#042 夕方の女子会
遅くなり申し訳ありません。
「「「今日はお疲れ様でした!」」」
私こと永田璃子は授業参観のお疲れ様会としてファミレスに来ています。
お疲れ様会と言っても幼稚園の先生のほとんどが集まってというものではなく、仲の良いメンバーで集まって少し早めの夕食会みたいなものです。ですのでメンバーはプライベートでも仲良くさせてもらっているこのお二人。
「ぷはぁーーーっ!」
グラスを片手に良い飲みっぷりな女性は楽間実来。
ちなみに飲んでいるのはお酒じゃなくてフリードリンクの炭酸ジュースです。……ですよね?
ミク先生はひょんなことからカメラを手にするようになり、幼稚園でも撮影班として大活躍しておられます。
最近の悩みはせっかく貯めた結婚資金がカメラに溶けていくことだそうです。値段を聞いたときはあまりの金額に言葉を失ってしまいました。
背が低いことを気にされてはいますが、そのおかげか園児たちとの距離が近く、早く仲良くなれるので少し羨ましく思います。ですがそれを口にするとミク先生が私のその……、む、胸を触りながら不機嫌になられるので絶対に言いません。言いませんよ?
「ぷはぁーーーっ!」
もう一人はきく組の副担任をされている坂柳愛衣です。
お二人とも、本当にお酒じゃないですよね?
アイ先生は私の一年先輩で、こげ茶色のショートボブのクールな女性という感じでかっこいいです。私には出せそうにない雰囲気ですね。
年が近いこともあり、何かと同じ境遇となることが多く仲良くさせてもらっています。
「ほんと疲れたぁ……」
性格はサバサバしていて後輩の私にもフランクに話しかけてくれる方で、子どもたち――特に男の子から人気があります。
そんなアイ先生ですが。
「もう私、先生辞める……」
「また言ってるよ……」
……何度目でしょうか。こうやって三人だけで集まると、よく「辞めたい」と口にされます。
ミク先生も慣れたもので、軽く流しながら「まぁまぁ」と慰めています。
確かに幼稚園の先生は想像以上に激務です。子どもたちのお世話以外にも保護者や近隣への対応だったり、軽い設備の点検や整備、授業で使う道具の補充等々。
やることが多い上に人と接するお仕事のため、なんだかんだとストレスが溜まります。女性が多い職場ですし。
「もう親御さんの視線が怖い……」
アイ先生は授業参観でだいぶ苦労されたみたいです。
「きく組、何かあったんですか?」
「子ども同士が喧嘩しちゃって……。そこから親御さんたちがピリピリしちゃって。泣き出す子もいて……」
「「…………」」
授業参観の後、幼稚園での反省会でさらっと触れましたが、そんなことになっていたとは……。
ミク先生もなんと言葉を掛ければいいのかわからない様子。とりあえず甘いものでも食べて元気を出してください。
「……ばら組はどうだったの?」
「大変でしたが特にこれと言って……。親の目があるのでみんなそわそわしてましたが、普段とそう変わらない様子だったかと……」
「やっぱり例の男の子?」
「はい」
私も朝はハラハラドキドキしましたが、彼が来てからはもう何というか。
幼稚園の先生、特に年少さんに関わっている先生の中で彼はすでに有名人です。素直で賢くて面倒見も良くて。
「マコトくん、うちのクラスにちょーだいよー」
マコトくんがいないばら組。ジュンちゃんやヒロくん、タクヤくんのような子が野放しに……。考えただけでも怖ろしいです……。あ、いえ、でも他のクラスはそれが普通なんですよね。
「来年はマコトくんのクラスに……」
陽ノ森幼稚園では年少さんを受け持つと、そのまま一緒に上の学年に上がります。副担任も同様に。なので来年、アイ先生も私も年中さんを受け持つことになります。
もちろんクラス替えもあります。
クラス編成は年少組での生活を見て、リーダー的存在になれる子を中心に、子ども同士の相性だったり、誕生日、あとは親御さん同士の相性を考慮してクラス編成を行います。
そのため来年も私がマコトくんがいるクラスを持てるかどうかは、学年主任の裁量に任されることになるのですが……。主任に菓子折りでも持って行った方が良いのでしょうか。
独身女性が三人集まると、話題はやはりこの話になります。
かっこいいパパさんがいたとかなんとか。
幼稚園の先生はモテるとかなんとか聞きますが、全然そんなことありません。
平日はお仕事で大変ですし、休日だって準備やら何やらで半分仕事をしているような状態。
遊びに行こうにも親御さんからの評判があるので下手なことはできません。ちょっとした芸能人状態ですよね。
「そういえばミクせんせーはメグロせんせーとどうなんですか?」
「えっ!?」
「なんだかんだで一緒にいること多いですよね?」
主に年中組の撮影班として活躍されている目黒龍平。
カメラが大好きで、休日は専らカメ活。独身で彼女はいないと聞いています。
「まだ若いし独身だし、細身だけど結構カッコいいし、結構お母さま方から人気ありますよー?」
「そ、そうなんだ……」
「子どもたちの写真撮るのも上手いから、評判もなかなかですね」
「へ、へぇ~~」
「他の先生からもなんだかんだで人気ですからねー。狙ってる先生も少なくないかもですよ?」
「…………」
ミク先生は隠しているようですが、その想いをここにいるメンバーで知らない人はいません。
「……アイ先生もなんですか?」
「いやー、私はやっぱり消防士狙いかなー。あの逞しい筋肉に抱かれたい……」
「「…………」」
アイ先生はそう言って自分で自分を抱きしめます。
幼稚園の行事で消防訓練。子どもたちは1日だけのイベントですが、先生は何度も打ち合わせやシミュレーションを行い、何度かお会いする機会があります。
消防士さん。鍛えてらっしゃいますし、優しそうな方が多く素敵だと思います。
「で、リコせんせーはどうなんですか?」
「えっ、私ですか?」
アイ先生がニヤニヤと。
お母さんからも「いい人いた?」ってよく聞かれますが……。
今は学ぶことが多くてそういったことは……
「う~ん……、私はそういったのはまだいいかなと……」
「リコ先生、行き遅れますよ?」
「うんうん、あっという間に30目前ですよ?」
「あの……」
やけに真面目な顔をされる先輩方。
アイ先生の口調も「せんせー」ではなく「先生」です。
「もしかして子どもが好きだったり? リコ先生はマコトくんをよく見てますよね?」
「リコせんせー、それはマズいってー。せめて卒園してからね?」
「そんなんじゃないです!」
マコトくんを見ているのは……彼の行動からは学べるものも多いですし、視線の先には注意しないといけないものが多かったりするので……。
よく言うことは聞いてくれますし、いい子ではありますよ?
お母さまとも非常に仲がよろしくて理想の親子です。
それに何と言っても、マコトくんにはスズカちゃんがいますしね。
スズカちゃんのアピールが強すぎて見落としがちですが、マコトくんもスズカちゃんへの特別扱いは凄いですからね。
あのラブラブぶりに勝てる人なんているのでしょうか。
「えっと……真剣に考えてる?」
「違います!」
読んでいただきありがとうございます。
すでにそうなっていますが、幼稚園の話作りが難しく少し更新ペースを落とさせていただきたく…。
早く幼稚園を終わらせてという旨のコメントもいただきますが、あくまで自然な流れで物語は進めていくつもりなのでご了承ください。




