023_2つ目の指環
折角出来上がってるものを、投稿せずに死ねるか!
失血死しかけて入院。本日退院できたので、上記の理由から、まだ2話途上までしか完成していませんが投稿します。
毎日午前0時投稿。今回を合わせて3本。
よろしくお願いします。
まるでアクション映画の冒頭シーンのような状況を終わらせ、私はほっと一息ついた。
とりあえず突撃して、銃をパンパン撃つだけというね。しかも魔弾は使わなかったから、普通に殺して回ったよ。
……自称“正義の味方”を演じてるヤツがやることじゃないな。まぁ、真似事だからいっか。どうせ生かしておいても真人間にはならない連中だし。
盗賊どものアジトは、ひとつはやたらと大きな洞窟。多分、穴を掘るタイプの魔物が根城としていた跡を利用したのだろう。
もうひとつは掘っ立て小屋。こちらは床に穴が空いていて、その先に広大な迷路ともいえるトンネルが広がっていた。いや、こっちも結局は洞窟だな。
もしかすると、双方のアジトは同一の魔物の巣で、どこかで繋がっているのではないだろうか。
まぁ、それを確認しようと奥へと無闇に探索しようものなら、迷って飢え死にしそうだけれど。
思いのほか盗賊団ふたつの殲滅は簡単に終わった。双方とも殆どの人員を先の馬車襲撃にだしていたようで、こちらに残っていたのはそれぞれ僅かに10名前後。
隠れもせずに銃をもって襲撃するだけで終わった。
こいつらの死体は一時的にアイテムボックスに収納して置いて、明日、さっきの街道にまで戻った時に、盗賊の死体がまだ回収なり埋められていたりしなければ、そこに並べておこうと思っている。
そしてお待ちかねの戦利品選別タイム。
銀貨と銅貨をまず確保。死体から引っぺがした革鎧も確保。革鎧はあとで洗浄、補修して売っ払う。
で、もっていると厄介ごとを呼び込む物品は、今回は無いようなもの。普通に盗賊団を潰すことを専門にしているような冒険者からしたら、「しけてんなぁ」と云うような実入りだろう。
盗賊団ふたつ合わせて金貨が10枚もないというね。なんだこりゃ?
これは盗賊団ふたつが競合してた結果かな?
あともしかしたら、盗賊団の親分が持って町にでも行ってるのかもしれない? 片っぽは親分っぽいのがいなかったし。高級娼館巡りとかしているのかね。それとも――
そして宝飾品の類。こっちは宝石がいくつかとアクセサリーがあった。で、またしてもあった、なんか紋章の入った指輪。
本当になんなんだこれ? 多分、この間のと一緒の紋章だと思うんだけど。貴族家当主の証とか云われたら納得しそうなんだけれど、そういったものならその家が全力で盗賊団を潰しに掛かっていると思うし。
そもそも貴族家の紋章の形式とちがうしなぁ。こっちの貴族家の紋章って、地球のヨーロッパのほうの紋章と似たような感じなんだよね。盾を十字に割って、それぞれのブロックに家門っぽいのを記した感じのヤツ。
それに対し、この指輪の紋章って、左右対称の蔓バラみたいな意匠なんだよね。多分、グクローツ砦で見つけたのと同じ紋章だ。いや、正確に覚えてるわけじゃないから、確実とはいえないんだけれどさ。
どうにも厄介ごとの元になりそうだよなぁ、これ。親分がいなかったのも、これ絡みかもしれない。こないだ潰した賊のせいで。日数的には、関係している連中にはもう情報は通ってるだろう。取り逃がしたのはいなかったけれど、留守にして難を逃れた奴はいるかもしれないだろうしね。
つか、皆殺しにしないで聞けば良かったのか。……いや、始末してからお宝さがししたしなぁ。
馬車のところの連中に訊くか? いや、ないな。被害者が生存している以上、面倒臭いことにしかならないよ。
いなかったと思われる親玉を見つけられたら、確認だけしようか。
んで、他のアクセサリーはと。うん。平民でも買えるようなものだね。安いものではないけれど、貴族からしたら二束三文扱いされるような品だ。宝石もサイズからして、持っていても特に問題ないだろう。
面倒臭いのが金貨なんだよなぁ。持っていても怖くて使えないし。まぁ、10枚程度だし、アイテムボックスの肥やしにしとくか。
空を見上げる。まだ陽は高い。
ふむ。
暫し考え、予定変更。
時間があるな。やっぱりあの馬車のところに戻ろう。まだこの時間なら、盗賊どもの処理も済んでいないだろう。
確認はしていないけれど、賊に襲われた時に救援を求めて逃げた……っていうと言葉は悪いか。でもそういう行動、或いは命をうけたのがいると思うんだよね。
まぁ、守るべき馬車の中身を置いていくのはどうかとも思うんだけれど。
こっからだとストローツは歩いて3日だけど、次の町なり村だとどっちが近いんだろ?
