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温泉旅館での宿泊を目一杯楽しんだ僕達はルナシルフの町を目指して歩いていた。そして、そろそろ町が見えてくるだろうというところで異変に気づく。
「あれ? 門が閉まってる」
そう、普段なら常時開いている町へ通じる門が閉まっているのだ。
「何かあったのですわん?」
なんだろうと首を傾げるコロ。
「竜巻や暴雨のとき以外、滅多な事では閉まらないのですが……」
腕組みしながら考えるリリアンナ。
「行って聞いてみようか」
と、エイリーンの提案もあり、そのまま門へと向かうことになる。
「あ、すいません。何かあったんですか?」
門は閉まっていたが衛兵の方はいたので早速事情を聞いてみる。
「おお、君か! 君は冒険者だから話してもいいとは思うんだが街の混乱を招くため私の口から詳細は話してはいけないことになっているんだ。すまないが事情はギルドで聞いてくれ」
ここを通るたびに挨拶していたので顔を覚えていてくれたようだったが事情はギルドで聞いてほしいとのこと。衛兵の方は僕達のギルドカードを確認すると門の側に合った通用口の扉を開けてくれる。
「わ、わかりました。早速ギルドへ行ってみます」
僕は頷くと小さな通用口から町へと通してもらった。
「すまんな。今は準備段階だから仕方ないんだ」
「いえ、それじゃあ」
僕は衛兵の方におじぎすると冒険者ギルドを目指した。
町に入るも人通りはまばらで妙な緊張感が漂う。
一体どうしたのだろうか。
「なんか物々しいですわん」
「天気はいいですし、災害ではないでしょうね」
「まあ、ギルドで教えてくれるらしいし、行こうか〜?」
皆も町の異変に気づくも、その原因に関しては思い当たる節がないようだった。
町の違和感の原因が気になった僕達は次第に歩く速度が上がり、あっという間にギルドまで辿り着いてしまう。
僕達は頷き合うとギルドの中へ入り、受付を目指す。
町の静けさとは打って変わってギルドの中は異常な喧騒に包まれていた。
人でごったがえすロビーを抜け、なんとか受付へと到着する。
「あ、すいません。外出していてさっき町に帰ってきたのですが何かあったのですか?」
挨拶もほどほどに受付のロッペーナさんに話しかける。
「ああっ! 探していたのよ! マスターが呼んでいるのですぐに上へ行って!」
すると僕を見たロッペーナさんがギルドマスターの部屋へ向かえと声を荒らげてくる。
「え、ええ?」
予想外かつ、慌ただしい展開についていけない僕。
「とにかく早く行って! 他のみんなはここで待ってね。呼ばれているのはソルト君だけだから」
「え〜っと? わ、わかりました」
と、流されるままに僕はギルドマスターの部屋へと向かうのだった。
「あ、ご主人様!」
「な、何事です!?」
「うう? ちょっと?」
そんな僕を心配そうに見つめるみんなには笑顔を返しておく。
特に悪さとかはしていないのできっと温泉旅館での一件ではないだろうか。
そんな事を考えながら階段を上っているうちに部屋の前まで到着してしまう。
ドアをノックし入っていいぞと返事が返ってきたので早速入室する。
「失礼します」
僕はそう言いながら扉を開けて中に入ると正面にギルドマスターが立っていた。
が、立っているのはギルドマスターだけではなかった。
(あれ? ヒルカワにギンギンさん?)
そう、何故かは知らないがヒルカワとギンギンさんも一緒にいたのだ。
「邪魔したな……」
「では失礼する」
だが、二人の用事は済んだようで僕と入れ違いに部屋を出て行こうとする。
そして扉へと向かうヒルカワとギンギンさんがすれ違いざまに僕に声をかけてくる。
「おうおう新人がこんな所になんの用だ? ちゃんと新人は新人らしく避難所で体育座りして怯えてろよ? ゲヒャヒャ」
と、僕の肩を叩きながらヒルカワは部屋を出て行った。
次にギンギンさんがこちらへと近づいてくる。
「ソルト君、ここに呼ばれたということはきっと協力を求められるのだろう。新人だと聞いていたので君の力については何も調べていなかったが……。あのダンジョンの時、すぐに調べておけば……。もし、町から逃げたいのであればわしに相談してくれ」
「ギンギンさん?」
一体何の話なんだろうか?
僕にはギンギンさんが何を話しているのかさっぱり見当がつかなかった。
「君はまだ冒険者になって日が浅い、浅すぎる。だが、ここに呼ばれてしまった。隠居した身であまり幅を利かせるわけにはいかんが今回は別だ。町を出るか?」
「えっと何の話かさっぱりで……。さっきまで秋月庵にいたんですよ」
僕はギンギンさんの真剣な表情に気圧されながらも話の内容がわからないことを伝える。
「そ、そうだったのか……。実は大量のモンスターがこの町に押し寄せているんだ。この町は王都から近い町の中で一番小規模で守りが薄い。わしはそれが関係しているのではと睨んでおる」
「え、え?」
大量のモンスター? 守りが薄い? あまりに急な展開に頭が追いつかない。
ギンギンさんの言葉を一つ一つかみしめるようにして頭の中で反芻し、ようやく事態の深刻さに気付く。
要はこの町にモンスターの大群が押し寄せていて非常事態に直面しているということなんだろう。そして僕がここに呼ばれたのはそのモンスターの大群に関して何かしらやってもらいたいことがあるからだろうというのがギンギンさんの予想するところらしい。
「ランクの低い冒険者は町の防衛、もしくは避難施設へ移動し一般人の護衛の任につくはずだ。だが、君はここに呼ばれてしまった。つまり、前へ出る可能性が高い」
「……そうですか」
事の重大さに気付き、返事も重くなる。
「だが、わしならその任を全て帳消しにして町から出る手はずを整えられる、もちろん君の仲間も一緒にだ。どうする?」
じっと僕の方を見据えて答えを待つギンギンさん。
「僕は……」
だけど僕はどう答えればいいかわからなかった。




