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花染め屋の四季彩〜森に隠れ住む魔法使いは魔法の花の力で依頼を解決する〜  作者: 花房いちご
第五章 追憶と誓いの紫

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追憶と誓いの紫 四話

 ジェドは速やかに【結界結晶(バリアライト)】を発動させ、ティリアと共に野営の準備をした。


 ジェドはグインに言われた通り、警戒を怠らないつもりだ。とはいえ、結界の範囲は川を含む広範囲だし、寝る時は堅牢な馬車の中だ。食料も充分ある。


(それに、召集されるのはクソ親父だけじゃない。二日もかからず帰ってくるさ)


 ジェドはやや楽観視していた。一方、ティリアは意気込んでいた。


『ジェドくんの足を引っ張らないよう頑張るね!』


 健気である。うっかりまた抱きしめたくなったジェドだが、なんとか耐えた。


『あ、ありがとう。じゃあ、一緒に夕飯を作ろうか』


 ジェドが獲った花尾鳥(はなおどり)と茸のシチューを作ることになった。


『俺はかまどを組んで火をおこすから、鍋を出して材料を切って欲しい』


『うん!任せて!』


 ティリアはにこにこと笑って鳥肉と茸を一口大に切り、鍋に入れていく。

 手際がいい。つい最近まで、野営での料理の仕方がわからず手こずっていたのに。


(ティリアはすごいな。あっという間に色々できるようになった。親父は『ずっと閉じ込められていた反動で成長が早い』って言っていたな。それに)


『ジェドくん、昨日のおじ様に頂いた黄金芋(おうごんいも)も入れていい?』


『え?あの農家のおじさんからもらってたの?』


『うん。こんなに頂いたの!』


 それに、ティリアは人と話すのが上手い。

 旅の間、出来るだけ人と関わらないようにしていた。だがティリアは、わずかな機会を得ると積極的に会話して好感を得て、得をしたり情報を引き出していた。

 グインいわく、天性の聞き上手らしい。

 確かにそうだろう。


『グインさんも食べて大丈夫だって言ってた。食べてみたいの』


『なら焼き芋にしようか。時間がかかるけど、その方が甘くて美味くなるよ。かまどの灰か地面の下に埋めればいい』


『これで火が通るの?面白いね』


『コツがいるんだ。それに、まんべんなく火が通るように気をつけないといけない。こうやって……』


 ティリアは、今もキラキラした新緑色の目でジェドの話を聞いている。

 好奇心がいっぱいで話好きで優しい子。きっと、フリジア王国の市井での暮らしにも馴染めるだろう。

 ジェドが居なくても大丈夫だろう。だけど。


『ジェドくん、教えてくれてありがとう』


『……どういたしまして』


 やはり、この笑顔とは離れ難い。

 離れないためには王家の配下である【劇団員】にならなければならない。

 ジェドの目指す、自由な冒険者の道を諦めて。


(自由な冒険者でいるか、不自由な王家の犬になるか……。どうするか……)


 グインの言葉が蘇る。


『自由とティリア(あの子)のどちらを選ぶか。そしてお前がどう生きていくか。よく考えて決めろ』


(俺がどう生きるか……。【劇団員】になるならいっそ冒険者を辞めるか?……そもそも俺は何で冒険者になりたかったんだろうか?自由になりたいから?冒険者じゃなくたってそう生きれるのに?)


 ジェドは密かに悩み続けた。


 ◆◆◆◆◆


 ジェドとティリアの野営がはじまり三日過ぎた。

 結界の範囲内なら動いても大丈夫なので、毎日二人で森の中を探検した。

 森の中は豊かで、魔法植物や薬草が次から次へと見つかる。


(あれ?この辺りって、こんなに豊かだったかな?魔獣が少ない割に魔法植物が多い)


