#162 りそうのだんなさん
長くなったので分割したら、今度は短くなりすぎました。
お弁当を食べ、十二分にエネルギーを補給をした子どもたち。
午後からの行動を開始するため、先生の指示の元、テキパキとお弁当箱やレジャーシートのお片付けをして、いざ出発――の前に。
「……まーくん」
「また後でね?」
「…………」
「……あと二時間ちょっとだから、頑張ろ。ほら、シホちゃんたちも待ってるよ」
「……ん」
眉尻を下げ、補給不足を訴えるスズカ。
マコトもしょうがないなぁといった様子で、最後にぎゅっと強めのハグをして、二人はそれぞれのクラスへと別れていく。
陽ノ森幼稚園では、もはや当たり前の光景だ。
例え幼稚園の外でも揺るぎはない。
物心がつき始め、そして色恋を知り始めた友人たち(主に男子)からのからかいの声もあった。
だがそんな男子たちも、マセた女子には勝てない。
いつだってどこだって、学校の流行は女子が作るもの。例え男子が作っていても、そこには女子の陰があるというもの。
両親を見て、結婚を知り、愛人を知る妙に現実主義な考えを見せる女児たちにとっては、勉強も運動も得意な人気者にも関わらず、常にスズカを特別扱いしているマコトの姿は、絵本の中の王子様よりも王子様に映る。
「すーちゃん、いいなー」
「ん、すーはまーくんだいすき。まーくんもすーがだいすき。そうしそうあい」
「あたしもマコトくんみたいなだんなさんできるかなぁ……?」
「ん。おとこはおんながそだてて、りそうのおとこになる、ってママいってた。こっこもがんばってそだてる」
「でもそれって、だれでもよくないんだよね? ”そしつ”がたいじなんでしょ?」
「ん、そう。そこがむずかしい。みきわめるめをやしなうひつようがある」
「すーちゃんもこっこも、またむずかしいおはなししてる?」
「しーちゃんもがんばる。いいおとこは、はやいものがち」
「うん! シホもがんばるね!」
そんな会話をする年中女児に、ドロケイのことばかり考えている男子が勝てるはずもない。
からかえば反撃される。精神年齢の差は非情である。
「シュンタ、ナナたちもぎゅってしよ?」
「えっ? あれって、マコトもスズカちゃんが、ちがうクラスだからやるんじゃないの?」
「ちがうよ! あいしあってるふたりならあーするの!」
「そーなんだ……」
スズカに促され、いち早く育て始めたナナ。
シュンタも頑張っているようだが、残念ながら彼はまだ五歳だ。女心は難しい。
「……むぅ。すーもまーくんとイチャイチャしたい」
そんな好きな人と一緒にいられる友人の姿を見て、羨ましいとスズカは口をとがらせる。
(……十分イチャイチャしてるよね?)
と心の中でツッコむのは、職業柄出会いが限られ、独り身となっているリコを始めとした幼稚園の先生たち。
傍から見れば、この二人以上にイチャついているカップルは、全世界を探しても中々いないような気はするのだが、重要なのは本人の気持ちである。
一方、我らが王子様、もといボスは――
「あ! マコト、くん! あのね――」
「――ミホシちゃん、いよいよペンギンさん観に行けるね。楽しみだね」
「うん! たのしみ!」
「そういえばハカセ、ペンギンってどんな動物?」
スズカを最優先に行動したことによる悪影響を最小限に抑えるため、奮闘していた。
経験の無さ故に恋愛関係には疎いのかもしれないが、様々な思惑がひしめく人間社会での立ち回り方は、少しばかり心得ているのである。
読んでいただきありがとうございます。
マコト、スズカに育てられている説
次話:2022/04/18 18:00更新予定




