閑話5 ある男性の休日?
第2章へ続く道筋の一つです。
ディルも大分強くなってきた。
『来年入学する学園を卒業したら神に会わせることができる』
そう約束をした。
これは年齢のこともあるが、大森林自体が危険地域であるからだ。
ミコ様の眷属ならばともかく、その他の多様な生物の中には危険なものも大勢いる。
あの聖域は自衛の能力を持たない者が入っていいような場所ではない。
だから、親衛隊で副長を務めているナンリッドをシャルの護衛名目で付けてディルを鍛える環境を作った。
それにしても、あの子には本当に驚かされてばかりだ。
食に始まり、喪失錬金術の復活、遺失技術の再現。
ここ数年で産み出した物は数限りない。
外交公爵と言われるベクトール宰相などは、俺の娘をあの子の婚約者にした事に最初は憤っていたが、あの子の功績を知ると今度は自分の血族を近づけられないか画策するようになったようだ。
多分、外交カードの充実が目的だろうがわかり易すぎる。
あるいは憤っていた事を謝罪してるポーズなのかもしれないが、それだと逆に分かりにくいだろう。
謝罪するなら直球でくれば良い。
あれで仕事ができるのだから不思議だ。
話を戻そう。
成人すらしていない子供が次々と国に利益を上げている。
彼の取り分は貯金しているが、かなりの資産になるだろう。
成人してから渡して驚かせるつもりだが…
しかしそのせいか、4年前に親から以外でいざという時のためにお金を用意したいから店を経営したいと言ってきた。
8歳にして起業する。
あれほど毎度毎度驚かせる人間は見たことがない。
俺以外にも両親にも話を通していただけでなく、各方面にも挨拶していたらしく、1年後、ディルは店を作っていた…
しかも1年で店を作るのに掛かった費用を全て返済し終わった。
内緒にしている彼の資産から出していたのだが、それをキッチリ埋め返していた。
本当にいくつ驚けばいいのだろうか。
そして、現在その店は……
「いらっしゃいませ、ようこそ喫茶店『夢見る異世界』へ。こちらでお食事でしょうか」
「では、中で食べさせてもらおうかな」
驚くことにこの店は開店と同時に大繁盛、今まで食べたことが無いような不可思議な甘味を出す店として、そしてその菓子を持ち帰ることもできる店として、王都で大人気の店となった。
他国からも旅人や商人が来るおかげで国の収入まで増加している。
甘味を専門に出す店、というのは今までこの世界に無かった。
食事の後に甘味を出す店はあるが、あくまで食事がメイン、甘味だけというこの商売はこの国に、いや世界にとって盲点だったかもしれない。
ディルが名付けたという『夢見る異世界』。
なるほど、確かにこの世界になかったという意味では合っている。
中の内装も不思議な感じがする。
これが異世界と言われて納得できる。
どこからこんな店の発想がでてくるのやら…
席に案内されたが、ここのテーブルもまた不思議な作りだ。
店と一体となっている。
普通テーブルは買い換えたりする関係ですぐに動くものだが、この店のテーブルは固定されている。
それ以外にも各所に普通とは違う箇所がいくつも存在する。
感心や驚愕を通り越して呆れるしかない。
さて、今日のメニューは……
夏の店内用メニュー
〇シフォンケーキ・・・・・・・・160P
〇チョコレートケーキ・・・・・・180P
〇蜜柑のショートケーキ・・・・・180P
〇ル・レクチェタルト・・・・・・220P
〇ミックスベリータルト・・・・・200P
〇胡麻団子3個・・・・・・・・・190P
〇月餅・・・・・・・・・・・・・180P
〇アイスクリーム(バニラ)・・・・180P
〇アイスクリーム(チョコ)・・・・180P
〇かき氷(練乳蜜柑)・・・・・・・180P
〇かき氷(宇治金時)・・・・・・・180P
〇本日のおすすめ『雪花氷』・・・200P
●紅茶・・・・・・・・・・・・・80P
●コーヒー・・・・・・・・・・・80P
●ミルク・・・・・・・・・・・・60P
メニュー名は独創性溢れる名前で一見しただけだとどんな甘味か分からない。
しかし、法則性があるため、常連にはどんな料理か想像がつくという、しかも本日のおすすめというのが毎日変わるため、何度も通いたくなる店だ。
ケーキというのが甘いパンの上に何かを載せたもの、紅茶やコーヒーとよく合う。
タルトというのは大きなクッキーの中に果物を詰めて焼いたもの。
胡麻団子と月餅というのは中に黒くて甘いアンというものが入ったもの。
アイスクリームは最初に食べた不思議な冷たい甘味だ。
かき氷というのは細かく砕いた氷と甘いソースを一緒に食べるものだ。
ところで本日のおすすめ、これはなんだろう。
初めて見るものだ。
これを注文することにしよう。
卓上の鈴を鳴らす、すると給仕がやってくるという仕組みだ。
本当に面白いことを考える。
給仕の服装も見たことのない独特のものだ。
「ご注文はお決まりでしょうか」
「本日のおすすめと紅茶を頼む」
「かしこまりました。本日のおすすめと紅茶ですね。ただ今お持ちいたします」
接客も普通の街にある食事処とは一線を画す。
貴族、とまではいかないが、それなりの者から教育を受けたような動きだ。
しばらくして、出てきたのはかき氷のようなそうでないような不思議なものだった。
一見するとかき氷のようだが、氷でなくアイスクリームのような色である。
その上に果物のソースをかけてあるのだが、これがまた綺麗で、食べるのが勿体無いと思ってしまった。
とりあえず、一口。
……旨い!
かき氷とアイスを合わせたような味わいに果物ソースの味が加算され未知の口福だ。
薄く削られたバニラアイスが口の中でホロリとほどけて甘味だけ残して消える。
さらに控えめな甘さの果物ソースが適度な酸味と別種の甘みで口直しをする。
この儚くも薄いアイスと果物のソースならいくらでも食べられそうだ。
固いアイスを削ったかき氷と果物のソースを組み合わせるなんて発想がどこから来るのか本当に不思議だ。
様子を見に来るだけだったが、確かにこれなら毎日でも入り浸りたくなる。
気がつけばあっという間に平らげてしまっていた。
それにしても繁盛している。
私は席を立った、いつまでもいても邪魔になるだろう。
ついでにお土産も買って帰ろう。
今日はいい日だった。
変装までしてお忍びで来た甲斐があったというものだ。
おまけに会計の時、会員になると次回の会計が安くなるというので思わず入会してしまった。
失効するという1ヶ月以内にまた来よう。
本当に今日がいい一日で良かった。
お土産も喜ばれるだろうし……
しかし、仕事をほったらかして街に遊びに出かけていた男の前に待っていたのは……
修羅であった………合掌!
次回…オマケ^^
ちなみに1Pは5円くらいの価値です。
独占市場だから強気な値段ですね^^;
ちなみに会員割引で常連が増える方式を採用してます。




