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なんとクレアさんはギガジャイアントを一撃で倒してしまったのだ。
「き、謹慎じゃなかったの? 大体なんでここに」
クレアさんに近づきながら声をかける。
「非常事態のため一時的に謹慎が解けました。防衛任務とか私に適さないので抜け出してきたのです!」
「い、いや、……ギンギンさんにまた怒られるよ?」
いくら実力があるとはいえ、本来の任務を放棄してこんな場所に来れば確実に怒られるはず。
「はうあっ!? そ、そこは口ぞえをお願いしたく思います」
事の重大さに気付いたクレアさんは僕に頭を下げて頼み込んでくる。
僕達からすれば助かったので事情を説明するのは問題ないけど、説明してもきっと怒られると思う。
「うん、それは任せて。とにかく助かったよ。ありがとう、クレアさん」
「いえ、こちらこそ以前はすいませんでした」
僕が駆け寄ってお礼を言うとクレアさんは静かに頭を下げた。
「これで全滅だな……」
「やったぜ」
「ああ、これで町も大丈夫だな……」
「とにかく報告に帰ろう。向こうもこっちの報せを痺れを切らして待ってるはずだ」
ジェイソンさん達が傷ついた体でなんとか立ち上がろうとする。
「では傷を治療しますわん」
「応急処置をしたら移動しましょう」
「そのままじゃ歩けないからね〜」
と、ジェイソンさん達の傷を治療しようとコロ達が近づく。
「私も傷薬なら持っていますよ」
懐から薬びんを取り出したクレアさんもその輪に加わる。
これで終わったかとほっと一息つき、僕も治療へ参加しようとしたその瞬間、地響きが起こる。そして何かが僕の眼前で皆を吹き飛ばした。
「え?」
一瞬の事に声しか出ない。
「きゃっ」
「クッ!」
「ああっ!」
数瞬遅れてコロ達の悲鳴が聞こえてくる。
声が聞こえたので生きてはいるようだった。
「みんなっ!?」
だが、僕がみんなの姿を見ることは叶わなかった。
僕と吹き飛ばされた人たちとの間には緑の壁ができていたのだ。
壁の出所を辿って視線を這わせるとそこにはドラゴンがいた……。
視界を遮っていたのはドラゴンの尻尾だったのだ。
「うそ、だろ……」
「ドラゴンだと……」
「さっきまでいなかったぞ……」
「一体なぜ……」
ジェイソンさん達の絶望に染まった声が聞こえてくる。
どうやら四人とも無事のようだったが現状でそれを喜べばいいのかわからない。
そんな喜べない状況を作っているドラゴンは三体いた。
ギガジャイアントをはるかに上回る巨体の持主が三体だ。
三体のドラゴンはこちらを見下ろしギョロリと目をむく。
「はぁぁああっ! せいっ!」
僕達が呆然と佇む中、凛とした掛け声が響く。
と、同時にクレアさんの光剣が唸りを上げ一体のドラゴンを切り裂いた。
魔力刃のように刀身が数メートルまで伸びた光剣はドラゴンを一撃で屠る。
しかし巨大な個体を斬ったせいか光剣が縮み、見る見る消えてなくなっていく。
そして、空中でバランスを崩したクレアさんはそのまま地面へ倒れ込んだ。
(やった! 僕も加勢しないと!)
眼前でドラゴンが一体倒されたことで我に返った僕は剣を構えて走る。
目指すは残る二体の内の一体。
「はあああああああっ!」
僕はシオハルコンの剣に魔力を通し魔力刃を作り出す。
魔力刃を二メートルほど伸ばすとそのまま突撃する。
そしてドラゴンのそばまで近寄ると空中へと飛び上がりつつ更に魔力刃を伸ばす。
「ああああああああああっ!!!」
五、十、二十メートルと魔力刃を伸ばし、一気にドラゴンへと叩き付けた。
長大な魔力刃を受けたドラゴンは縦に割れ、沈黙する。
(残り一体……!)
僕とクレアさんが振り向いたとき、最後のドラゴンが口を大きく開けた。
「いけない! ブレスです!」
クレアさんの悲壮な声が木霊する。
(シオハルコンの壁を作るしかない……!)
焦った僕が異能を発動させようとした瞬間、朝日を背負い空中から舞い降りる人影があった。
朝日を一身に受けたその人物は片足をピンと伸ばしたまま残されたドラゴンへと突き進む。
「ゲヒャヒャヒャ!」
ヒルカワだ。
ヒルカワが放った蹴り、いや『キック』はドラゴンを突き抜けた。
突き抜けた瞬間ドラゴンが爆発四散する。
ヒルカワはドラゴンから突き抜けると同時に逆立ちするようにして片手で地面に着地した。
「危ねえ危ねえ、危うくこの地面を割っちまうところだったぜぇ」
片手の倒立から撥ねるようにして起き上がるヒルカワ。
「ありがとうヒルカワ。助かったよ」
僕はヒルカワへと近づきながらお礼を言う。
「おいー、お前の爆発が済んだら俺が突撃する予定だったのにどうなってんの? モンスターの大群どうなっちゃったわけ?」
「多分今のが最後の一匹だと思う……けど、気をつけて」
相変わらず挑発的な言葉遣いのヒルカワに今のドラゴンが最後の一匹だと答える。
だが、本当に最後なのだろうか。
今までもそう思った瞬間に新手が現れた。
あれだけ大量に倒したというのに全く気が抜けない。
「まあいいけどよぉ。とりあえずこれで全滅かぁ?」
ヒルカワは僕の濁した回答に首をかしげ、辺りを見回す。
僕も同様に周囲を見回すもモンスターの姿はなかった。
(どうやら本当に全滅させたみたいだな……)
ほっと安堵した瞬間、どこからともなく声が聞こえてくる。
「お前たちか……、俺の軍勢を退けた奴は!」
声のした方を向けば一人の男がこちらへ向かって歩いてくるところだった。
男は憤怒の形相でこちらを睨みつけてきた。