ま、いいや。ちょっと戻ろう。コソコソやればなんとかなるだろう。
ということで、森の端っこまで移動して、馬車の確認。
200メートルくらい離れているけれど、確認するには問題ない。【鷹の目】は便利だねぇ。ただ、鷹をベースとした変身をしないと使えないのが欠点だけど。そもそも【狙撃】用の変身だったからなぁ。なんで【突撃銃士】なんてわけのわからん形になったんだっけ? 神様と悪ノリしたのが原因なんだけれど、その原因の切っ掛けとなったことが思い出せん。
まぁ、いいや。
えーっと。馬車はあのまんま。賊はふん縛られて、道沿いに並べられてるね。その馬車を挟んで反対側。そこには貴族らしい中年男性がふたり。それとその子供かな。とはいえ成人はしてそうだ。少年と少女が各ひとり。そしてメイドが4人。
メイドは一応武装しているけれど……護衛としては完全に最終防衛線って感じだなぁ。基本的に肉壁役みたいだ。
彼らは護衛達の遺体を移動しているところだ。
あ、一番端っこの賊、私が尋問した奴じゃん。丁度いいや、奴に指輪に関して聞いてみよう。もう一個のほうの賊じゃなけりゃいいけど。
とりあえず脅したりすると面倒そうだから、取引って形にするか。
それじゃ、これを使おう。
左5番目。乳白色の結晶。
……そういや神様からリクエストがあったんだっけね。「お前に相応しい結晶は決まった!」っていう台詞から変身してって。なんか、昔のアニメの台詞のパロらしいんだけれど。私の場合、その都度状況に合わせて変身しまくるからダメなんじゃないかなぁ。
ピンと結晶を弾く。円柱状の結晶はクルクルと回り、私の額に当たった。
《Change Couatl》
《become Shaman》
《mode Healing》
かくして私は変身する。
白いローブ姿に蛇の仮面。そして背中には翼という天使まがいの姿。
コアトル。元ネタは南米の古代の神様だっけ? それの、言葉は悪いけれど劣化版というか……眷属? それがコアトルだ。
元の神様は雷神系だったかな? でもどういうわけだか私はこのコアトル、羽根付き白蛇で、回復系の権化みたいなイメージがあるんだよ。
TRPGとかだと、普通に毒を吐く羽根付き緑蛇らしいけど。
このふたつがごっちゃになったせいか、このコアトルはベースとジョブの組み合わせが完全に固定となっている。なんとかモードだけは変更できるけど、それも四大元素とか、そんな系統でしかできないんだよ。まぁ、そんなのはコアトルでやる必要はないから、基本ベースの強化用に回復を組み合わせてある。
さて、いつものように【インビジブル】で姿を消してと。
草を掻き分けるのを気取られないように、遠回りに奴に近づく。離れたところから街道に入る。半ば土に埋もれた砂利道、簡単なマカダム舗装かな? だいぶ劣化しているけれど。
忍び足で奴の側にまだ行き、無詠唱で私と奴だけを囲う【遮音結界】を張る。これでどんなに叫んでも、外に音は漏れない。
「やぁやぁ、気分はどうだい?」
私は姿を消したまま奴に声を掛けた。いきなり声を掛けられたせいか、奴はビクリと震えた。
「騒いでもいいけど身動きはするな。理解したら瞬き2回。それ以外の行動にでたら殺すよ」
そういうと、奴はもの凄い勢いで目を瞬いた。
「瞬き過ぎ。2回と受け取っていいのかな?」
今度は2回瞬いた。
