(15)新生活は新たな発見の場みたいです
暗いのキライ!
なんで前話で表に出すかなぁ、この子…
暗いまま終わるのが嫌だったから連続で2話目掲載!
今日から美幼女とひとつ屋根の下で暮らすことになった6歳児(但し精神年齢20歳超え)です……
爆発しないといけないでしょうかね……
なんか、いつの間にかシャルちゃん専用のお部屋の準備まで整えられていて…
しかも、何故か僕の部屋の隣に…
あそこ、昨日までドレスルームだったと思ったんだけど…
母さまのドレスなんか、どこに移動したんだろう。
いつの間にかベッドも調度品も完備されてるんだけど……
1日やちょっとじゃここまでできないよねぇ。
ねぇ、本当にいつから準備していたの?
「ここがシャルナちゃんのお部屋ね、何か足りないものがあったら遠慮なく言ってね。お付きの子は明日紹介するわね。あと、それ以外に困ったことがあったら隣の部屋にディルがいるから、添い寝でもお菓子作りでも、好きに使っていいわよぉ」
母さま、僕を売る気ですか!
まぁシャルちゃんのために何かするのはいいけど…添い寝以外で…
「はい!わかりました」
「いいお返事ねぇ、あんまり可愛いから今日は一緒に寝ちゃおうかしら」
わかっちゃうんだ……
それと母さま、今日も、ですよ。
「ディルも一緒に寝てもいいわよ、ほら、両手に花よ」
「お願いですから、勘弁してください!」
どうして僕はあの時、家庭内ヒエラルキーが上がるチートを選ばなかったんだろう…
幸せって、なんだっけ?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
そうして数日が過ぎた。
僕はシャルちゃんと一緒に屋敷に残ることになったリッド副長に稽古を付けて貰っている。
副長たち護衛の人達は使用人用の空室を充てがわれたみたいだけど…あそこってすぐ使えたっけ?
どうも、かなり前から周到に準備されていたように思える……
知らぬは僕ばかりなり、って感じだろうか。
「集中しないと危ないですよ」
うわっっと! 今のは危なかった。
副長の槍の一撃を逸したと思ったら、いつの間にかもう一撃が目の前に来ていた。
二連突きってやつだろうか…突きの速度が早すぎる。
模擬戦用の槍とは言え当たったらかなり痛い。
お返しとばかりに僕は相手に向かって斧先を叩きつける、と見せかけて槍先で突こうとする。
「甘いですよ」
突きに合わせるように副長も突いてきたと思ったら武器が弾き飛ばされていた。
僕の手から離れて真横に投げ出される武器。
目の前に差し出されている穂先。
どう見ても、勝負が決まっていた…
「う~ん、斧槍の多彩な攻撃法を活かしていたのはお見事ですけど…視線でフェイントの仕方がバレバレなんですよ。駆け引きの手管と技量が噛み合わないって普通は逆なんですけどね…」
「…参りました。もう一回お願いします」
「休憩にしましょう。さすがに私も少し疲れました」
そういえば、かなりの時間やっていたな。
手加減すると神経を使うって言うし、精神的疲労はかなり大きかったみたいだ。
ただ全力を出せばいいだけの僕よりはよっぽど疲れるんだろうな…
まだまだ実力差は大きいな。
「ところで、そろそろ専用の武器を決めてもいいかもしれませんね」
「武器…ですか?」
「えぇ、本来は武器の資質を見て決めていこうと思ったのですが、どの武器も十分以上に使えるみたいですし、これから習熟するための自分の武器は選び放題ですよ」
「どれもこれもでは、いけないんでしょうか?」
「最初はあまりオススメしません。武器によって使い勝手や駆け引きの仕方なんかも違ってきますし、なにより1つの武器を極めないとただの器用貧乏になりますからね」
耳が痛いな…確かに万能にしたせいで器用貧乏な感じはしていたんだけど、そのまま指摘されるのは、やっぱり心に刺さるものがあるな。
「なら、剣がいいでしょうか?」
「なるほど…、ではまずは実戦で試してみましょうか?」
「実戦…ですか?」
なんだ、実戦って?
