#156 飾り付け
運動会の練習が無くなり、友人たちの有り余る元気さに振り回される日々が戻ってきた幼稚園から帰って来ると――
「それではすーちゃんとまーくんが帰ってきたので、お誕生日会! ……の飾りつけを開始しますっ!」
「おー」
ミオさんの掛け声に、僕の隣で両手を上げるスズカ。
スズカはきゃっきゃとはしゃぐタイプではないので分かり辛いかもしれないが、その瞳の輝きを見ればテンションが上がっているのは一目瞭然。
それにこの時間が待ち遠しくて、朝からそわそわとしていた。早く幼稚園から帰ってきたいがために、早く幼稚園に行こうとするくらいに。だが残念ながら幼稚園はフレックスタイム制度を導入していない。
時間も押しているので、僕たちは早速作業を開始する。
僕たちが幼稚園から帰って来る前に飾り付けを終えておくことも出来ただろうけど、スズカが妹たちのためにやりたがっているのだから、やらせてあげたいのが親心。
まぁ流石に家具を移動させてスペースの確保とか掃除とかの下準備は事前に済ませているけどね。今からゼロスタートは日が暮れてしまう。
そういう訳で、飾り付けリーダーのスズカが描いた設計図を元に、運動会の自宅練習の休憩中にコツコツと作った飾りを取り付ける。
本日有給休暇を取っている母上とミツヒサさんも一緒だ。
ミオさんは手伝ってくれないのか……と思うかもしれないが、飾りで遊ばれないように主役たちを引き留める大役がある。
「まーくんおんぶ」
「あいさー」
壁の少し高い位置に紙の輪っか紐を取り付けようと、僕におんぶを要求するスズカ。
もちろん僕がおんぶをする側だ。そこは譲れない。さすがに幼い女の子におんぶされるのは気が引けてしまう。例えスズカの方が年齢的にはお姉さんでも、背が高くても……
「ねぇすーちゃん? 飾りつけしないと……」
「そうだった」
僕の頭にあごを乗せて楽しんでいるところ悪いけど、おんぶで遊ぶのはまた後で。今は主役たちが待っている。
おんぶの目的を思い出したスズカは器用にバランスを取りながら、マスキングテープを千切って――
「まーくん、もうちょっとうえ」
「……ふんっ」
「もうちょっと」
「……すーちゃん、今の僕じゃ無理そう」
「む」
壁に頭を付きながら精一杯のつま先立ちをする僕の頭上で、口を尖らせているであろうスズカ。
当然というか何というか。幼稚園児が幼稚園児をおんぶしたところで、手が届く高さはたかが知れている。やる前から察してはいたが、それではスズカが納得しないだろうからね。チャレンジ精神は大切。人生トライアル&エラーの連続よ。
なのでここは出来る人を頼ろう。だから人脈って大切。
「……ミツヒサさん」
「よし出番だな。――よっと」
頼られたことに嬉しそうな、そして何となくどや顔をしているようにも見えるミツヒサさんは、僕の背中からそのままスズカを抱え上げる。
「パパもうちょっとした」
「了解」
……別に悔しくはない。成人男性と未就学男児を比べる方がどうかしているわけで……
「まーくん、こっち一緒に飾り付けしよっか」
「うん」
手持ち無沙汰になった僕は、母上と一緒に風船を膨らませたり、壁の下の方の飾りつけをする。こっちの飾りだって大切だよね。主役の視線に入って来るのはこっちだもん。
「まーくんの切絵は凄いね~」
「そう?」
「うん、この模様とかとっても綺麗。お母さんそんなに手先器用じゃないから羨ましいな~」
「ならまた今度作ってあげる」
「ほんと? ありがと~」
母上が楓と銀杏の葉をモチーフにした切絵の壁飾りを手にしながら、そんな嬉しいことを言ってくれる。
将来は切絵職人になってみるのもアリだろうか……?
「すーちゃん! まーくんがアカリとイチャイチャしてるよ!」
「む! すーもいちゃいちゃする! パパいそぐ!」
「いちゃいちゃって……、ねぇまーくん」
「……」
そうして戸塚親子が本気を出したことで、二十分もしないうちに飾りつけは完了した。
読んでいただきありがとうございます。
書く時間が…




