#109 腹ペコ山登り
自然と戯れながら順調に登っていき、展望台まであともう一息。
「ユウマ、コタロウ、大丈夫か? 疲れてない?」
「……うん! ちょっとつかれちゃったけど、まだまだだいじょーぶだよ!」
「ぼくもへーき」
「どんぐりもたくさんひろったよ!」
「そりゃよかった」
「うん!」
はしゃぎまわることもなく、僕の近くで一定のペースで登ってきたユウマとコタロウが、ぱんぱんに膨らんだズボンのポケットを見せてくる。
少々不格好ではあるが、この年齢でかつ男の子ということもあってか、気にした様子もない。登山を存分に楽しんでいる。
「……で、どうしたジュン。大丈夫か……?」
特訓の成果を見せようと張り切っていたジュンであったが、ここまで来て急に大人しくなっていた。
それに加えて、辛そうにお腹を押さえている。
「辛いなら先生に――」
「――はらへった……」
心配して損した。
まぁ、そろそろお昼も近いしね。
あれだけ走り回ってればガス欠になるのも当然だろう。
「特訓の時はどうしてたんだ?」
「ばななたくさんたべた」
本当にこの子はどこに行こうとしているのか。
ガチ勢じゃん。
「じゅんしってるか? どんぐりってくえるんだぜ?」
「どんぐりってたべれるの?」
「……じゅるり」
「このおっきいやつたべる?」
「……なんかかたそう」
ちゃんと皮は剥け。
あと食うなら小さいやつにしろ。
シイの実ならそのままでもある程度は食えるはず……
……って、そうじゃない。
博士もジュンに妙な知識を披露するな。
ドングリを見つけた次の瞬間口の中とかもありえるんだから……
「……やめとけ」
収穫?したドングリをポケットから取り出し、腹ペコ娘に恵もうとする優しい友人たちをやんわり抑える。
「ほらジュン、あそこに着いたらお弁当の時間だから、それまで頑張れ」
「べんとーがおれをまっている……」
木々の隙間から見える展望台を指さす。
そこから十分、僕たちはとうとう頂上に辿り着く。
去年はここがゴールだったっけ。
展望台と、その周りには芝生の土手が広がっている。
転がされていたのも良い思い出だ。
後から写真で知った思い出だが。
「ついた!」
「……ごーる!」
「べんとー!!」
両腕を上げて、登り切った喜びを表す友人たち。
ちなみに年中組で一番最初に頂上に着いたのは、状況から見てローズレンジャー率いるきりん組。二番目はスズカやシホちゃんがいるひつじ組だろう。
我らがうさぎ組は三番目だ。誰が原因で遅れたということもなかったので、おそらく他の二クラスが速かっただけだろう。
「みんなよく頑張りました。ではお待ちかねのお弁当の時間です!」
「めしだ!」
「おなかぺこぺこ!」
「おべんとうたのしみ!」
アイ先生が子どもたちを先導し、クラスごとにかたまってレジャーシートを広げだす。
「……まことくん、……いっしょにたべていい?」
「うん、いいよ」
「……ありがとぅ」
「あっ! わたしもいっしょがいい」
「わたしゆうまくんのとなり!」
「あたしが!」
「わわっ!?」
仲良しメンバーであるユウマ、コタロウ、ジュンと一緒にいると、子どもたち――主に女の子が集まって来る。
この辺りの行動が男女で一番違うだろうか。女の子の方が行動的というか、群れを作りたがるというか。
こうやって鍛えられていくのかな。
激しい場所取り合戦になり始めたところで、じゃんけん大会を開いてどうにか状況を落ち着かせる。
腹ペコ娘よ、時間を食ってしまって何かごめん。
おしぼりで手を拭いて。アイ先生に倣って手を合わせ。
「いただきます!」
「「「いたーだきます!!」」」
元気いっぱい挨拶をして、各々持ってきたお弁当を食べ始める。