まさか本気で殺しあえ、とか言わないでしょうね…
「自警団や狩人、傭兵なんかが野外で魔物を狩る事があるのでそれをやってみましょうか」
「そういうのって冒険者がよくやるような仕事でしょうか」
「冒険者…? あぁ遺跡探索者のことですね、最近はそう自称する人が増えてると聞いてますが…確かに彼らもヒマなときはそういうので生計を立ててたりするそうですが、彼らは基本的に遺跡や洞窟の探索が主ですね」
この世界の冒険者…いや遺跡探索者というのか…はダンジョン専門みたいだ…
「野外にいる魔物は専門外って事ですか?」
「そうですね、基本的に野外の魔物に対しては狩人が素材集めに、あとは隊商の護衛の傭兵が自主訓練に、自警団が危険対処に狩る程度ですね」
魔物の討伐依頼って無いんだ…自警団が危険対処するって事だと大物は辛かったりするんじゃないのかな?
「それって危険だったりするんでしょうか? 大物とか…」
「戦闘行為になりますから、絶対安全とは言えませんが、都市の周辺は大したものはいませんから、そこまでの腕があるなら大丈夫ですよ、私も付いていきますから」
詳しく聞いたところ、たまに兵士も巡回に出てるそうなので大物はまず出ないんだそうだ。
こんな話をしてれば出るのがお約束だと思うんだけど…出るかな?
「まぁ、それなら安心ですね」
「まずは公爵様へ、武器の入手と都外に出る許可をもらわないといけませんね」
「え、兵士や自警団の方じゃなくてですか?」
「子供が武器を持つのに親の許可は必要ですよ」
「あ……」
常識だった。
常識すぎるくらい当たり前のことだった…
確かに大人の許可無く子供に武器を持たせるとか、ないわ~
「では、聞きに行きましょうか」
父さまに許可をもらうため部屋を訪れると…白い壁がありました…
「失礼しました」
退室して、無言になる僕と副長…
「無理…ですね…」
「ですね…」
部屋の中には、山と積まれた書類! 書類の塔がいくつも立っていました。
あの仕事してる父さまに時間とって、とか無理。
仕事が大変とは知っていたけど、あんなに量があるとは知らなかった。
現実に書類タワーを見ることになろうとは……
「ところで、どうしましょう?」
「そうですね……とりあえず、今日はやめましょう」
いきなり詰まった。
専用武器にちょっとワクワクしていたけどアレを見て時間を取らせる真似はさすがにできない。
期待していただけに悔しい。
「ディルくん、みーつけた♪」
「え? シャルちゃん?」
「ちょうどよかった、きてきて~♪」
最近、シャルちゃんは絶好調で、僕の腕をどこかに引っ張っていくことが多くなった。
屋敷の中を探検して面白いものがあると、僕を探しに来るのだ。
今度は何を見つけたんだろう。
「ちょっと、シャルちゃん、痛いよ」
いつもより引っ張る力が強いなぁ、今日はどこに連れて行かれるんだろう…
向かった先は……厨房?
「おぅ、坊に姫様か、いいところに来たなぁ」
「ちょっと待ちなさい、話は終わってませんよ!」
なんだろう、地面に座らされているハンスさんと…怒った様子のエレナさん…が叱ってるようにしか見えない…
「いやな、メザリアの珍しい食材が入荷したんで、試しに買ってきたんだが…」
「どこが食材ですか! こんな種ばっかり大きくて、身が少ないのに!」
「だから、これを絞ればいい油が取れるんだそうだ」
「だったらこんなに量を買う必要はないでしょうが! 大体、これは香油として使うものだって言うじゃないですか!」
どうやら食べられない食材を買ったことを怒られているみたい。
一体どんな食材なんだろう?
あれ? どこかで見たような…
「おまけに美味しくないじゃないですか!」
「いや、俺の直感がこれは極上の食材だと言っているんだ、だから食べ方を調べようとだな…」
「だからって、この量は…どれだけ使うつもりなんですか!」
「エレナもハンスもけんかは、ダメ~」
シャルちゃんにまで怒られてる。
二人とも、僕らが来てること、忘れてないよね?
「あ、ごめんなさい「すまんかった」」
…忘れてたな…
「ところで絞った油っていうのはあるの?」
「あ、あぁ。そこの皿にある茶色いのがそうだ」
あれ?この匂いって…もしかして…
「ディル様! 何を舐めてるんですか!」
「うん、やっぱりそうだ」
「坊? どうした?」
これは間違いなくアレだ。
ということは、あんなのやらこんなのやら色々作れるぞ!
これはちょっと楽しくなってきたかも……
そんな僕をシャルちゃんは期待するように見ていた。
もしや、コレ引き合わせたのってシャルちゃんの無意識の食欲だったり…?
次回、甘味、波及、クッキング!




