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 僕とは違い、ウキウキワクワクの三人。


 入って怒られないかな……。


「うん、じゃあ行こうか」

 僕は恐る恐るといった体で旅館へ足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ」


 と、従業員が出迎えてくれる。


 建物は和風なのに従業員の制服は和服ではなかった。

 元の世界の感覚が抜けない僕はちょっと違和感を感じてしまう。


「あ、この券を使いたいのですが……」


 出迎えてくれた従業員に宿泊券を見せる。

 ダメって言われたどうしようかとちょっとドキドキしてしまう。


「少々お待ち下さいませ」

 と、宿泊券を受け取った従業員は受付の奥へと下がってしまった。


(ああああっ! つまみ出されるんじゃあ……)

 ビクビクしてしまう僕。


 しばらくするとさっき受け付けてくれた従業員の人が女の人を連れて戻ってきた。


「お話は伺っております。私、当旅館の支配人を務めておりますレイチェルと申します。それでは秋月の間へご案内致します。こちらへどうぞ」


 女の人は僕達の前で止まると自己紹介してくれる。


 名前はレイチェルさんというらしい。

 レイチェルさんは他の従業員と違い、着物姿だった。

 そんなレイチェルさんの頭部には狐耳がついており、お尻からは三つの狐尻尾が顔を出していた。


 和服姿を見た僕は心の中でやっぱりこっちの方がしっくりくるよね、などと思ってしまう。


 だがそんな事より、支配人のレイチェルさん自ら僕らを案内してくれるという。


 僕達が状況を呑み込めない間に一緒にいた従業員の人がさっと全員の荷物を預かってくれる。そしてレイチェルさんに案内されるままに客室へと向かうのだった。



「ど、どうもです」

 僕は声を上ずらせながら返事をしてレイチェルさんの後を追いながら案内される部屋の名前を思い出していた。


 旅館の名を冠する部屋……。

 なぜだろう、すごく嫌な予感がする。


 そんな緊張がピークに達しようとしていた僕の後ろでは皆がワイワイと楽しそうに話していた。……すごく肝が据わっていると思います。




「どうぞ、こちらになります」

 建物の最上階へと到着し、突き当たりの扉を開けてくれるレイチェルさん。



「失礼しま〜す……。うあ……」


 レイチェルさんに促されて入った部屋はすごい大きさだった。

 団体客用ではないのだろうかと疑ってしまうほどだ。



「お、おお」

「すご〜い」

「広いですわん!」


 感嘆の声を上げる三人。


 しかし、これは……、一体いくらする部屋なのだろうか……。


 レイチェルさんに聞きたい衝動に駆られるもそれは野暮というもの。

 僕はぐっと堪えた。



「まずはお食事でしょうか、それともお風呂を先にご利用になられますか?」


「先に食事をお願いします。お風呂は後でゆっくり入ることにします」


 ご飯かお風呂、本来なら迷うところだが今回は即答だ。

 なぜならここへ来る道すがらに話し合って決めておいたのだ。


 目的地に着く前に何をしようかといった話で盛り上がるのって楽しいよね。



「かしこまりました。では早速食事の準備をさせていただきますね。それではどうぞごゆっくり」


「ありがとうございました」


 僕がレイチェルさんの対応をしている間にみんなは部屋を物色しはじめていた。

 まずはじめにリリアンナから声をかけられる。


「ソルト、素晴らしい眺めですよ」

 と、窓の傍で遠くを眺めながら目を輝かせるリリアンナ。

 この旅館は小高い丘の上にあり、窓からは周囲の景色が一望できるのだ。


「ほんとだ。あ、ルナシルフの町も見えるね」

 などとリリアンナと一緒に景色を楽しむ。



「っていうか、この部屋絶対一番高い部屋だよね〜」

 みんなのお茶を淹れながら呟くエイリーン。

 最上階にある一番大きな部屋、間違いなく高いだろう。


「あのおじいさん、何者ですわん?」

 茶菓子をぱくりと咥えて腕組みするコロ。


 高級旅館の最高級客室をあっさり確保してしまうギンギンさん。

 本当に一体何者なんだろうか。



「ほんとに綺麗な景色だなぁ。まあ、悪い人ではないだろうしギンギンさんのことはあんまり詮索しなくてもいいんじゃないかな」

 今回、宿泊券をくれたのも他意があってのことではなく、謝罪のためだ。

 そう考えると根掘り葉掘り調べるのも失礼というものだろう。


「そうですね」

