事件
更に一年が過ぎジェラルド三世は十三歳になった。ジェラルドは勉強のため皇帝と共に政治にも参加して数々の改革も行っていた。皇帝は頼もしいジェラルド三世に殆どを任せ引退だと言って笑っていた。それに皇帝はジェラルド三世の恋愛についても本人の好きなようにさせていた。
なぜなら彼は三歳からずっとソニアだけしか見てこなかったし、ソニア以外にジェラルド三世を扱える人は居ないとわかっていた。 だから後はソニア次第だと二人を見守っている。
ジェラルド三世は忙しい毎日の中でも必ずソニアとの時間を優先させていた。ソニアが側にいるから国のことができると考えていた。だから優先順位は常にソニアが一番だった。ソニアは何も変わらず穏やかに生活をしていた。しかし実は悩みがあった。まだジェラルド三世が十歳の頃に出会ったフィオナ令嬢の事だ。実は彼女はソニアに嫌がらせのような事をしている。
例えば、手紙にカミソリを入れるとか、食べ物にガラスを入れるとかだ。恐らく使用人を買収して行っているのだ。ソニアはその事をジェラルド三世に知られたくなく黙っていた。
まあ、そもそもフィオナだという証拠も無いが、強く恨まれると言うと彼女を思い出してしまう。
フィオナはジェラルド三世が好きだ。パーティーでは常にジェラルド三世の側にいる。昨日のお茶の時間に出されたケーキには釘が入っていた。食べる前に気が付いたので大事に至らなかったが、そんな事件は必ずジェラルド三世がパーティーでいない時に起きていた。今日も庭園でお茶会がある。ソニアは警戒していた。三時ごろおやつにケーキと紅茶が運ばれてきた。ソニアはメイドを下がらせ一人でケーキを丹念に調べた。ケーキには何も異物が無かった。「ふぅ珍しく何もないのね」そう言ってケーキを一口食べた。「ウッ!」ソニアは顔をしかめた。なんとそのケーキは見た目は甘そうに作られていたがものすごくしょっぱいケーキだった。「塩っぱい、、からい。」ソニアは口を押さえゴクリとケーキを丸呑みし慌てて紅茶に固形の砂糖を入れ口に含んだ。「!!」口に痛みが走った。慌てて紅茶を吐き出すと鋭利なガラスが入っていた。ソニアはガラスで口の中を切ってしまった。痛い!口を押さえるがどうしようもできず口から血が溢れ出てきた。
そのタイミングで突然ジェラルド三世が現れ、口から血を流すソニアを見たジェラルド三世は顔色が変わり走ってソニアの口に手をあてた。「ソニア!!誰か!すぐに医者を呼べ!」ジェラルドは叫びながらソニアが吐き出した鋭利なガラスの破片を見た。そしてすぐに状況を理解したジェラルド三世はソニアの口を開けざっくりと切れた口の中を見て口に残っているガラスの破片を取り出した。「ソニア!すぐに医者が来る。大丈夫だ」震えるソニアに声をかけジェラルド三世はソニアが一口食べたケーキを舐め顔を顰めた。一体誰が!ジェラルド三世は怒りに震えた。すぐに近衛兵を呼びソニアに関わった使用人全員を拘束するように指示をし口から血を流すソニアを抱きしめ口から流れでる血を拭いた。「ソニアすぐに医者が来るから、ソニアすまないこんな目にあわせて、、今が初めてじゃないだろ?あのケーキを見てソニア、何度かあったんだろ?気がついてあげれなくてすまない」 ジェラルド三世は怒りと悲しみに震える指先でソニアを優しく撫で医者を待った。ソニアは溢れる血に少し気分が悪くなった。「気持ち、、悪い」ソニアは咳き込んだ。
その時口に溜まった血が吐き出されジェラルドの服も血まみれになった。ソニアはテーブルにあったナフキンでジェラルド三世についた血を拭こうとした。「ソニア、気にしなくていい。お願いだから大人しくしていてくれ」ジェラルド三世は悲痛な表情を浮かべソニアを動けないほど抱きしめた。程なく医者が到着しすぐに治療が始まった。 結局ソニアは口の中を五針も縫う大怪我をした。丸四日間痛みと高熱でソニアは寝込んだ。五日目にようやく熱も下がり痛みはあるがスープが飲めるようになった。けれどまだ話は出来なかった。ジェラルド三世は全ての仕事を中断しソニアにずっと付いていた。予定も全てキャンセルし一歩も部屋の外に出なかった。
ソニアにおやつを提供した使用人は捕まったが巧妙な手口で結局黒幕は分からなかった。
しかしジェラルド三世は大凡の見当がついていた。ソニアはジェラルド三世がこの件をどう考えているのかわからなかったが、どちらにしてもソニアはひたすら穏やかな生活に戻れるよう祈っていた。




