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「じゃあ店を開けるぞ! 開店だぁっ!」

 僕の声にクッコさんはちょっと驚いた表情を見せるも、店の扉を開けオープンの札を立てた。


 それと同時に大量のお客さんがドッと雪崩れ込んでくる。

 店は一気にパニック状態へと変化した。


「いきなり大量に来たわん!」

「ご案内します、こちらへどうぞ」

「はいは〜い、順に適当に座ってね〜」


 ごったがえす店内で慣れない言葉遣いでも精一杯接客する三人。


 僕も負けていられないなと前に出るも――


「こ、こちらへどうぞ……」


 ――羞恥心が限界に到達し、顔を真っ赤にしながら消え入るような声での案内になってしまう。


 そんな中、怒声が店内に響いた。



「おいっ! これはどういうことだ!」


 そちらを見やればお客の一人がメニューを見て怒鳴っているのが目に入った。


「どうかしましたわん?」


 お客の傍へすっと駆けつけるコロ。

 こういう時一切物怖じしないコロって凄いなとつい思ってしまう。



「メニューが塩と塩スープの塩セットっていうやつしかないじゃねえかっ!」



 どうやらその客は店のメニューが塩関連の物しかないことに激高しているようだった。



「申し訳ない、食材の入荷が遅れていて今出せるのはそれだけなんです。ですが自信を持ってお勧めできる逸品ですよ」

 傍でお客を案内していたリリアンナがコロに代わって説明する。


「ふざけんじゃねえっ! ただの塩じゃねえかっ」

 リリアンナの説明を聞いても怒りが収まらないお客。


「文句があるなら帰りな〜。今出せるのはそれだけだよ〜」

 店員らしからぬエイリーンの言葉がきっかけで店内に剣呑な雰囲気が漂い始める。



「帰るって他にやってる店なんかねえんだよっ!」


 注文できるものが塩しかないと知って怒った客はそれでも帰る様子は無かった。

 どうやら他に営業しているお店がないようだ。



 一人の客が起こした騒動に耳を傾けていた他の客もざわつきはじめる。

 そんな話し声が僕たちの耳へと届く。



 ――どうするよ……。

 ――ここだけ開いてるなんておかしいと思ったんだ。

 ――くそ……、こんなんじゃ腹が膨れねえぜ。

 ――俺達は飯を食いに来たっていうのによ……。

 ――そんなことよりあの奥で固まっている女の子すごくかわいくねえか?

 ――ああ、桃色の髪の子だろ? あの殺人的なバストに黒ストがたまんねぇよな。

 ――天使が舞い降りた……。



 上から下まで嘗め回されるような視線を感じて僕が身を震わせる中、その場を静まり返らせるほどの大声が響いた。



「ここはわしに任せてもらおうっ!」



 ――誰だ?

 ――じじいだな。

 ――こんな状況でなにを任せるっていうんだ……。

 ――やっぱりあの子かわいいな……。

 ――ああ、恥ずかしそうにモジモジしているところがたまんねえぜ。



 声がした方を向くとおじいさんが席から立ち上がっているのが見えた。

 全員の視線がそちらへと向く中、なぜか僕への粘りつくような視線は一向に途絶えることがない。


「フフ、わしの名はギンギン。この辺じゃちょっと名の知れた遊び人じゃ」


 皆の視線を一手に引き受けたおじいさんは顎に手を当てながらニヒルな笑みを浮かべた。



 ――ギンギン?

 ――聞いたことない名前だな。

 ――顔も見たことないぞ。

 ――誰かあいつを知ってるか?

 ――いや、はじめて見る顔だな……。



「ま、まあ、わしの縄張りはどちらかといえば王都だしぃ……。それはそれとして! そのメニュー、わしが注文するぞ!」


 ギンギンと名乗ったおじいさんは周りから向けられた疑わしい視線を振り払うかのように声を上げると塩を注文すると叫んだ。



 ――あいつが塩を?

 ――ギンギンが塩を食うらしいぞ。

 ――こいつはありがてえ。

 ――毒見役とはご立派なことで。

 ――バカな奴もいたもんだぜ。



 周りの客の嘲笑めいたざわめきが渦巻く。



「それでは持ってきますわん!」


 そんな不穏な雰囲気を振り払うかのようにコロが元気一杯にオーダーを受けた。



「おうよ! どんと来いじゃ」

 ドンと胸を叩くギンギンおじいさん。


 …………


「お待たせしました。こちらが塩セットの塩と塩スープになりますわん」


 コロがギンギンおじいさんの前にこの店の唯一のメニューである塩セットを置く。



 塩セット、お椀に盛られた塩と温かい塩水のセットだ。

 これでもかというほど塩が味わえる至極の逸品である。



 クッコさんに頼まれてから短時間で作り出したメニューにしてはかなり完成度が高いと自負している。僕も自信を持ってお勧めできる品だ。


「こいつぁ、たまげたな……」

 出された料理に感嘆の声をあげるギンギンおじいさん。


「どうぞ〜」

 コロは塩セットをテーブルに置くと一礼してカウンターへと戻った。



「では、まず塩スープから……」


 ギンギンおじいさんは恐る恐るといった体でスープをすすった。



 異様に静まりかえった店内でギンギンおじいさんがスープをすする音が木霊する。静寂が支配する店内でギンギンおじいさんの一挙手一投足を店にいる客全員が固唾を飲んで見守る。



「ッ! これはッ!!!」



 塩スープを一口飲み、目を見開いて驚きの声を上げるギンギンおじいさん。




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