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僕の足取りがおぼつかないせいか少し時間がかかるも無事ギルドへと到着し、受付へと向かう。
「いらっしゃぁい。今日はどうしたのかしら」
いつもの調子でロッペーナさんが迎えてくれる。
「あ、すいません。ダンジョンの件でギルドマスターに報告したいことがあるんですけど」
「了解よぉ。じゃあ奥の階段から二階に上がってね」
「分かりました」
僕とエイリーンはロッペーナさんの許可を得てそのまま二階のギルドマスターの部屋まで向かう。扉の前に立つと早速ノックし返答を待つ。
「誰じゃ?」
すると、すぐにギルドマスターから返事が返ってきた。
「あ、ソルトです。ダンジョンのことでお話ししたいことがあるんですけど」
「入るのじゃ」
「失礼します」
「失礼しま〜す」
僕達が部屋の中に入ると山積みの書類と格闘中のギルドマスターが出迎えてくれた。
豪華な机の上にうず高く積まれた書類の山に遮られギルドマスターの姿は全く見えないが幼く特徴的な声だけは聞こえてくる。
「して、どうしたのじゃ?」
書類の山が僕へ話しかけてくる。
「実は……」
僕は姿が見えないギルドマスターへ向けてダンジョン探索の途中経過を報告した。
「宝箱の中から魔神が出たじゃとぉぅっ!?」
書類の山が崩れ、日の出のように顔を飛び出してくるギルドマスター。
「はい……、死にかけました…………」
「破壊決定と」
ギルドマスターは僕の言葉を聞き、机の上にあった何かの書類にポンと判を押す。
「それで探索は続行した方がいいでしょうか?」
僕は頭を掻いて面倒臭そうに顔をしかめるギルドマスターへおずおずと質問する。
正直もう行きたくないが探索はまだ半分しか終わっていない、続けろと言われれば行くしかない状況ではある。
「ダメじゃ! ベテラン以外立入禁止! 地図が未完成な分、攻略にちと時間はかかるじゃろうが仕方あるまい。魔神は宝箱から出たのじゃな?」
「はい。見るからに危険な雰囲気の宝箱だったので早々開けることはないと思います。ダンジョンで遭遇したモンスターは普通でした」
僕はギルドマスターの質問に簡潔に答える。
他のダンジョンを知らないので何とも頼りない言葉になってしまうが、あの宝箱以外はいたって普通のダンジョンだったと思う。
「しかし、なんでそんな危険な宝箱を開けたんじゃ……。お主はそういう部分では欲がなさそうに見えたのじゃが」
ギルドマスターは僕を見据えていぶかしげな視線を送ってくる。
「あ、えーっと。つい目が眩んじゃって……」
女の子の事を話すか迷い、咄嗟にそんな事を言ってしまう。
「違うよ。古いダンジョンと間違えて入ちゃった子が宝箱を開けちゃったの。ソルトはむしろ止めに入った方だよ」
「エイリーン!?」
が、隣にいたエイリーンが本当のことを話してしまう。
「ソルト、今回は庇ってはダメな時だよ。あの子は忠告を聞かなかった。それに立入禁止と知ってからも探索を続けたからね」
エイリーンは真剣な眼差しで僕に諭すように話しかけてくる。
「うん……、そうだよね。ごめんね」
言われてその通りだなと僕も思ってしまう。
それに依頼の報告を正しくしないのでは意味がない。ギルドマスターの期待を裏切ることにもなってしまう。ここは正確に報告すべきところなのだろう。
「ソルトは謝る必要ないよ。悪いのはあの子だし」
ちょっとキツい物言いになってしまうエイリーン。
命の危険を感じるような状態に陥ったしそれも仕方ないだろう。
だが、今僕が謝ったのはエイリーンに諭されたことではない。
たしかにその事も悪いとは思ったけど咄嗟に頭をよぎったは別の事だった。
「ううん。そうじゃなくてエイリーンに言わせるような形になっちゃってごめんね。本当は僕が言うべき事だったよね」
ちゃんと報告せずにエイリーンに気を使わせてしまったことに謝る。
「ソルト……」
また顔が赤くなってしまうエイリーン。
今日のエイリーンは本格的に変だ。
やはり疲労が溜まっているのかもしれない。
「そやつは一時資格停止で謹慎処分じゃな。それとも剥奪にするかの?」
僕達の話を聞き、女の子の処分を仮決定するギルドマスター。
「あ、いえ。できれば謹慎で」
できればあの子の処分は軽くしてあげたい。
あの子は僕達を陥れようと悪意がある行動をした、というわけではない。
