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花染め屋の四季彩〜森に隠れ住む魔法使いは魔法の花の力で依頼を解決する〜  作者: 花房いちご
第六章 秋薔薇は復讐の真紅

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秋薔薇は復讐の真紅 七話

 ティリアは、【踊り子】が広間にいる誰かを暗殺するのだと思った。巻き込まれないよう警戒したが……すぐに見惚れてしまった。


 【踊り子】の【炎のベールの舞い】は、それほど素晴らしいものだった。


 まず、シャンデリアの明かりが弱まった。広間全体が薄暗くなり、演壇に立つ【踊り子】の輝かしさが際立つ。


ーーーシャラララン シャンッ シャンッ シャンッ ーーー


 妙なる調べが流れ、【踊り子】は白い腕を伸ばし、ゆっくりと全身をゆらすようにして舞いだした。

 そして、艶やかな唇に笑みが浮かぶ。赤薔薇の蕾が綻ぶように唇が開き、のびやかな歌声が滑り出た。


 ーーーさあ、歌い踊れ。太陽は沈んだ。夜空では星月が輝き、地上では焚火が燃えるーーー


 歌声は高く低く。楽団の調べと共に広間を包む。蜜のように甘やかでありながら、苦い憂いを宿すこえだった。歳を重ねて深い味わいを得た美酒の如く、聴く者を酔わせていく。

 【踊り子】は朗々と歌いながら、舞い踊る動きを大きくしていった。


 ーーーさあ、歌い踊れ。今宵限りの宴を開こう。歌え歌え火の粉たち。踊れ踊れ火の精よ【炎のベール】を纏って踊れーーー


 魔法の詠唱を混ぜた歌によって、【真紅の腕(しんくのかいな)】が発動する。

 ボウッ!音を立てて真紅色の炎が現れ、ベールのように【踊り子】の周りでひらめいた。


「あの腕輪は魔道具か!」


「まさしく炎のベールだわ!」


 広間中がどよめき、驚きの声が上がる。

 【踊り子】はその声を聞いているのかいないのか、微かな笑みを浮かべ踊り続ける。

 速く激しくなっていく動きに合わせ、炎のベールと黄金色の髪が舞う。

 炎のベールは薄布のごとく軽やかに、命あるがごとく生き生きと。金髪はその光を受け落日のように、肌は熟れた果実の如く艶かしく輝く。


 ーーー曙が夜を焼くまで歌い踊れ。歌え歌え火の粉たち。踊れ踊れ火の精よ【炎のベール】よ。(ゴースト)を祓い闇を焦がせーーー


 炎のベールが一つ、二つ、三つと増えていく。【踊り子】の金髪と、いや伸びやかに舞う全身と絡み合うようにひらめく。

 七枚まで増えたところで、曲と【踊り子】の動きが速く激しくなる。


 舞台を縦横無尽に舞い踊り、炎の輝きを辺りに振り撒いた。


 ーーー歌え歌え火の粉たち。踊れ踊れ火の精よ。炎の薔薇を咲き乱れよーーー


 【踊り子】の歌と共に、炎のベールが薔薇の形を作った。


「うおおっ!」


「素晴らしい!」


 広間中が大きく湧いた。誰かが始めた曲に合わせた手拍子がどんどんと大きくなり、音のうねりとなって【踊り子】を促す。

【踊り子】は舞い踊り、炎の薔薇も七つのベールに戻る。再び炎の薔薇が咲き、また踊り出し……。

 誰もが見入り、夢中になっていた。

 ティリアも魅入った。これほど美しい舞は見たことがない。

 一瞬のようであり、永遠のようでもある一時だった。


(このままずっと見ていたい……)


 しかし、どんな演目にも終わりが来る。【踊り子】の動きと曲が同時に終わり、炎のベールも全て消えた。終わったのだ。


 わずかな沈黙ののち、万雷の拍手が響いた。

 ティリアも手を叩く。


「すごかったですね!お父さ……」


「うわあああああ!!!」


 拍手を引き裂くような叫び声がし、次いで何かが壊れる音がした。

 上座……フリジア王国王家とギース帝国の皇弟嫡男たちがいる方向からだ。


「貴様ぁ!生きていたのか!この化け物めが!殺してやる!」


 薄暗くて良く見えないが、誰かが叫びながら駆け出した。【踊り子】めがけて走って行く。


「やめろ!何をしている!戻れ!」


「武器を持ってるぞ!誰か止めろ!」


 辺りに悲鳴と怒号が響き、壁際に控えていた近衛騎士たちが走る。

 異常事態だ。ティリアは立ち上がり、ネックレスに魔力を込めながら駆け出そうとした。


「風よ!我が刃に……!」


「光よ。我が敵から我を隠し守護せよ。【結界】」


 しかし【おじ様】の方が動きも詠唱も早かった。おじ様はティリアの腕を掴み、不可視の結界を発動させた。


「駄目だ。動くな」


「でも!【踊り子】様が!」


「もう遅い」


「キャアアアアア!!!」


 悲痛な叫び声と何かが叩き付けられるような音。


「【踊り子】様!離して!【踊り子】様が……え?」


 ティリアは【おじ様】の手を振り払おうとしたが、行手を阻むように現れた人物に固まる。


「貴方は……」


「やっと迎えに来たか。さっさと案内しろ」


 その人物は無言で微笑み、ティリアたちを広間の外へと誘った。

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