ジェラルド三世の死
ソニアはその話を聞いて震えた。私は今この世界にいてはいけない人間なのだ。 しかし自分がその事実を知ったとジェラルドに言えないソニアは、気持ちを落ち着かせようとした。敏感なジェラルドが心配してしまう。今の状況は、ジェラルド一人だけがソニアを大切にし愛してくれている。しかし彼以外誰にも歓迎されていない。とても耐えられそうになかった。 ソニアはジェラルドに会ったら平常心を保てない寝たふりをし今日を乗り越えようと思った。とにかく部屋に戻りベットで横になり目を瞑った。このまま眠れますように、出来れば死ねますように。死ねば血の誓いが発動しいつかまたジェラルドに会える。しかし眠れる訳も死ねる訳もなかった。起き上がったソニアは仕方なくテラスに出て空を眺めた。いったいどうすれば。七年の眠りから覚めたばかりで眠れる兆候も無いが、ふとススキ野原で殺されかけたときの事を思い出した。自分で命を絶つしかない。
前回のように死ねなくても眠る事は出来るかもしれない。 歪んだ運命を戻すには自分がいなくなる事以外ない。そうすればこの帝国は滅びないで済む。幼いジェラルドがこの国のために必死になって勉強してきた姿を見ていたソニアには、この帝国が無くなる事は考えられない。歪んだものを戻せば全てが報われる。自分さえ居なくなれば。
ソニアは立ち上がり万が一侵入者が現れた時のために置いてある剣を取りに行った。剣を鞘から引き抜き震える両手で剣を握りしめ自分の首元に剣先を向けた。怖い。でもやらなければ。目を閉じ覚悟を決め首に突き刺そうとした瞬間ジェラルドが帰って来た。「ソニア!!何をしている!!ジェラルドはソニアの手を掴み力ずくで剣を奪った。ソニアはその衝撃で床に飛ばされそのまま気を失った。それから数時間後ソニアは気が付き、そして自分が生きていることに絶望した。ベットの脇に腰をかけソニアの手を握っているジェラルド気が付いた。だがその顔を見る事が出来ない。
「ソニア!なぜあんなことをしたのだ!なぜ!」ジェラルドはソニアを責めた。ジェラルドにとって絶対にしてほしくない選択をソニアはしてしまったのだ。ジェラルドはどんな理由があろうともその選択をしたソニアを許せなかった。ソニアは何言えなかった。ただジェラルドを見つめる事が出来ず顔を背け泣いた。なぜ?どうして?ジェラルドはソニアに言い続けているが、一切その問いに答えることが出来なかった。それからソニアは一切言葉を発することをやめた。ジェラルドにあきらめてほしかった。もうソニアは昔のソニアではないと嫌って欲しかった。ジェラルドに何を言われても一切答えなかった。ジェラルドは突然ソニアが死を選ぼうとして理由、変わってしまった理由をわかっていた。ソニアは聞いてしまったのだ。あの予言を。だからソニアは死のうとした。
ソニアがその選択を選ぶとわかっていたからこそ隠したかった。ジェラルドはソニアの為だけに生きてきた。だからソニアのその選択肢許せるはずがなかった。帝国が滅びようとそれだけは絶対に許せなかった。
しかしあれからソニアは何も話さなくなってしまった。笑顔も見ることもできない。ジェラルドにとって死ぬほど辛いことだった。ジェラルドは自分の運命を恨んだ。なぜ何度も愛するソニアを失わなければいけないのか、もしまた自分からソニアを取り上げたならば次は自分も死ぬと決めていた。たとえソニアが眠りについたとしてもこの剣で一緒に死ぬと決めていた。これ以上ソニアを待つことはもう出来なかった。血の誓いを発動させ、共に生まれ変わる道を選ぶ。
一方ソニアはジェラルドが何があっても自分を選ぶと確信すればするほど、苦しくて辛い日々を送っていた。前は選ばれなかった苦しみを経験し、今は選ばれる苦しみを知った。ソニアはどうすれば良いのかわからなかった。身を引けばジェラルドは絶対に追いかけてくる。死んでも同じなのだ。ソニアはそんなことを望んでいない。きっとジェラルドも同じだ。だからこそ苦しいのだ。
ジェラルドはソニアの気持ちを理解していた。だけどジェラルドは一切譲る気はなかった。
「ソニア、私は私の選択を後悔したくないからソニアと一緒にいる。もしソニアが死ねば私も死ぬだけだ。だから死なないでほしい。たとえ世界がどうなろうとも私はこの世界のために一人犠牲になったあなたをまた犠牲にしたくない。皇帝としてダメな人間かもしれないが、私はそれでいいのだ。だからお願いだ。そばにいてほしい」そう言って毎晩ソニアを抱きしめる。その度にソニアはただ涙を流し続けるのだった。しかしそんなジェラルドの願いも叶わない事件が起こった。
ジェラルドが死んだ。




