。周りの女性達は俺が洋服を選んだら喜び、鏡の前でポーズをとり似合う?などわかりやすい反応がある。しかしソニアにはそれがない。俺を含めこの世の全てに興味がないように見えた。
そんな人に会った事がなかったジェラルドは自分に無関心なソニアに苛立ったのだ。そんなジェラルドの態度にソニアは下を向いたまま「申し訳ありません」と言った。ジェラルドはさらに苛立った。「ソニアは私を含め本当に何も興味がないんだな」と言った。興味?どう言う意味?ジェラルドがなぜ怒っているのか全くわからないソニアはジェラルドを不快にさせたと思い「すみません」とまた謝った。
店員から服を受け取りジェラルドに「ありがとうございました。不,不快な思いをさせてしまいすみません。帰ります。失礼します」そう言って一人店を出た。ソニアは何が何だかわからないがせっかく友達になれたと思ったジェラルドを怒らせてしまい悲しかった。あの頃と今では全てが違う。やはりもう関わってはいけないのだと思った。
涙を堪え歩き始めた時「ちょっと待って」と腕をつかまれふりかえるとジェラルドがいた。
「あ、」ソニアはジェラルドを見て涙が溢れた。ジェラルドはソニアの涙をみて戸惑った。
「ソニア、なぜ泣いている?」 「あ、すみません、大丈夫です。」ソニアはハンカチで涙を拭いてジェラルドを見た。「ソニア、君は一体どんな人なんだ?」ジェラルドは言った。「どんな人、、。わかりませんが、ジェラルド様が気にするような人間ではないと思います。」「それ、どういう意味?気にしてほしいって言うこと?」ジェラルドはまた苛つき始めた。「いえ、ちがいます。本当にそのままの意味です」「ソニアは俺を怒らせたいの?」「いえ、そう言うわけじゃなくて、私みたいな人間とは違う世界の方ですから、お構いなくと言う意味です。」「は?なんなんだ?喧嘩を売っている?俺はそんな扱いを受けたのは初めてだ!」そう言ってジェラルドは怒ってしまった。
ソニアにあなたなんて興味がないし、私と違う世界の人間で関わらないで欲しい、そう言われていると感じた。しかしなぜかソニアを放っておけないジェラルドは、怒りを感じながらもソニアの腕を掴んで車に乗せホテルに送った。道中一言も話をしなかった。ジェラルドは車内でソニアを見るとショッピングバックを胸に抱え居心地悪そうにずっと俯いていた。
「ジェラルド様、すみませんでした。お洋服ありがとうございます。」そう言ってソニアは車を降り頭を下げた。ジェラルドは何も言わず片手を上げそのまま車で何処かに行ってしまった。
ジェラルドを乗せた車を見送ったソニアは部屋に戻りため息をついた。慣れない世界で生まれ変わったジェラルドに出会ったものの思うように対応が出来なかった。何故だかわからないがジェラルドを怒らせてしまい本当悲しかった。だけどあの日目の前でジェラルドが死んでしまった時と比べればこんな悲しみは何でもない。生きていてくれるだけで十分だと自分に言い聞かせた。ソニアはジェラルドに買ってもらったワンピースを抱きしめた。ジェラルドが選んでくれた優しいピンク色のワンピースはソニアの一番好きな色だ。嬉しい、本当に嬉しい。ソニアはそのワンピースを着た。シンプルな薄いピンクのワンピースはソニアにとても似合っていた。ジェラルドが選んで買ってくれた。大切にしよう。ソニアは何度も鏡を見てジェラルドがプレゼントをしてくれたワンピースを見つめていた。でも、ジェラルドを怒らせてしまった事を思い出し悲しくなった。なぜジェラルドは怒ったのだろう?出来るだけジェラルドの人生に関わらないようにと気をつけていたのに。「はぁ、、」ため息を吐きながらソニアは外の景色を眺めた。