結果として最悪の事態を引き起こしてしまったが、ただただ冒険に胸躍らせ修行に励む元気な子って感じだった。ちょっと猪突猛進気味なのが玉にきずなんだけどね……。
「まあ、私たちが報告したってばれるから恨みは買いたくないよね」
と、エイリーン。
「うん。ちょっと思い込みが激しそうだったしね」
確かに今回の処分が下れば誰が報告したのか一目瞭然である。
あんまり重い処分になるとこっちへ怒りの矛先が向いてきそうで怖い。
「で、そやつは今どこにおるのじゃ?」
「気を失ったので治療院へ運んでいるところです」
今ごろは治療院に着いている頃ではないだろうか。
無事だといいんだけど。
「わかったのじゃ。意識を回復次第そやつからも事情聴取を行い、正式な処罰を決めるのじゃ」
「ちょっと猪突猛進な所もあったけど、悪い子じゃないと思います。宝箱を開けたのも悪意からではないです」
どうもあの子は早とちりで人の話を聞かないところがある。
少しの間しか一緒にいなかったけどそんな印象だ。
「もうちょっと冒険者としての教育を受ける必要があるかもね」
眉根を寄せたエイリーンは腕組みしながらそんな事を呟く。
「うん。でも、さすがに魔神が出てくるなんて誰も思わないよ。ね?」
僕はちょっと難しい顔をするエイリーンの肩に手を置きながら微笑みかけた。
「……はい。ソルトがそう言うなら」
ぽっと頬を赤らめ俯くエイリーン。
「あっれ〜? お主らそんな感じじゃった? なんか前より仲良くなっとらんか?」
ギルドマスターが僕達二人を半眼でじぃっと見つめてくる。
「そうですか?」
前と変わらない気がする僕は首を傾げた。
「そんなことないっ!」
エイリーンも同意見のようで顔を真っ赤にしながら両手を前に出してすごい勢いで振っている。よほど僕と仲良くなってると思われたのが心外だったらしい。
「ふうん?」
尚も疑問の視線を投げ掛けてくるギルドマスター。
「とりあえず報告は以上です」
僕はそんなギルドマスターへ報告終了を告げた。
「わかったのじゃ。お主らの依頼はこれにて終了とする。ダンジョンは完全に立入禁止とし、ベテラン冒険者によるダンジョンコア破壊任務を新たに計画するのじゃ。ご苦労、報酬は受付で受け取るように。以上じゃ」
「失礼します」
「お疲れさま〜」
僕とエイリーンはギルドマスターに頭を下げると部屋を出て受付へと向かった。
早速受付でロッペーナさんから報酬をいただき、ロビーへと移動する。
全ての事を終えた僕達は皆と合流しようと周囲を見渡すもコロとリリアンナの姿は見あたらなかった。
「あれ? コロとリリアンナはまだ来てないみたいだね」
結構話が長引いたし、もうこっちへ到着しているかと思ったがまだだったようだ。
「うん。治療院に行ってみる?」
エイリーンも僕と同じ気持ちだったようでコロとリリアンナが来ていないことに首を傾げていた。
「入れ違いにならないかな?」
「一本道だから大丈夫だよ」
「じゃあ行ってみようか。女の子の容態も気になるしね」
「うん」
エイリーンと話し合った結果、こちらが先に済んでしまったようなので治療院まで迎えに行くことにする。依頼も終了し、報酬も貰ったのでわざわざここで落ち合う必要もないだろう。
もし向こうも治療院を出てギルドを目指していたとしてもここまで一本道なのですれ違う事もない。
適当なところで遭遇できればいいな、などと考えつつ僕達はギルドを出た。
だが、道すがらに合流できる事はなかった。
そして結局治療院まで到着してしまう。
「結局会わなかったね」
「う〜ん。どうしたんだろう」
僕とエイリーンは顔を見合わせて首をかしげながら治療院へと入った。
――きゃあああああああああああああああああああ!
すると院内全域に響き渡るような大音響の叫び声が聞こえてきた。
○お知らせ○
本作をお読みいただきありがとうございます。
というわけで塩帝ソルトの更新も全体の三分の二を越えました。
後三分の一でちゃんと終わるのかと心配される方もいるかもしれませんが一応巨大スライムの核以外は綺麗におさまっていると思います。
ここから終盤に突入していくのですが展開の予測コメや最終話感想などからのネタバレを防ぐため感想欄を閉じさせていただきます。
また、こちらの終了と同時かそれに近いタイミングで長編の更新を再開したいため、終盤の更新が連日ではなくなる可能性があります。続きを楽しみしてくださっている方には申し訳ないのですがご了承ください。