「よくわからないけど孫好きのおじいちゃんなのは確かだね〜」

「クレアは今回の事でちょっとは懲りてほしいわん」


 皆も僕の言葉に賛成のようで頷いてくれる。


 お茶を楽しみながら雑談に興じていると部屋の外からレイチェルさんの声が聞こえてくる。

「はい」と返事をしながら扉を開けると食事の準備が整ったとの事。


「失礼します」


 レイチェルさんを先頭に従業員の方々が部屋に料理を運び入れてくれる。

 ここでは食堂に食べに行くのではなく、部屋で食べるのだ。

 広い部屋だし問題ない。


 しかしその量は尋常ではなかった。


 テーブルの上に料理が一品置かれるたびに僕達は感嘆の声をあげてしまう。

 色とりどりの料理はただ味を楽しむだけではなく見た目にも気が使われており、名だたる芸術作品のように僕達の目と心を奪う。


「な……、すごいですね」

「ご馳走ってレベルじゃないね〜」

「な、なんか高そうなオーラに圧倒されそうですわん」


 テーブルの上に並べられていく料理を見てうっとりする三人。


 本当にすごい料理なんだよね。


「う、うん」

 目の前の料理に圧倒された僕はなんとか返事を搾り出す。


 あまりに料理が豪華過ぎてこんな物をいただいてしまっていいのだろうかと逆に後ろめたい気分になってしまう。


 それはみんなも同じようで料理を見て驚いた姿勢のまま固まってしまっている。



「お酒は召し上がりになりますか?」


 そんな中、レイチェルさんがお酒の有無を聞いてくる。


「あ、僕は飲めないです。みんなはどう?」


 未成年の僕は当然飲めない。

 この世界ならそういう事を気にしなくていいのかもしれないけど酔ってトラブルを起こしてしまっては折角の小旅行が台無しになってしまう。


「私はいただきます。こんな機会に飲まないのは勿体無いので……」

 と、リリアンナ。


「私はまだ飲めないからいらない〜」

「コロも同じくですわん」

 僕と同様に断るエイリーンとコロ。


 ここから考えるとリリアンナは僕より年上でエイリーンとコロは同い年か年下かもしれない。でもこの世界で飲める年齢を知らないのでなんとも言えないところではある。女の子に歳を聞くのは失礼かもしれないけどいずれ聞いてみたいな。


「かしこりました。しばらくお待ち下さい」

 と、一旦お酒を取りに帰るレイチェルさん。


 そしてしばらくするとリリアンナ待望のお酒も到着した。


 リリアンナ以外はジュースを持ち、皆で乾杯する。


 その後は豪華な料理に舌鼓を打った。



 ――が、楽しい宴だったのはここまでだった。


「ソルト、好きです。特に塩を出すところが大好きです」


 ――リリアンナが泥酔してしまったのだ。



 リリアンナは酔ったせいか体が熱いとマントを脱ぎ、マイクロビキニ姿になると僕の方へ迫ってきたのだった。


 目が据わったリリアンナは僕を拘束するとお酌を強要しながら塩の素晴らしさを懇々と語り続けた。


 水着姿のリリアンナに密着された僕はお酒の匂いも塩の話も頭に入らず、きつく体を寄せぴったり張り付かれたことだけが頭の中を占めていた。


「う、うう、わ、私だって〜」

「コロも大好きですわん!」

 が、リリアンナに負けじとエイリーンとコロが僕への密着に参戦する。


「ぐぬぬ、負けませんよ! ここは新装備の出番のようですね!」

 リリアンナはエイリーンとコロが僕に抱きついてきたところで何故か新しく買った装備を持ち出そうと自分の鞄が置いてある場所へ走った。


「ええ!? 危ないよ!」


 驚く僕。

 いくらなんでもそんな物を持ち出すなんて酔いすぎている。

 これは止めないと。


「大丈夫です。私が購入したのは防具です」

 僕の声を聞いたリリアンナが背を向けたまま鞄をあさりつつそう返してくる。


「あ、そうなんだ。じゃあ棘とかがついてるの?」

 新しく買った防具がこの場面で役立つというのはどういうことなんだろうか。


「いえ? まあ見ていて下さい」

 未だ鞄をあさるリリアンナから不敵な返事が返って来る。


 鞄はボストンバック程度のサイズでさして大きいわけではない。

 新装備と言っていたけどあんな鞄に入る大きさの物なのだろうか。


「これです!」


 鞄から探し物を見つけ当てたリリアンナが“バーン!”という効果音が似合いそうなポーズで新装備を掲げた。



「え……」


 が、それを見た僕は固まってしまった。



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