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scene:76 ノルマ達成

 俺は銀山町の探索者を見回した。これでガーディアンキラーになっていないのは、水瀬のみになった。長田市の中央を通る線路の南側で残っているのは、ゾンビ区だけである。


 水瀬もゾンビだけは嫌っていたので、北側へ行くしかない。

「それじゃあ、駅の北側に行こう。駅前は大蜥蜴区だったな」

 大蜥蜴区の異獣は、コモドオオトカゲを大きくしたような化け物だ。それから推測すると、守護者は巨大なトカゲだろう。


「守護者の居場所を確認する」

 大蜥蜴区の守護者は、駅前にあるスーパーマーケットの大きな駐車場に居るようだ。気配からすると、草竜区の守護者並みの強さがあるようだ。


 水瀬には無理だろう。俺たちは東に向かった。途中、大トカゲと遭遇する。体長四メートルほどの大トカゲで足には鋭い爪、大きな口に鋭い牙が並んでいる。


「ワニ並みにデカイな。気を付けろ」

 河井が声を上げた瞬間、大トカゲが突進を始めた。短い足で長い胴体を揺らしながら迫って来る大トカゲは、かなり怖い。


 水瀬は悲鳴を上げて逃げ出した。

「自分に任せろ」

 河井が大剣を振りかざし、大トカゲに迫ると頭に振り下ろした。大剣はかなり深い傷を負わせたが、大トカゲは死ななかった。


「こいつの頭は硬いぞ」

 そんな感想を言っている河井に、大トカゲが全身を捻り尻尾で薙ぎ払う。その尻尾が河井の胴に決まり、弾き飛ばされた。


 俺は急いで大トカゲに突進して、擂旋棍を叩き付ける。大トカゲの首を旋刃が抉り、トドメを刺した。急いで河井を確かめる。


「大丈夫か?」

「ああ、ちょっと打ち身が出来ただけだ」

 転がった河井が起き上がって、尻尾で叩かれた腹の部分を確かめた。くっきりと痕が付いており内出血しているようだ。


「大丈夫じゃない。ポーションを飲んどきなさい」

 美咲が河井の内出血の度合いを見て言った。それを聞いた神部たちが驚いた。

「コジローさんたちは、ポーションを持っているんですか?」


 一般的にポーションの元になる木属性の心臓石を残す異獣のテリトリーを持つ町は少ないらしい。神部たちの銀山町にも木属性の心臓石を残す異獣は居ないので、ポーションは貴重であるという。


「耶蘇市には、トレントが出る樹人区があるからな。怪我をした時には言ってくれ」

「羨ましいな」


 大トカゲと戦いながら東へ進む。大蜥蜴区を出て、遭遇した異獣は巨大なカタツムリだった。この巨大カタツムリは、攻撃されると殻の中に閉じ籠もってしまう。


 石渡と土田が金属バットで巨大カタツムリの殻を全力で叩いた。薙刀ではなく金属バットを使っているのは、薙刀だと刃が潰れるかもしれないと思ったからだ。


「はっ!」「ほっ!」「てあっ!」

 大型の洗濯機ほどもある巨大カタツムリがピンク色の煙のようなものを吐き出した。金属バットで叩いていた二人は、慌てて逃げ出す。


 このピンク色の煙は毒なのだ。

「ダメだな。やっぱり『操炎術』のスキルでも使わないとダメか」

 新しいスキルは手に入れたばかりなので、大した能力や攻撃技を使えない。二人にとって、一番強力な攻撃方法が『操炎術』なのだ。


「コジローさん、『操炎術』の【爆炎撃】を試そうと思うんですけど、いいですか?」

「いいよ。どんどん試してくれ」

 俺は巨大カタツムリを石渡と土田に任せて、高みの見物をしていた。美咲とエレナ、河井も見物している。


 石渡が【爆炎撃】を使って巨大カタツムリを攻撃した。爆発した炎が消えた時、少し煤けているが元のままの巨大カタツムリの姿があった。


「呆れるほど丈夫だね」

 神部が溜息を吐いた。蝸牛かたつむり区の守護者も倒せそうにないので、水瀬も困った顔をしている。


 美咲の提案で、【爆炎撃】でなく【炎射】を試してみた。火炎放射器から放射されたような炎が、巨大カタツムリを焦がす。そして、しばらくすると巨大カタツムリから水蒸気のようなものが漏れ出し、最後には消えた。


