#012 入園式って憶えてる?
待ちに待った入園式。
僕たちは陽ノ森幼稚園にやってきた。
僕とスズカはお揃い柄の服。説明は不要だろう。あれだけ撮影していたのだから。
もちろん僕は半ズボンスーツだ。ワンピースではない。
もしワンピースだったら盛大にごねてただろうね。なりふり構わず。
幼稚園に行きたくないっ!って。30過ぎのオッサンが(中身の話)。
後ろには母上とミオさん。今日も相変わらずお綺麗です。
こちらもペアルック。僕らに合わせてグレーのカジュアルスーツ。母上がパンツルックでミオさんがスカート(タイトじゃないやつ)だ。
母上はスラっとカッコよく決めていて、ミオさんはふんわり上品に。
すごい似合ってる。モデルみたい。
ほら、他のお父様方の視線をチラチラと。
それはまずいって。子どもの晴れ舞台でよそのお母さんチラ見はまずいって! 分かるけど! バレてるよ!
そんなこんなで受付へ。
全部で3クラスある。
ここで僕の今後一年のモチベーションが決まる。
スズカと一緒のクラスになれますように!
まぁ幼稚園の年少組はできるだけ知り合い固めるらしいから、あんまり心配はしてなかった。
僕とスズカは同じクラスだ。うん、ほんと良かった。
ちなみにクラスは2組。通称ばら組。
このまま人生もバラ色に……いやすでにバラ色かもしれない。スズカかわいい。母上優しくて美人。
「入園、おめでとーございます」
「ありがとうございます」
「……しっかりされたお子さんですね~」
「ええ、自慢の息子ですから」
おっと調子に乗った。スズカと同じクラスになれて舞い上がっていたようだ。
母上たちは気にしていない?ようだが、もうちょっと年相応に……。
手続きを済ませると、母上に手をつながれ体育館へと案内された。
そして見たものは混沌。
そうだよね、みんな子どもだもんね。スズカが良い子すぎて忘れてた。
他の親子がたくさんいる。たぶん40組以上。
まだ入ってきていない親子もいるだろうから、もっと増える。
それだけの人数が、泣いて笑って走り回って。
そしてはしゃいでる大人が幾名か。まぁ若いからねぇ。
子どもたちもいっしょにはしゃいでるのが唯一救い。子どもが主役だぞ? わかってるよね?
親子が隣り合うように、1クラス2列に椅子が用意されているので、戸塚母娘と並んで座る。
「まーくんがとおい……」
親席の左側に子どもの椅子が置いてあるので、並んで座れば間に親を挟む。
母上の陰に隠れてしまった僕を、覗き込むようにしてスズカが言葉を漏らす。ちょっと困り顔。かわいすぎだろう?
「じゃあ席替えしよっか~」
「……勝手にやっちゃって大丈夫なの、ミオ?」
「大丈夫でしょ~。周りもやってるし、なんなら先生が椅子移動させてるんだから公認だよ~」
他の親子を見れば、椅子の位置を入れ替えるくらいなら問題なさそうだった。
母上が僕の椅子と位置を交換して、ミオさん、スズカ、僕、母上の順に並ぶ。
「まーくんがとなり!」
「すーちゃんは相変わらずまーくん好きねぇ」
「うん!」
ミオさんがスズカの頭を撫でながら言う。そこまではっきり言われるとさすがに照れる。むふぅ。
少し待っていると、入園式が始まる。始まるまで長かった。静かにならないもん。
そしてなんというか、やらなきゃいけないことなんだろうけど、やっぱり退屈ではあるんだよね。園長先生とか来賓の挨拶って。子どももいるからゆっくり話す必要があるし、ちょっと眠くなってきちゃった。
周りを見れば、親にだっこされてる子や寝てる子、泣いてる子、隣の子と遊んでる子と様々。
うん、こういう時はあれだよね。
スズカ見てればいいじゃん。
そう思って隣を見ると、スズカも僕の方を見ていた。そして目が合う。
「む、ふぅ……」
あぁ、これならあと一時間くらい話続いても全然問題ないや。むしろ続けてくれ。
静かに座ってられるスズカは、ミオさんにも僕にも抱きつき顔を隠すことが出来ないため、スッと視線をそらして口端をもにゅもにゅさせる。
最近ではミオさんから淑女としての教育?を受けているらしく、「むふぅ」してくれる回数が減ったからなぁ。ここぞという時に使えって。ちょっとその教育早急すぎない? 僕としてはもっと欲しいんだけど。
僕と視線が合ってはスズカが顔を逸らし隠れむふぅ。またスズカが視線を戻して……を繰り返していたら、いつの間にか話が終わってた。話早いな。残念。
そしてクラス担任の発表だ。
どのクラスもベテランと中堅に入る頃合いの若い先生が就いて2人体制。年少組の先生はいろいろ大変というからね。経験と体力のバランスを考えたのかな。
ばら組の先生は、ベテランの方が香坂成子先生。優しく微笑んでる。
若い方が永田璃子先生。ちょっと緊張気味。大丈夫ですよ、スズカはいい子です。
担任の紹介が終わると入園児も一緒に歌を歌う。
あぁ、最近やたらと戸塚家で歌の練習に付き合わされたのはこれだったのか……。
僕は……練習するまでもなかったよ。みんな知ってる歌だもん。むしろどうやって覚えるふりをするかで苦労した。そしてスズカの歌う姿が可愛かった。永久保存版。
思ったよりも早く終わった。時計見たら30分かかってない。
三歳児なんて集中力ないしそんなもんだよね。
前世では入園式の記憶って写真ぐらいでしかないんだけど、思ったよりもあっさりしてた。
多分これって子どもより親の方が覚えてるものなんだよねきっと。
あぁ、スズカがお利口に座ってる姿、可愛くてしょうがないんだけど。
読んでいただきありがとうございます。
気付いたらPVがすごいことに…。テキトーなノリで書けない…。
…今後ともよろしくお願いします。
次回⇒#013「友達」 2020/10/19 18:00更新予定