 ジェドが首を傾げていると、ティリアが歓声を上げた。


『わあ!あれって【蝋燭雛菊(キャンドルデイジー)】だよね?咲いているところを初めて見たよ!』


 指差す方向に、夕焼け色の雛菊に似た魔法植物が幾つも咲いていた。ティリアは染魔(せんま)の一族なだけあって魔法植物に詳しい。ジェドは教えてもらう側になった。


『名前だけしか知らない。確か、割と危険な魔法植物だよね?』


『うん。火の玉をだすから危ないんだよ』


『もっと詳しく教えてくれ。属性と特徴が分かれば、採取の方法を考えられる』


『うん!』


 こんな風にして、ジェドとティリアはグインを待った。

 ジェドの持つ【魔法の保存箱】があっという間にいっぱいになっていく。


 晩御飯の後、馬車の中に入る。ランプの灯りの元、ティリアと今日の戦果を眺めた。


『整理しないとな。料理に使える物は使って……これは干しておけば馬車の中でもいいな』


 染魔していない【魔法の保存箱】なので、【老化停止】の魔法はかかっていない。それでも中に入れれば多少は日持ちするので、つい入れ過ぎてしまうのだ。


『金を貯めて染魔……花染めてもらうのが目標なんだ』


『だったら私が染めていい?』


『え?ティリアが?』


『うん。何回も花染めた事があるから大丈夫』


 【魔法の保存箱】の染魔は高価だ。

 理由は二つある。

 希少な時間属性の魔法植物【長老紫苑(エルダーアスター)】で染魔しなければならないためと、他の魔法植物での染魔より難易度が高いためだ。


(親父は『見つけようとして見つけられ無いことはない。むしろ難易度のせいで高額だ』って言ってたな。染魔の一族でも一握りしか染められないって……)


 考えていると、ティリアが頬を染めて目を伏せた。


『……【長老紫苑】を見つけないと駄目だけど……ジェドくんには沢山お世話になってるから、お礼がしたくて……』


 気にしなくていいと言いつつ、嬉しいやら照れるやら。顔がニヤけるジェドだった。


『じゃあ、もし見つかったら頼む』


『うん。約束だよ』


 ◆◆◆◆◆


 とても楽しく過ごしてはいたが、ジェドはじわじわと不安になっていった。


(もう三日経ったのに、親父が帰ってこない。【魔法の伝書鳥(レターバード)】すら来ない)


 グインの身に何かあったかもしれない。

 この辺りは国境に近く街道も整備されている。森の恵みも豊かだ。

 銀級(シルバーランク)以上の冒険者たちの数が足りないということもないだろう。

 なのに帰って来ないということは、正体不明の魔獣がよほど厄介なのかもしれない。


『ジェドくん』


 気づけばティリアが寄り添い、ジェドの手にそっと触れていた。今は夜で、やはり馬車の中で魔法植物と薬草の仕分け中だった。


『ごめん。ぼーっとしてた』


『……私に出来ることは少ないと思うけど、手伝えることがあったら言ってね』


 ティリアは少しだけ寂しそうな顔で微笑む。


(ティリアを不安にさせないために黙っているつもりだったけど……黙っていた方が心配をかけそうだ)


『ティリアには沢山出来ることがあるし、手伝ってもらっているよ。……ごめん。クソ親父の戻りが遅いのが気になってただけなんだ。何もないとは思うんだけど……』


『そっか。家族だから心配なんだね』


『違っ……』


 心配なんかしていないと言おうとして口をつぐむ。ティリアはとても切ない顔で何処か遠くを見ていた。


『ひいお婆様も、本当の家族は大事に思いあうものだって言ってた。私にはいなかったけど……いいなあ……』


『ティリア……。君のひいお婆様は、君を大切に思ってたよ。旅立つ前、俺たちを呼び出して声をかけてくれたんだ。『あの子をお願いします。やっと助けることが出来た大切なひ孫なんです』って』


 ティリアの目に輝きが戻った。


『ひいお婆様……』


『それに、ティリアにはこれからがある!新しい家族も友達もいくらでも作れるよ!』


 新緑色の輝きがさらに増した。


(俺も、その中の一人になりたい)


 ジェドの心は固まりつつあった。


 ◆◆◆◆◆


 四日目の朝、異変が起きた。


『ギギギ……ギイィ……』


 馬車の中。外からの異様な気配と音にジェドは飛び起きる。


(……なんだ?これは……?)

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