「あぁ、バタバタ動いてほしくないからこんなことをいったけれど、普通に喋っていいから。で、質問があるんだけれど、今回は取引だ」
私は【修復】を左ひざに掛けてやる。右利きの人間の利き足は、たいてい左足だ。こいつは右利きのようだし、利き足が治れば、後の人生多少はマシだろう。縛り首にさえならなければ。
よし、完治。治してやったのは、言葉に嘘はないと知らしめるためだ。
元通りになった左足に、奴は目を見開いた。
「私の質問に答えれば、残りの3ヵ所の傷のうちのひとつを治してやるよ。どうする?」
私の声のする方向へと、視線だけを向ける。
「ほ、本当か?」
「脅しとかでゴネられて時間をとりたくないんだ。それなら取引した方が楽だろ? で、どうするよ。嫌なら別のヤツに話を持ってくだけだ」
「こ、答える。答えるから、右手を治してくれ!」
「おや、右手でいいのかい? 左手は取れ掛けだけど」
「利き腕のほうが大事だ!」
「はいよ。でも、私の質問に答えてからだ」
「あぁ、なんでも聞いてくれ」
「変な紋章のはいった指輪について答えろ」
問うと、奴はしばし眉根を寄せた。
「もしかして、ラドロンの指輪か?」
「ラドロン?」
「ウチの頭だ。まぁ、人望なんてものはロクにないがな。その指輪はどこぞの貴族との取引用の符丁みたいなんもんだ。詳しいことは知らねぇ」
あー、なるほど。ってことは、こいつらは貴族の子飼いっぽいことをしてたわけだ。海賊でいうところの私掠船みたいなものか。
国がやってんなら通商破壊ってところだけれど、こんなところでやるような事じゃないよねぇ。他国との貿易路でもないし。ってことはだ、悪徳貴族の小遣い稼ぎ?
やー、やっぱり地方の方の貴族は腐ってんねー。
王都も大概だったけど、あっちはまだ合法だったしなぁ。これって完全に犯罪だよねぇ。
……そんな盗賊団をふたつ潰しちゃったのか、私。しかも片方は私がやったって知れてるわけで。その情報がどの程度流れてるかは知らんけど。でも後々厄介なことになりそう。あの教団の時みたいに、暗殺者を延々と送り込まれても面倒だしなぁ。
よし。その悪徳貴族を見つけ出して始末しよう。なに、悪いことしてるんだ。殺されることも覚悟の上だろう。
「ありがと。どうやら私はその貴族を始末しなくちゃならないみたいだ」
奴は目を剥いた。
「やー。正義の味方は辛いねぇ。良いことをすると、命を狙われる羽目になるんだ。善人も悪人も、末路は一緒って狂ってると思わないかい? あー面倒臭」
いいながら私は約束通り奴の右手を治してやる。
【修復】は【回復】と違い、完全に元通りに体を治す魔法だ。たとえ欠損していても。コアトルにしたのはこの【修復】を使うためだ。
「ほい。治したよ。それじゃね」
そして奴のすぐ隣りへ死体を出す。そのまま道に沿ってついさっき殺した賊の死体をずらずらと並べていく。
案の定、奴はびっくりして声を上げたみたいだけれど、その声は一切しない。うん。【遮音結界】はいい仕事をしているよ。
で、最後に【遮音結界】を解除してっと。
それじゃ、ここからとっとと離れよう。
日も暮れて、空は茜色を通り越して藍色に近づいている。
これは野営の準備は間に合わないな。しょうがない、今日は神様の所に戻るとしよう。今回はキノコグラタンで手を打ってもらおう。
姿を消したまま次の町へと向かって歩き始め、辺りが真っ暗になった頃、私は街道からすこし離れた場所から拠点へと戻った。




