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scene:82 コジローvs藤林

 俺たちは食料エリアへ行って、甲冑豚の肉とプチ芋、それにサトウキビを手に入れて戻ってくるという生活を繰り返していた。


 この頃には、武藤たちと弘樹たちも食料エリアから食料を持ち帰るようになったので、一週間に一度くらいの割合で行けば、東上町の食料は大丈夫なようになっていた。


 俺がメイカやコレチカと一緒に遊んでいると、美咲が来た。

「コジロー、お客さんよ」

「誰だ?」


「藤林よ。怖い顔をしていたの。何か気になるのよね」

「ふーん、まあいい。会ってくるよ」

 俺はメイカとコレチカを美咲に渡して外に出た。


「藤林さん、何の用です?」

「君と戦うために来た」

 答えが意外すぎて、意味が頭に入ってこない。


「聞こえなかったのか? 私は最強だということを証明するために、君と戦いたいんだ」

 こいつアホなの? こんな状況で最強だと証明したいだと。


「何を考えている? 人類が大変な時に、最強という称号に、何の意味があると言うんだ?」

「ふん、綺麗事だ。こんな状況になったからこそ、最強という称号に意味があるんだ」


 藤林の言葉に思い当たることがあった。頭の中に響く例の声である。レベルシステムは人間を強くするためにあるように思えたのだ。


 例の声は人間に強さを求めているのだろうか? そうだとすると、藤林が最強の称号を求めているのには、意味があるのだろうか?


「戦うと言っても、どうするんだ? 本当に命を賭けて戦うのか?」

「それは勘弁してやる。相手が降参するか、戦闘不能になれば勝ちだ」


 人間同士の戦いに意味があるとは思えなかったが、藤林の目を見れば本気なのが分かる。嫌だと言っても許さないという目だった。


 その時、竜崎が駆け込んできた。

「間に合ったか。良かった」

 藤林が不機嫌な顔を竜崎に向けた。


「私に用か?」

「この戦いを止めに来たのだ。馬鹿な真似はするな」

「最強を決める戦いだ。邪魔をするなら、君を排除するしかなくなるぞ」

 藤林は殺気が込められた目で竜崎を睨んだ。


 竜崎は止められないと悟ったらしい。

「いいだろう。自分が審判になってやる」

 俺が正式に返事をしていないのに、戦う方向で話が進んでいる。


 エレナが現れた。

「最強を決める戦い、とは何なのですか?」

 竜崎が説明した。話によれば、この戦いは御手洗市長が言い出したことらしい。余計なことを、と思いながら何とか中止できないか考えていると、美咲がリビングから出てきた。


「聞かせてもらったよ。コジロー、その馬鹿をコテンパンにしてやるといい。そうすれば、自分の実力を悟って、偉そうな態度ができなくなる」


「でも、危険だぞ」

「そう思うなら、棍棒と木刀で戦えばいい。それなら死なないはずだ」

 俺も藤林も筋力や体力が超人並みに上がっている。それに連れて身体も頑強になっているので、棒で打たれたくらいでは死なないということらしい。


 普通の人間の場合でいうと、竹刀で勝負しているような感じだろう。俺たちは小鬼区で勝負することにした。ここだと子供たちがいるので危険だと言うのだ。


 小鬼区へ行き、俺と藤林は棍棒と木刀を持って対峙する。

「すぐに勝負をつけてやろう」

 藤林は相当自信があるようだ。その自信の元は何だろう? 何か特別なスキルでも持っているのだろうか。


 先に藤林が動いた。普通に歩いて近付き木刀を振り抜いた。剣道の教科書にでも載っているような綺麗な袈裟斬りだった。


 俺はバックステップして躱す。鼻先を木刀の切っ先が風を切り裂いて通過していく。軽く振っているように見えたのに、その剣筋は寒気がするほど鋭利だった。


 藤林は『刀術』がレベルマックスになっているのかもしれない。俺の『刀術』はスキルレベル6で負けているようだが、『棍棒術』は同じレベルマックスだ。武術のスキルで負けるとは思えない。


 棍棒と木刀が激しい音を立てて打ち合わされ、反射的に距離を取る。その距離を藤林が瞬時に縮めて木刀を叩き込もうとする。河井が持っている『縮地術』かと思ったが、『素早さブースト』のようだ。


