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色々あったけど無事治療院で合流でき、僕達は宿に帰るのだった。
…………
「じゃあ寝ようかな…………っと」
宿に帰り、食事も終え、後は寝るだけとなった時、異変が起こる。
――それはエイリーンだ。
エイリーンの様子がどうもおかしいのだ。
「どうしたのです? エイリーン」
「寝ましょう?」
と、リリアンナとコロからも心配されてしまう。
エイリーンは寝る段になってもなぜかベッドに入らず部屋の隅に行ってしまったのだ。
「う、うん」
パジャマを着たエイリーンは大きなリス尻尾を巨大なぬいぐるみでも抱えるかのように抱きしめ、部屋の端から一歩も動かない。伏し目がちな視線は宙をさまよい、なんとも落ち着きがなかった。
「ダンジョンを出る辺りから様子が変だけど何かあったの?」
少し前からエイリーンの様子が明らかにおかしかったのは気付いていた。
その事を本人に尋ねてみる。
「え、えっと……。何でもないよ?」
エイリーンはそう言うと大きな尻尾を力強く抱きしめ口元を隠してしまう。
そしてリス尻尾に覆われた顔で僕の方をじっと見つめてくるのだった。
……一体どうしたんだろう。
「確かにおかしいですね。前はもっと眠そうな顔でおっとりしていた事が多かった気がします」
リリアンナの言う通りまるで別人のようにおっとりさが抜け、妙に大人しくなってしまったのだ。
前の調子に慣れていた僕からすれば話しているとこっちの調子もくるってしまうほどだ。
「わかりましたっ!」
コロがキラーンと目を光らせる。
その顔立ちは名探偵を思わせるほど冴えわたっていた。
「コロ?」
僕はコロの方へ振り返る。
何か気付いたのだろうか。
「きっと魔神戦でご主人様に命を救われた際に緊張と恐怖からドキドキしすぎて吊り橋効果が発生し、普段の気持ちと相乗してキュンキュンが止まらなくなってるわん!」
ビシッとエイリーンの方を指差し、とんでもないことを言い出すコロ。
「う……ううう……」
エイリーンは巨大な尻尾に顔をうずめ、表情が読み取れなくなってしまった。
そして壁にもたれかかるとそのままズルズルと座り込んでしまう。
「コロ、止めなさい」
「わふっ」
僕はコロの頭を撫でながらたしなめる。
クラスメイトから避けられていたような僕に対してギルドで講師をするような立派なエイリーンがそんな気持ちを抱くはずがない。
これはむしろ逆。
魔神戦辺りで僕と二人っきりになる機会が多すぎて嫌気がさしたんだろう。ここはパーティの不和を防ぐためにも何か声をかけないと。
「エイリーンもあんな事でそんなに意識しなくていいよ。僕に近いのが嫌ならリリアンナと位置を代わる?」
きっとこれから寝るベッドの位置関係が気に入らなくて部屋の隅にいたのだろうと当たりをつけた僕はエイリーンにそう切り出した。
「か、代わらない! 代わらないからね!」
が、それを聞いたエイリーンは抱きしめていた尻尾を投げ捨てるように引き離し、一気に僕へ詰め寄ってきた。
「あ、はい。じゃ、じゃあ寝よ?」
エイリーンの勢いに圧倒され、言葉に詰まる僕。
「……はい。失礼します」
了承したエイリーンは再度尻尾を抱きしめるとすすすっと妙にしおらしくベッドへと滑り込んだ。
「あの……、以前は一日だけという話でこの位置になったはずなのですが一体私はいつソルトの隣にいけるのでしょうか」
一連の流れを見て疑問の声を上げるリリアンナ。
「おやすみですわん!」
リリアンナの言葉を就寝の挨拶で遮り、消灯するコロ。
「うん、おやすみ〜」
と、毛布を整える僕。
ちょっと一悶着あったけど皆で眠りにつく。
その日はとても疲れたせいかとてもぐっすりと眠れてしまうのだった。
…………
翌朝、朝食を済ませた僕は昨日のことを思い出す。
(魔神かぁ……。すごく怖かったなぁ……)
今思い出しても震えが止まらない。
無事帰れて本当に良かったと胸を撫で下ろす。
と、色々あったが僕は案外元気だ。
だけどみんなが心配してしばらく休めと言う。
でも一日ぐっすり寝て起きたらすっかり本調子に戻っていた。
元気なので部屋でじっとしているのが退屈に感じてしまうくらいだ。
けど町の外に出てしまうとみんなを心配させてしまう。
というわけで今日一日はお休みにしてのんびりしようかと思う。
ちなみにリリアンナは今回の一件で自分が無力だったと朝から一人で訓練所に行ってしまった。
エイリーンはどうにも落ち着かないからとギルドで仕事。
コロは僕のお世話をすると言って直立したままじっとこちらを見ている。
(最低でも今日一日はモンスターを倒すのを控えたほうがいいだろうし、ここはアレを検証してみようかな)
アレとはダンジョンで発現したSIOの異能だ。
魔神戦では咄嗟のことだったのでただ硬くする事しかしなかったが実際に使ってみてどの程度汎用性があるのかわからない。
ということで今日はSIOの検証をしてみようと思う。
「コロ、ちょっと下へ降りて厨房を借りてくるよ」
「お供しますわん」
コロは僕の言葉に頷くと後ろからトコトコと着いてくる。
僕は一階へ下りると厨房で掃除をしていたクッコさんに声をかけた。




