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 僕は朝から揉めずに良かったなとほっと胸を撫で下ろしながら階段を降りた。


 …………


 食堂へと到着し、さあご飯だと思った瞬間、違和感を覚える。


 妙に静かだったのだ。


 僕は自然と食堂の中を見渡してしまう。

 するとお客さんは僕たち以外誰もいない状態だった。


「あれ?」


 朝の時間帯でこんなに空いているのははじめてだ。

 何かあったのだろうかと疑問を感じる。



「なんか静かですわん?」

「お客さんがいないね〜」

「何かあったのでしょうか」


 皆も食堂の静けさに首を傾げる。


 そんな食堂の片隅で店主兼料理人のクッコさんが椅子に腰掛けてうなだれているのが目に入った。僕はそんなクッコさんが気になり、近づいて声をかけてみる。


「クッコさん、お客さんがいないみたいですけどどうかしたんですか?」


「おう、ソルトか……。実はちょっとトラブルでな……」

 言葉少なく語るクッコさん。

 どうにも元気がない。


「トラブル?」


「ああ、どうも街道での物資の運搬に遅れが出ているみたいなんだ。そのせいで材料が手に入らなくて客には帰ってもらってるんだ。俺もこんなことははじめてだぜ……」


「ストックはなかったんですか?」


 クッコさんの話によると運送に遅れが出て食材が手に入らない状態らしい。

 だけど備蓄はなかったのだろうか。



「食材はなるべく新鮮な物を使いたいから当日か前日に仕入れてたんだよ。ここ数日で怪しい兆候はあったんだが過信してたぜ……。しかし参ったぜ、食材が足りてないのはうちだけじゃないはずなんだ。今は客に帰ってもらっているがその内押しかけて来そうで怖いな……」


 このお店で提供している料理は鮮度にもこだわりがあったらしく、仕入れを直前に行っていたようだ。そのせいで今はピンチの状態になっているらしい。


 だけど他のお店も似たような状態だろうとクッコさんは予想しているみたいだった。



「と、いうことは……」


 僕はクッコさんの話を聞き、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「コロたちも食べれないわん!?」


 コロが叫ぶ。



 そう、どこにも食材がないなら僕たちもご飯が食べれないということになってしまう。

 これは困ったぞ。


「お腹減ったね〜」

 両手でお腹を押さえてがっくりうなだれるエイリーン。



「い、いや、落ち着くのです! 我々にはソルトが居ます! だから、アレがあるから大丈夫です! さあソルト! アレを! アレを下さいっ! 今回は食料がないわけですし他意は一切ありません! さあ! さあさあ! アレを! アレをお願いしますぅううううっ!」


 リリアンナは料理が食べれないのをいいことに僕にべったりとしがみついて塩をねだってくる。必死な表情をするリリアンナの顔が物凄く近い。



「ちょ、リリアンナ、近い、近いよ!」


「我慢できないのです! 早く、早くアレを!」

 ぐいぐいと迫ってくる、というかむしろダイレクトに接触し身体や顔を僕にすりつけてくるリリアンナ。


「おいおい、あの嬢ちゃんはどうしたんだ? ……ちょっと怖いぞ」

 リリアンナの奇行を見て顔を引きつらせるクッコさん。


「いつものことですわん」

「そうそう塩が好きなんだよね〜」


 驚愕するクッコさんとは対照的にとてもほっこりした表情で僕達を見守るコロとエイリーン。ちょ、助けて……。


「もう、今回は特別だからね」

 リリアンナの強硬姿勢に根負けした僕は塩を出してリリアンナに振る舞った。


「はああああああっ! おいひぃいいい!」

 塩を頬張り表情どころか言語まで蕩けさせるリリアンナ……。

 リリアンナってこんな感じだったっけ……。


「おいっ、塩を塊で食ってるじゃねえか! しかも異常にうまそうに! どうなってやがる!?」

 リリアンナの食事風景を見て顔を真っ青にして恐怖するクッコさん。


「あ、お一つどうですか?」

 そんなクッコさんに僕は茶碗一杯分の塩を出してみた。


「どうですか? じゃねえよ……。まあ、食うけどな……」

 逡巡した末、塩を受けとるクッコさん。


「結局食べるわん?」

「お腹が減ってたのかもね〜」

 などと言いながらコロとエイリーンも塩を貪る。


「な、なんだこれは!? 今まで調味料として使っていたが主食としてもめちゃくちゃうめえじゃねえか!? こんな食事方法があったなんて……。い、今まで俺がやってきた料理は一体……。もうこれさえ食ってればそれでいいんじゃねえか……?」


 僕の塩を食べ、いけない答えにたどり着こうとするクッコさん。


「いえ、料理は料理で美味しいですから」

 僕は真顔で答えた。


「そ、それもそうだな。というか、これなら店が再開できそうだぜ! ソルト、こいつを店のメニューで出させてくれ!」

 塩を掲げながら大喜びのクッコさん。


 だがその内容は驚くべきものだった。

 塩のみで店の営業を再開しようというのである。


「え?」

 つい聞き返してしまう僕。


「今日だけでいい! 頼めるか?」

 クッコさんは僕の両肩を掴みグッと力を込めてくる。

 その顔は真剣そのものだった。


「わ、わかりました」

 そんなクッコさんの真剣な表情を目の前に僕は断れるはずもなかった。


「ありがてえ! ついでに店の仕事も頼めるか? 他の店が閉まっていたらここに客が殺到するだろうし人手が必要になると思うんだ」


「そうですよね……、引き受けますよ」


 なし崩し的にドンドン話が進んで行く。



 だが、事ここに至っては否定的なことを言っても話が長引くだけだ。


 それならさっさと話を進めてしまった方がいいだろう。




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