唯一愛する人
ソニアは今日は城でパーティーが開催されていることを知らなかった。いつも通りジェラルドの肖像画の前に行きそこから長い廊下を抜けて大広間に入った。大広間に入ると煌びやかな世界が広がっておりソニアは完全なる場違いの人間だった。突然現れた場違いなソニアを貴族やその令嬢達は冷ややかな目で見た。流石のソニアも驚き後退りその時にワインを運んでいた使用人と運悪くぶつかってしまった。ガッシャーンという音を立てワイングラスが床に落ちた。ソニアはその床に倒れ込みワインでワンピースは濡れ、粉々に砕けたガラスの破片で手を切ってしまった。すぐに起き上がりソニアは「お騒がせしてすみません」と言って立ち去ろうとした。「ソニア!」ジェラルド三世が現れた。「ソニア!大丈夫か?手を怪我しているじゃないか!」ジェラルド三世はすぐにソニアの手を握った。「あ、ジェラルド三世様?私は大丈夫です。ごめんなさい。今日はパーティーだと知らなくて、、、」ソニアは騒ぎを聞いて集まる貴族の好奇な視線に驚きジェラルド三世に言った。「ソニアすぐに手当しよう」ジェラルド三世はそう言ってワインで濡れたソニアを抱き上げ会場を出た。そのままソニアを部屋に連れて行き着替えさせ傷を手当てさせた。その間にジェラルド三世もワインで汚れた服を着替えソニアの元に戻って来た。「あの、突然現れてご迷惑をお掛けしました。」ソニアは気まずそうな面持ちでジェラルド三世に謝った。「ソニア、退屈なパーティー会場に突然ソニアが現れた。私は嬉しくてすぐにそばに行こうとしたらソニアが倒れて。本当に驚かされるよ」「ごめんなさい。」ソニアは謝った。ジェラルドは謝るソニアの手をそっと握り言った。「ソニア、怒っているんじゃないよ。ソニアが怪我をしたのは嫌だけど、嬉しくて。」その言葉を聞いたソニアは首を傾け聞いた。「嬉しい?ジェラルド三世様、嬉しいとはなぜ?」「だってソニアに会えたんだから嬉しいに決まっているじゃないか!」そう言ってジェラルド三世はソニアを抱きしめた。
その頃会場はざわついていた。あのジェラルド三世が突然現れたワインで汚れた女を抱きかかえ会場から出て行ってしまったのだ。どんなに美しい姫でも令嬢でも見向きもしない難攻不落と言われるジェラルド三世が?!一体あの女は誰なのか!知っている人間はほとんどいなかった。しかしフィオナ令嬢はあの女がソニアだと気がついた。あの時ジェラルド三世が「私が唯一愛する人だ」 と言った言葉を思い出し唇を噛んだ。貴族達がざわめく中ジェラルド三世は会場に戻ってきた。皆先程の女性は誰ですかと聞きたいがジェラルド三世の飄々とした姿に先程の騒ぎが嘘のように静かになった。ジェラルド三世は何も言わず引き続きパーティーに参加した。誰一人ジェラルド三世に先程の事を聞けなかった。




