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scene:77 双頭巨人

 翌朝、俺たちは大蜘蛛区の転移ドームへ行った。そして、全員で食料エリアへ転移する。

「うわっ、これが食料エリアか」

「凄え!」


 高校生コンビの土田と石渡は、目の前に広がる景色を食い入るように見ている。俺はストーンサークルの柱の数を数えた。


「ここの柱は一五本か」

 周囲を見渡すと見覚えのある山が目に入った。北の方角だと決めた蓬雷山である。ランドマークとして決めたいくつかの山が見える角度から計算して、耶蘇市の転移ドームから転移する場所は南西の方角にあるようだ。


「あれは何です?」

 神部が大きな声を上げた。神部が見ている方角に目を向ける。

「あれは甲冑豚だ。あいつの肉は旨いんだ」


 俺たちは甲冑豚一匹を狩り、プチ芋を収穫した。神部たちに食料エリアでの収穫方法を教えるためだ。それから、食料エリアのあちこちを歩き回り、危険な異獣について説明した。


 この食料エリアには、ピンクマンモスと巨虎がいると教えた。

「ピンクマンモスは近付かなければ大丈夫だと思う。巨虎は手に入れたスキルを駆使すれば倒せるだろう」


 食料エリアで五時間が経過し、俺たちは長田市へ戻った。

 遅くなった昼食を食べてから、獣人区へ向かった。オークとコボルトを相手として、神部たちに実戦経験を積ませるためである。


 一時間ほどオークとコボルトを狩る神部たちを見守っていたが、大丈夫そうだったので、午後から別れて、河井のレベルアップを行うことにする。


「残っているのは、大蜥蜴区・巨人区・ゾンビ区だな。どれにする?」

「決まっているだろ。大蜥蜴区だ。ゾンビや巨人の守護者なんかと戦えるか」


 ゾンビ区の守護者は弱そうなんだが、美咲とエレナは絶対に手伝ってくれないだろう。臭いが強烈なので、正直俺も嫌だ。


 大蜥蜴区の守護者は、巨大なトカゲだった。だが、予想とは少し違い二足歩行するエリマキトカゲを巨大にしたような化け物だった。


 しかも、相手はドラゴンのように炎を吐き出す能力を持っており、俺たちは逃げ回ることになった。

「コジロー、何とかしろ!」


「お前の『五雷掌』は使えないのか?」

「近付こうとしたら、丸焼けになるだろう。『操闇術』の【闇位相砲】は使えないのか?」

「使ってもいいけど、俺が倒すことになるぞ」


「そりゃあ、ダメだ。そうだ、祝福を受けた爆裂矢なら」

 河井と俺がエレナの方を見ると、悲鳴を上げながら美咲と一緒に逃げ回っている。


「エレナもダメそうだな。うわっ、こっちに来たぞ」

 守護者がこちらに向かって炎を吐き出した。俺たちが囮になって逃げ回っている間に、エレナと美咲が攻撃する準備を終えた。


 エレナの祝福付き爆裂矢が守護者の腹に命中して爆発。よろけた守護者が並木に向かって倒れ、その木をへし折った。


 次に美咲が【氷槍雨】を守護者に向けて放った。上空から氷柱つららが雨のように降り注ぎ、守護者に突き刺さる。突き刺さった氷柱は、そこから強烈な冷気を放ち守護者の表面を凍らせた。


 守護者の動きが遅くなった。

「ミチハル、行け!」

「任せとけ」

 大剣を振り上げた河井は守護者に駆け寄り、その右足を斬り飛ばした。半分凍りついた守護者の肉体は脆くなっていたようだ。


 守護者が仰向けに倒れ、河井が駆け寄り守護者の腹に【地雷】の蹴りを叩き込む。【地雷】は衝撃波を生み出し体内の臓器を破壊した。


 その一撃が守護者の息の根を止めた。今回の戦いで『操氷術』の攻撃が爬虫類系の異獣に効果的だということが分かった。


 河井は守護者を倒した褒美として、『五雷掌』をマックスレベルにした。そして、レベルアップの苦痛に耐えてから、制御石の選択をする。

 その選択で、河井は『縮地術☆☆☆』のスキルを手に入れた。


 河井が『縮地術』を選んだのは、大剣でヒット・アンド・アウェイの攻撃をしようと考えたからだった。一瞬で敵に肉薄し大剣の一撃を加え、一瞬で離れる。そういう攻撃ができれば、大きな敵でも倒せると思ったようだ。