周りを見ると、サンドイッチ弁当が流行りのようだ。
僕のお弁当はもちろん母上の手作りだ。
プラスチックのシンプルなデザインのお弁当箱を開けると、おにぎり二つとミニトマトやブロッコリー、卵焼きやたこさんウインナー、ミートボールが所狭しと詰まっている。
母上、ありがとうございます。いただきます。
ユウマとコタロウも似たようなお弁当だった。
「じゅん、おべんとう2こある? 4こ?」
「いっぱいたべるね……」
「ん? ほうしふぁ? ほひいのふぁ?」
「ジュン、お行儀悪いよ」
少し小さめだが、男子高校生が使うような二段重ねのお弁当箱×2を広げ、計四つの入れ物がジュンの前に並ぶ。
相変わらずよく食べるやつだ。なのにぽっちゃりもしてないのは、その分動いているからだろうか。
昼食の時間が終わると、少しの休憩を挟み、移動を開始する。
向かったのは、展望台から十分ほど下りた先にある広場だ。
少しばかり気合の入ったアスレチック遊具が設置してある。
去年は素通りした場所だ。
「では、あの時計の短い針が2のところまで自由時間です!」
早く遊びたいと、子どもたちはうずうずしている。
ちゃんと先生の注意事項を聞いていたのか心配になってくる。
「はい、行ってよし!」
アイ先生が言い終わると同時に手をたたくと、一目散に遊具へと突進していく子どもたち。
飯食った後で良く動けるね。
個人的には天気も良いから、絶好のお昼寝日和なんだけど。
「あれっ、まことはあそばないの?」
「うん、ちょっとね……」
その場から動かない僕を、不思議そうに振り返るユウマ。
約束があるんだよね。
「――まーくん!」
「……やぁ、すーちゃん、朝ぶり」
遊具ではなく僕へと一直線に向かってきたスズカの突進を、後ずさりながら上手くいなす。もう慣れたもんよ。
「やっとまーくんとあそべる!」
「何して遊ぼうか?」
しおりに書いてあった自由時間。
クラス関係なく遊べる時間だから、一緒に遊ぼうと約束していた。
「すーちゃんまってぇ……」
スズカを追いかけてきたのは、シホちゃん……他多数。
「ぼすっ!」
「「「「「ろーずれんじゃーさんじょう!!」」」」」
呼んではないけどね。
元ばら組の子どもたちが集まって来た。
というか、ローズレンジャーは年少が終わったんだから解散なんだけどね。
ほら、実際の戦隊モノも一年で解散するじゃん?
「まことー! なにしてあそぶー?」
「たかおに?」
「どろけーやりたい!」
「かくれんぼがいい!」
「すもー!」
口々に意見を出してくる懐かしい面々。
真っ先に遊具に突進していったジュンも、焦った様子で戻ってきた。
「すーちゃん、どうしようか?」
「じゃあ、どろけーやる」
スズカの一声で、元ばら組および釣られて集まったその友人たちで、大規模な逃走劇が始まっ――
「まこと! じゃんけんがおわらないよ!?」
「「「あいこーで……」」
「……よしお前ら、ここからそっちにいる奴全員泥棒だ。――逃げろっ!」
「「「「「わぁーーー!」」」」」
「「「「「きゃーーー!」」」」」
始まった。
読んでいただきありがとうございます。
ちなみに皆様は、MBSラジオさんの「寺島惇太と三澤紗千香の小説家になろうnavi-2nd book-」はお聞きになられましたでしょうか?
光栄なことに、5月度の朗読で本作を取り上げてもらっております。そして気付けば次回が最後のようで…
地域が違ったり聞き逃された方、ラジオなんて…という方も、YouTubeの方にも(遅れてですが)アップされていますので、よろしければぜひ聞いてください。
パーソナリティのお二人のトークも面白いので、そちらもぜひ楽しんでいただけたらと思います。
以上、告知でした。