 藤林の攻撃スピードが上がった。それに合わせて、俺も『超速思考』と豪肢勁を使い始める。藤林は『筋力ブースト』も持っているらしい。


 高速で攻撃と防御を繰り広げる二人は、一瞬でも気を抜けない戦いを続ける。藤林の顔色が悪い。俺がここまで戦えるとは思っていなかったのだろう。


 豪肢勁を使い続けるうちに『小周天』から『大周天』に変わった効果が現れ始めた。俺の身体に満ちている気と外部にある未知のエネルギーが混ざり少量だが、神気が生まれたのだ。


 体内に生まれた神気は、俺の身体能力を飛躍的に上げた。スピードが増し力が強くなる。そればかりではない。藤林が次にどんな攻撃をするか、何となく分かるようになった。


 そのせいで藤林は追い詰められる。

「こんな棒きれで本気が出せるか!」

 そう叫んで、藤林が雷槍を取り出した。その雷槍で俺を串刺しにしようとする。


「待て、藤林。それは反則だ」

 竜崎が叫ぶ声が聞こえた。俺は必死で雷槍を受け流し、後方に跳ぶ。


「五月蝿い、最強は私だ。私がルールだ」

 あっ、言っちゃったよ。凄え、自分がルールだとか、自分が法律だっていう言葉を聞くことになるとは。俺はこの日を忘れないだろう。


 藤林の雷槍がバチッと火花を放った。

「おい、それは卑怯だろ」

 さすがに雷槍から何かを撃ち出そうとしたので、俺が制止の声を上げた。


 制止の声を無視した藤林は、雷槍から稲妻のようなものを撃ち出した。冗談じゃない。俺は地面に身を投げだして転がる。


 俺は小鬼区から草竜区に向かって走った。その後ろを藤林が追い駆けてくる。草竜区に入るとすぐのところに、小さな松林がある。そこに俺は飛び込んだ。


「いい加減にしろよ! そっちが殺す気で来るなら、こっちも本気を出すぞ」

 俺が松の木の後ろに身を隠して叫ぶ。

「ふん、君にできるかな」


 俺は足元に落ちている大量の松笠まつかさと呼ばれる松の種子を拾った。俺の『投擲術』はスキルレベル8になっている。あまり使わなかったのだが、守護者を倒した時に自動的に上がったのだ。


 藤林が、雷槍の穂先を俺に向ける。稲妻が飛んできた。だが、松の木に命中して、俺にはダメージはない。

「これでも喰らえ」

 俺は松笠を投げた。信じられない速度で飛んだ松笠が、藤林の顔に命中し鼻を押し潰した。


「ひぃぎゃ」

 面白い声を上げた藤林が、ひっくり返った。木刀で戦っていた時は凄いと思ったのだが、卑怯な手を使い始めた藤林は、がっかりだ。


「ぎざまぁ、殺してやる」

 藤林は頭に血が上り、操術系の大技を出そうとする気配が伝わってきた。それは悪手だった。大技は発動するまでに時間が掛かる。


 俺はもう一つの松笠を全力で投げた。投げた瞬間、空気抵抗で種子がバラバラになって、散弾のように藤林の顔に突き刺さった。


 藤林が悲鳴を上げた。その頃になって、竜崎とエレナ、美咲が追いついた。

「一体、どうなったんだ?」

「松笠を投げただけだ」

「本当だ。突き刺さっているのは松の種子よ」


 竜崎が藤林の様子を見て、勝敗は決まったと思った。

「勝負ありだな」

「違う、まだだ。私は負けていない」


 藤林が雷槍を持って襲ってきた。藤林の槍術は、レベルマックスにはなっていないようだ。雷槍を手に入れてから、『槍術』スキルを取得したのだろう。


 雷槍を棍棒で受け流す。手にビリッと電気が走り、棍棒を取り落した。藤林が血塗れの顔でニヤリと笑う。その瞬間、俺は素早く藤林の懐に飛び込み後ろに回り込むと、首に手を回して締め上げた。


 スリーパーホールドという絞め技である。スリーパーホールドは本気で締め上げると、素人は一秒も耐えられないと言われている。


 その絞め技が完璧に決まった。藤林は雷槍を手放し、俺の腕を掴んで外そうとする。だが、完璧に決まった絞め技を外すのは難しい。


 藤林は冷静に考えられなくなっているようだ。意味もなく暴れ、その動きが弱々しくなってぐたっとなる。それを見た竜崎が宣言した。

「今度こそ、決まったな」



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