「全員のレベルが上がったし、これからどうする?」

 河井の問いに、美咲が答える。

「コジローの必殺技を見てみたいのよ」


 俺は何のことを言っているのか分からなかった。

「『操闇術』の【闇位相砲】よ。空に向かって放ったのは見たけど、威力が分からないので使えるかどうか判断できなかった」


 海に向かって【闇位相砲】を放とうと思ったが、元漁師である武藤から止められた。近くの海で試すと魚が居なくなるかもしれないという。


 俺たちは巨人区に向かった。巨人区の守護者で試そうというのである。

 巨人区にいる異獣は、サイクロプス。身長三メートルの単眼の化け物で、手には金棒を持っていた。


 サイクロプスを一撃で倒すことは難しいが、何度も攻撃を加えて倒すことはできた。だが、サイクロプスでもタフなのだ。これが守護者だったらと考えると不安になる。


「コジロー、本当に巨人区の守護者を倒せるのか?」

 河井が確認した。

「大丈夫だ。【闇位相砲】には、それだけの威力が有る。但し、もしものために備えて、美咲の【絶対零度】も準備しておいてくれ」


 巨人区の守護者は、広大な果樹園の中にいた。体長五メートルの双頭の巨人であり、その姿を見た俺たちは、正直恐怖を覚えた。


「コジロー、大丈夫なんですか?」

 エレナが不安そうな声を上げる。河井も不安そうな顔でこちらに視線を向けている。


「やってみなけりゃ分からない。一撃でダメなら逃げるからな」

 俺は【闇位相砲】の用意を始めた。【闇位相砲】を放つためには溜めの時間が必要だ。時間にして一〇秒ほどなのだが、動かないで精神を集中する必要があり、普段の戦いで使えるような攻撃手段ではなかった。


 双頭巨人は俺たちを見下ろして、ニタリと笑う。こいつの武器は、鋼のワイヤーをり合わせたような鞭だった。長さ一〇メートルほどの鞭で、双頭巨人が一振りして地面を叩くと、地面に大きな溝が出来て土煙が舞い上がる。


「ヤバイ、ヤバイぞ」

 河井が叫ぶ。叫んだことで、双頭巨人の注意を惹いたようだ。河井目掛けて鋼鉄の鞭が振り下ろされた。


「うわっ!」

 河井は必死で避けた。それが気に入らなかったのか、双頭巨人はもう一度攻撃しようとする。


「ミチハル、避けろ!」

 俺は【闇位相砲】の準備を完了させ、双頭巨人の頭を目掛けて発動する。突き出した拳の先に漆黒のエネルギーが生まれ、それが双頭巨人に向かって放たれた。


 何かを感じた双頭巨人は防御するように鞭を持っていない手でガードしようとした。だが、その手を漆黒エネルギーが飲み込み、巨大な二つの頭を食らって上空に消えた。


 残った首から下の巨体が動きを止めたまま数秒だけ立ち尽くし、ゆっくりと倒れた。俺の頭に、どの部位を残すか尋ねる声が響く。


 俺は鋼鉄の鞭を残すことに決めた。その途端、強烈な痛みが全身を襲う。歯を食いしばって耐え、痛みが治まるのを待つ。


「凄い威力だ。荷電粒子砲みたいな技だった」

「頑丈そうな守護者だったのに、一撃で倒すなんて強力な攻撃ね」

 美咲と河井が感想を言い合った。


「ふう、やっと痛みが消えた」

「コジロー、守護者を倒した褒美は何だったの?」

 美咲の質問に、俺は全てのスキルがアップしたと答えた。


「次は制御石の選択か……何にするかな」

 河井がニヤッと笑って、

「『操地術』が便利だぞ」

「絶対、嫌だ」


 俺は分裂の泉に飛び込んで、制御石に触れた。そして、『操磁術』のスキルを手に入れた。泉から上がった俺が『操磁術』を取ったと報告すると、エレナが首を傾げた。


「どうしてです? 『操雷術』の方が強力な攻撃ができそうに思えますけど」

 俺は双頭巨人が残した鋼鉄鞭を拾い上げようとして顔をしかめた。やたら重いのだ。それでも持ち上げてエレナに見せる。


「こいつを武器にしようと思ったんだ」

 強力な攻撃方法なら【闇位相砲】がある。双頭巨人が地面を鋼鉄鞭で叩いた時に出来た溝を見て、これを使いたいと思ってしまった。だが、そのままでは重すぎて使えそうにない。


 そこで『操磁術』を使うことを思いついたのだ。



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