「巨大カタツムリは、蒸し焼きになって命を落としたか。分かってみれば、簡単な方法で倒せたんだな」

「火で倒せるのなら、守護者も倒せるかもしれません」

 水瀬が嬉しそうに声を上げた。


 俺たちは路上や駐車場に残っている車からガソリンを集め、守護者を探した。大きな寺で守護者の気配を感じて境内に入る。守護者の気配から、それほど強い守護者ではないようだ。


「なあ、コジロー。カタツムリは虫なんだろ?」

「いや、貝とかイカとかタコの仲間だったはずだ」

「そうなんだ。でんでん虫って言うから、虫だと思っていた」


「それがどうしたんだ?」

「だから、守護者がどんな化け物かな、と思ってさ」

「俺は単純に、超巨大なカタツムリだと思っていたんだけど……タコとイカの仲間か。でも寺は陸上だからな」


 よもや、陸上にタコやイカが現れるとは、思ってもみなかった。だが、予想に反して守護者は、タコの化け物だった。


「せっかくガソリンを集めてきたのに無駄だったか」

「ガソリンは燃料として使えますから、無駄じゃないですよ」

 エレナが俺を慰めるように言う。こういうのは嬉しいな。


 巨大タコとの戦いが始まった。俺たちがタコの足を一本ずつ切り離し、動けなくなった守護者を、水瀬の攻撃で仕留めた。トドメとなったのは、『操地術』の石槍により巨大タコの目を貫いた攻撃だったらしい。


 守護者を倒した褒美は、任意のスキルをマックスレベルまで上げるというものだ。水瀬は『操地術』をマックスまで上げ、制御石の選択では『操雷術』を手に入れた。


「これで最低限のノルマを達成できたな」

 俺がホッとして言うと、美咲が鋭い視線を向けてきた。

「食料エリアへのドームがまだ見つかっていないのよ」

「そうだった」


 俺たちは神部たちを鍛えながら、長田市にある全ての異獣テリトリーを調査した。蝸牛区の東隣は巨人区だったので諦め、大蜥蜴区の西を調査して、魚人のテリトリーである魚人区だと分かった。


 魚人区の守護者は、サメ頭の魚人だった。俺が擂旋棍で弱らせたところを、エレナが精霊の祝福を付与した爆裂矢で射抜いて爆死させた。


 エレナは所有するスキルのレベルを全て一つアップして、制御石の選択で『八段錦』を取得した。

「とうとう、エレナに個体レベルで抜かれたか。私も頑張らないと」


 美咲は有言実行だった。魚人区の西隣にあった大蜘蛛区の守護者アラクネーを倒し、守護者を倒した褒美で『操氷術』をマックスレベルにした。そして、制御石の選択で『上級知識(氷)☆☆☆☆』を手に入れて、『操氷術』に関する全ての能力と攻撃技が使えるようになった。


「『操氷術』のスキルレベル8・9は、どんなものなんだ?」

 俺が尋ねると、美咲が微妙な顔をする。

「スキルレベル8は【絶対零度】よ。狙ったものに含まれる熱を全て奪い取る能力みたい。そして、スキルレベル9は、【氷神召喚】よ。これは『操闇術』の【消滅渦】と同じでヤバいものよ。なるべくなら使わない方がいいようね」


 食料エリアのドームは、大蜘蛛区の高校で発見された。

 全員がドームに入り、神部たちが床に描かれている転移模様に気を取られている間に、俺はここのリンク水晶を手に入れ、耶蘇市のリンク水晶を嵌め込んでロックした。


 これで耶蘇市と長田市の間で行き来できるようになる。


「凄えな。ここに足を踏み入れれば食料エリアに行けるのか」

 土田が目を輝かせて転移模様を見ている。石渡も同じようで、俺の方へ視線を向けた。

「コジローさん、入ってもいいですか?」


「ダメだ。一度食料エリアに入ると、五時間は帰ってこれなくなるんだ。今日は遅いから明日にしよう」

 時計を見ると午後四時が過ぎている。拠点に引き返す時間だ。


 急いで引き返した俺たちは、学習塾で夕食を作り食事を済ませた。

「これで、県から依頼されたこともやり遂げたし、俺たちのレベルアップも終わった。後はゆっくりとするか」


 河井が立ち上がって、俺を睨む。

「ちょっと待て、何か忘れていないか?」

 俺が首を傾げると、河井が俺の頭上に空手チョップを振り下ろそうとする。


「うわっ、どうした?」

 俺が慌てて受け止め尋ねる。

「俺のレベルアップがまだだろ。忘れるんじゃねえ」



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