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「すごい……。綺麗だ……」

 僕は突き出された剣の輝きに吸い込まれるように見入ってしまう。


 以前見た黄金に輝くオリハルコンの剣が太陽だとするならこの剣は月といったところだろうか。刀身は水気を帯びたように滑らかな白光を放つせいか白く透き通る肌を連想させ、女性のような色気を感じてしまう。



「最高傑作だぜ……。ついでに製造最速タイムも更新だ……」

 僕が剣を受け取ったのを確認すると力尽きるようにカウンター突っ伏すローザさん。


「ローザさん!?」

「大丈夫だ。それより試してみろ」

 ぐったりしたままちょっと顔を起こしたローザさんが言う。


「はい」

 僕は頷くと開けた空間まで移動し、構えを取る。


「ハッ!」

 そして掛け声とともに一振り。


(え……、軽い……)

 以前振らせて貰ったオリハルコンの剣より扱い易さを感じてしまう。

 それは多分この剣が僕専用に作られた物だからだろう。


「どうだ?」

 僕の剣を降る様を見て満足気な表情をしたローザさんが具合を聞いてくる。


「すごいです……。まるで何も持たずに手だけ振ってるみたいです」

 剣を見つめながらローザさんに答える。

 完成された剣というのはこんなにも凄い物なのかと改めて感心してしまう。


「違和感はないか?」


「二本とも問題ないです。コロとは身長も近いし大丈夫だと思います」

 両方試してみた結果、異常は感じ取れなかった。

 ローザさん自身、納得のいく出来みたいだし僕から言えることなんてあるはずもない。


「自分で言うのもなんだが本当に上手くいった。まるでその金属が生きているみたいだった。こっちがやりたい事を察して形を変えてくれているようだったぜ……」

 剣を打っていた時のことを思い出すようにして話すローザさん。


「あはは……」

 僕はその話を聞いて何ともいえない気分になっていた。

 まさか本当に変形してないよね?


「じゃあ、剣は渡したぜ。約束通り残りのインゴットは貰うからな」

「はい、ありがとうございました」

 無事剣を受け取り、交渉も済んだ僕はしっかりと頭を下げてお礼を言う。


「じゃあ、私は寝る。今日は閉店だ」

 ローザさんはぶっきらぼうに手を振るとこちらを気にせず部屋の奥へと戻っていった。


(行っちゃった)

 そんなローザさんを見送った僕は受け取った剣をじっと見つめていた。

 本当に凄い逸品を頂いてしまった。これは大事に使っていきたい。


「よし、急いで戻ろう」

 剣を貰ってホクホク顔の僕は急いで宿へと戻るのだった。


 剣の次は温泉。

 なんだか今日は楽しい一日になりそうだ。


 …………


「ただいま」


 僕が部屋に戻ると皆が出発準備を終えて待っている状態だった。



「どこに行っていたのですか?」

 と、リリアンナが尋ねてくる。


「ちょっと武器屋にオーダーを頼んでいたんだ。はい、これがコロの分ね」

 僕はリリアンナに事情を説明しながらコロに剣を渡す。


「あ、昨日採寸したやつですわん?」

 僕から剣を受け取ったコロは昨日の事を思い出して尋ねてくる。


「そうそう」


「ご主人様―っ! ありがとうございます! 大事に使わせていただきますわん!」


 その通り、と僕が頷くのと同時にコロが抱きついてくる。

 僕は嬉しそうにしてくれるコロの頭を撫でながら微笑み返すのだった。


「む、ソルトとコロだけなのですか?」

 ちょっとむっとした表情で聞いてくるリリアンナ。


 確かにこの状況だとコロだけ特別扱いみたいな感じになってしまう。


 だけど、あの剣をリリアンナを渡すわけには……。

 インゴットの状態でさえローザさんを虜にした代物だ、もしリリアンナが手に取ればどんなことになってしまうか想像もつかない……。

 ここは何かしら説明しておかないと納得してもらえないだろう。


「あ、え〜と……。僕達もリリアンナのミスリルの剣みたいなのが欲しくて奮発して買っちゃったんだ」


 と、リリアンナはもう持ってるよね? と言外に伝わるような言い方をする。

 実際、今まで僕達が使っていたのはかなりの安物、この説明でなんとか納得して欲しい。



「なるほど、剣は良い物を持っておくべきですからね。実は私も新装備を購入したのです」

 と、僕の説明に頷き返してくれるリリアンナ。


 どうやらコロだけ剣を渡した事でトラブルになることは避けられたようだ。

 しかもリリアンナも何か新しい買い物をした様子。


「え、そうなの? だけど特に変わった感じはしないけど」

 リリアンナの話を聞き、装備を見てみるも特段変わった様子は無い。

 いつものマントにミスリルの剣を差した姿だ。


「まだ試していませんからね。それより……」

「それより?」


 どうやら新装備を買いはしたが身につけてはいないようだった。

 そして他にも伝えたい事がある様子。


「ここ最近の依頼の報酬でミスリルの剣の代金を支払い終えました!」


 ちょっと得意気な様子でそう報告してくれるリリアンナ。

 なんとオークの巣討伐とダンジョン攻略で剣の支払いが済んだらしい。

 これはめでたい!


「おお、おめでとう!」

「やりましたわん!」

「よかったね〜」

 僕を含めた皆から祝福の言葉が上がる。


「みんなありがとう! それもあって新装備の購入となったのですよ」


「なるほどね」

 と、僕は頷く。

 分割の支払いが完了し、お金に余裕ができたから新装備の購入もできたようだ。



「ですが今日はこれから旅館へ行くわけですし、しばらく試す機会はなさそうですね」

 少し残念そうな表情を見せるリリアンナ。


「それもそうだね。まあ僕達の剣もしばらく使わないかも」

 僕も新たな剣を使うのは少し先になりそうなのでちょっと残念ではある。

 折角手に入れたんだから試してみたくなっちゃうよね。


「そこは残念ですが今日は温泉です!」

 僕達の会話を聞き、荷造りを終えた鞄を見せて張り切るコロ。


「準備はばっちりだよ〜」

 コロの隣に立ち、Vサインを送ってくるエイリーン。

 皆、出立準備は万全のようだ。


「それじゃあ行こうか!」

 僕のせいでちょっと出発が遅れちゃったけど早速温泉旅館へ向かうことにする。


「「「おー!」」」

 僕の合図に皆が片腕を掲げて返してくれる。


 出立準備を終えた僕達は早速秋月庵へと向かうのだった。



 …………



「ここが秋月庵……」


 今僕の目の前には旅館がある。


 純和風の旅館だ。


 ルナシルフの町はどちらかといえば洋風の建築物みたいな感じだっただけに異質さが漂う。


 周囲の風景も建築物の一つとしてデザインされたかのような一体感があり、学生の僕でもここが高級で特別な場所だという事がわかってしまう。


 なんていうか敷居が高くて入りづらい。


 入りづらいというか入って許される雰囲気がしない……。

 政財界の大物御用達みたいな感じである。


「この辺りでは珍しい建築様式ですが趣があって良いですね」

 旅館を眺めて頷くリリアンナ。


「ふふ、ギルドのみんなに自慢しちゃおっと」

 むふふと楽しそうに笑うエイリーン。


「入りましょう!」

 高級感に気圧して後退る僕にしがみついてくるコロ。

 僕とは違い、ウキウキワクワクの三人。


 入って怒られないかな……。




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